高齢化社会に伴い、言語聴覚士(ST)をはじめとしたセラピストの数も増加傾向にあります。病院など医療の分野だけでなく、ここ数年は福祉や教育など活躍の分野を広げていますが、需要を供給が上回る可能性もないとは言えません。
今回はSTがこれからも必要とされていくために必要なスキルと、STのこれからについて解説します。
目次
1.言語聴覚士(ST)の将来性
STの将来で不安な点として考えられる点として需要と供給のバランスが挙げられます。同じリハビリ職である理学療法士(PT)や作業療法士(OT)に比べるとSTはまだ少ないのが現状ですが、これから資格取得者数が増えるということは十分に考えられます
言語聴覚士の国家試験は、過去5年平均で毎年1800人ほど合格しており、2024年現在、有資格者の累計は4万1,000人程度と増え続けています。人数が増えることによってSTの数が飽和状態になり、就職の競争が激しくなることや、給与待遇が低迷する可能性が考えられます。
給与に関してはリハビリテーションに関する診療報酬の引き下げが続いていることなどもあり一概には言えませんが、就職施設に関しては、近年STの活躍の場が医療だけでなく、介護や教育などの分野に拡大しています。
摂食・嚥下障害や認知症よるコミュニケーション障害など介護施設での需要や、言語・発達障害に関する教育施設での需要などが特に増えてきており、まだPT・OTだけでSTが介入していない施設も多数ありますので、当面は需要があると考えられます。
また、ほかの業界と同じくリハビリ業界でもAI化が進むと考えられています。具体的には、患者さんの症状の分析や診断の一部、リハビリのプログラムの作成などをAIが担当することが考えられます。
しかし、AIが行う機械的な診断だけでは、ちょっとした患者様の様子の変化への気付きや患者様の生活に寄り添ったリハビリの提供は不十分である可能性が高く、リハビリのモチベーション維持のために、AIの力も活用しつつ、最終的には人間が行うというのが理想的です。
STの将来についてさらに詳しく知りたい、という方にはこちらの記事がおすすめです。
2.言語聴覚士(ST)として生き残るために必要なスキル
活躍の場が増えることで需要は高まりますが、分野の幅も広がるため、求められるスキルもより多くなっていきます。これからSTが生き残っていくために、高めておきたいスキルについて解説します。
コミュニケーション能力を高める
どの分野に就職するにも、絶対的に必要なスキルがコミュニケーション能力です。施設にもよりますが、STの対象は小児から高齢者までとても幅広く、コミュニケーションに障害を抱えている方も多くいます。
そのため、様々な障害に悩む患者様と限られた時間の中で信頼関係を築き、円滑にリハビリを行うためには、STがしっかりとリードして、患者様の希望(ニーズ)や不安などを引き出す必要があります。
リハビリを進めていくと同時に、表情や会話の内容から心の状態を察知し、時にはゆっくりとした時間を設け、心的サポートするなどのバランスも重要です。
このコミュニケーション能力や相手の心情を察する力はたくさんの患者様や家族と接する経験によって、より綿密なものとなっていきます。また、STが得る情報は理学療法士(PT)や作業療法士(OT)など他部門と情報を共有するうえで、有益な情報源となります。
STは個室でのリハビリが多く、他の職種に比べて、患者様と密なコミュケーションがとれる職種ですので、日ごろからコミュケーションのあり方について意識しておくと効率的に能力向上が図れます。
専門性を高める資格を取得する
就職や転職の際には、STとして働くにあたって有益な資格を取得している方が、活躍のチャンスも増え、施設にとってより欲しい人材と言えます。
STの数が増えていけば、必然的に人気の施設の倍率は高くなります。若手で経験が乏しいことは仕方のないことですが、向上心を持って積極的にスキルアップしたり、臨床経験を積んでいかないと、STとして成長できず、就職・転職の際の競争にも負けてしまいます。
ST一人ひとりが向上心を持って臨床に取り組むことで、結果としてST全体の質の向上にも繋がるため、社会的にSTが生き残るためにはより高度な専門性、できれば誰が見ても能力を証明しやすい資格として取得していくと良いでしょう。
言語聴覚療法以外への興味・関心を高める
先にも挙げたようにSTはコミュニケーション能力の高さが重要です。これは内向的な性格が向いていない、ということを意味しているのではなく、セラピスト側がどれだけ患者様と共通の話題・趣味を持っているか、自身が経験してきたことを臨床にどれだけ還元できるかがポイントになります。
STの評価は患者様の性格や生活スタイル、これまでの人生経験などその人となりを踏まえたうえで、評価を進めていく必要があるため、臨床とは関係ないような経験であっても、様々な話題を引き出す手段や会話のきっかけとして役に立つ場面が多々あります。
具体的には患者様との共通の話題をきっかけに、会話の時間が増えてコミュニケーションがとりやすくなったり、リハビリの時間が楽しみになるