日本言語聴覚士協会ホープページに掲載されている会員動向によると、会員が対象としている障害(複数回答可)は次のようにあり、聴覚障害に携わる言語聴覚士(ST)は非常に少ない現状がうかがえます。

摂食・嚥下14176人、成人言語・認知14197人、発声・発語13980人、小児言語・認知4480人、聴覚2033人

そのため、STが耳鼻科で働くイメージをもちにくい方も多いのではないかと思います。

今回はそんな耳鼻科で働くSTについて、その職務内容や働き方についてまとめましたのでご紹介します。

1.言語聴覚士(ST)が耳鼻科で求められる役割

耳鼻科で働くSTはまだまだ少ない現状ではありますが、総合病院、大学病院、耳鼻科クリニックなどの勤務先があります。

日本耳鼻咽喉科学会が行った、耳鼻咽喉科診療所医師を対象とする「ST 雇用の実態調査2019」の集計結果には、STの業務内容は以下の通りに示されています。

言語聴覚士の職務内容(複数回答可)は、発声・音声障害40.7%、摂食・嚥下障害25.4%、成人の言語・認知障害17%、小児の言語・認知障害40.7%、聴覚障害83.1%、平衡障害18.7%、
無回答0.00%

聴覚障害や音声障害、嚥下障害に加え、成人や小児に対する言語や認知面へのアプローチが求められていることが分かります。

2.言語聴覚士(ST)の耳鼻科での仕事

耳鼻科で働くSTの仕事内容について、障害別に見ていきましょう。

聴覚障害

まずは、耳鼻咽喉科で採用されるSTのほとんどが求められる聴覚障害についてです。

患者さんの特徴

聴覚障害の原因は、先天性の難聴、中途失聴、老人性難聴など多岐に渡り、担当する患者さまの年齢も様々です。

基本的に、それぞれのライフステージにおける社会生活の中で、聞こえないことによる困りごとを解消するお手伝いが主となりますが、中には発達障害や重複障害の方もいらっしゃいます。

耳鼻科で多いSTのアプローチ

具体的には、各種聴覚検査、補聴器や人工内耳などの補聴機器の調整、コミュニケーションを改善する訓練的なアプローチを行います。

お子さんには、言語や知能の発達検査を行い、コミュニケーション全体の評価や訓練を行う場合もあります。

チーム医療の中で求められる役割

聴覚検査は臨床検査技師や看護師も行いますし、補聴器は認定補聴器技能者やメーカー担当者も調整を行います。また、コミュニケーションを改善するアプローチは難聴児通園施設やろう学校が主となり指導が進められます。

そのため、耳鼻科に勤めるSTは医療的治療と協働、聴力や認知面、ご本人の意向などを統合し、個々に必要なコミュニケーションという視点が大切になります。

聴覚と発音は密接に関連していますので、きこえとともに発話や構音へのアプローチを行ったり、口話や文字変換システムなどを活用した総合的な情報保障手段を検討します。

また、それを医療現場にとどめることなく小児の聴能言語訓練などの教育場面と医療をつなぐ架け橋として情報提供を行うことが求められます。

摂食・嚥下障害

次は約4分の1のSTに求められる摂食嚥下領域における仕事をみていきます。

患者さんの特徴

脳卒中後遺症、神経筋疾患、口腔や咽喉頭の腫瘍術後の方など、様々な疾患の方が対象になります。年齢も小児から高齢者まで幅広く対応します。

経口摂取が難しく胃瘻や経鼻胃管、点滴などによる代替的栄養を行っている患者さまや、
食形態や摂食姿勢の調整が必要な患者さまなど、重症度も様々です。

耳鼻科で多いSTのアプローチ

リハビリテーション科で担当する嚥下障害患者さんと同様に、嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査への同席や、各種嚥下機能検査、嚥下訓練を担当します。

耳鼻科以外で経験しにくい、嚥下機能改善手術や頭頚部癌に対する治療後の患者さまを担当することもあります。嚥下に関連する口腔や咽喉頭の形態が手術により変化するため、他科で担当する嚥下リハに比べて、嚥下方法の再学習を支援するという側面が強くなります。

チーム医療の中で求められる役割

摂食嚥下障害に対するリハビリテーションは、医師・看護師・栄養士・PT/OTなどとの協同が最も求められる分野です。

耳鼻科で働くSTは、口腔・喉頭・咽頭機能リハビリの専門家として、医師とともにチームを主導してリハビリテーションを行います。

音声障害

次に、半分弱のSTが期待された音声障害について解説していきます。

患者さんの特徴

過緊張発生や変声障害などの機能性音声障害、喉頭の組織異常、炎症性疾患、神経筋疾患などにより音声障害を呈した患者さまなど、高齢者のみならず若年層の方も担当する機会があります。

会話明瞭度が低下している方や発声に困難がある方はもちろん、症状は軽いもののご本人が声に対して不全感を抱いている方も担当することがあります。

耳鼻科で多いSTのアプローチ

声質改善・声の高さと強さの調整・呼吸の調整などの症状対処訓練、または包括的訓練などの発声行動の生理的側面へのアプローチを行います。

それと同時に発声に関する基礎理解の促進、誤った発声行動および生活習慣の修正などの声の衛生指導を担当します。

チーム医療の中で求められる役割

音声障害の治療には、外科的治療や薬物治療などの医学的治療と、STなどが担当する行動学的治療(音声治療)があり、両者が協働して成り立つものです。

生理的なフィードバックが重要なため喉頭鏡などを医師と共に行い、生理学的な知見を発声行動に結び付け、社会復帰までを支える患者さんのパートナーとしての役割が求められます。

小児の言語障害

最後に、音声障害と同じような割合で求められる小児言語障害についてご紹介していきます。

患者さんの特徴

言葉発達の遅れを指摘されたお子さんや、構音障害、難聴のお子さんの言語・コミュニケーション面への評価・訓練を担当します。

きこえと言葉の発達には密接に関連するため、言語発達や構音の問題があるお子さんが最初に受診するのが耳鼻科である場合も少なくありません。

耳鼻科で多いSTのアプローチ

言語発達遅滞にお子さんに対しては、知的発達も含めた各種検査を行い、発達段階に合わせた言語あるいは非言語コミュニケーションを促進するかかわりを行います。

また、機能性構音障害や難聴児に対する構音訓練を担当することもあります。

チーム医療の中で求められる役割

お子さん本人、親御さんへの指導を医療のみならず、教育や福祉と協働して実施していくことが求められます。

難聴がみつかった場合には、難聴児通園施設などにつながれるよう情報提供を行いますし、構音や言語発達に問題がある場合にはどこでそのリハビリを行うかを福祉などと調整します。

耳鼻科での勤務イメージ

求人を見かけることのある耳鼻科クリニックで働く場合の勤務イメージを挙げました。どのような1日を過ごすかの参考にしてみてください。

時間業務内容
08:30~09:00出勤、準備
09:00~09:30ミーティング、カルテチェック
09:30~12:30臨床業務
12:30~13:30昼休憩
13:30~16:30臨床業務
16:30~17:30カルテ記載、書類業務
17:30~退勤

3.言語聴覚士(ST)が耳鼻科で働く魅力

一般病院や回復期リハ病院、介護施設などでは、言語コミュニケーション障害や摂食嚥下障害に対するリハビリに注力できる一方で、聴覚障害へのリハビリに対応できる体制がほとんど整っていません。

そのため、医療ベースで聴覚障害に対するリハビリに携わりたい方は、耳鼻科で働くことになるでしょう。

また、嚥下障害や音声障害の患者さまに対して、耳鼻科医と共に内視鏡・喉頭鏡などで喉頭や声帯の形態や動態を直接観察しやすいのも耳鼻科で働く魅力です。

私が回復期リハビリテーション病院に勤めていた際には、耳鼻科医師が大学病院から往診に来ており、嚥下障害の患者様の内視鏡検査やVF検査画像の確認、音声障害の患者様の喉頭鏡での評価などをお願いしていました。

嚥下機能改善手術の患者さまの手術に立ち会わせてもらう機会もいただき、実際に喉頭の枠組みや咽頭喉頭の解剖や筋肉などを見ることで、摂食嚥下訓練でアプローチしている部位や筋が飛躍的にイメージしやすくなった経験があります。

このように耳鼻科医師とSTが協働することで、患者様へのリハビリテーションの質を大きく高めることができるのが、STが耳鼻科で働く一番の魅力だと私は感じます。

4.まとめ

今回は、耳鼻科で働く言語聴覚士(ST)の職務内容やその魅力についてまとめてみました。

STが耳鼻科で働く魅力は、聴覚障害に携われる職場であることに加え、嚥下や音声などの医学生理学的な検査や知見を得られることが挙げられます。

耳鼻科の求人に出会うことは多くはありませんが、言語聴覚士という名の通り、耳鼻科領域での活躍もしていきたいものです。

今回の記事が皆さんの職場選びの参考になると幸いです。
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【引用サイト】
日本言語聴覚士協会 会員動向 会員が対象としている障害
耳鼻咽喉科診療所医師を対象とする「ST 雇用の実態調査2019」の集計結果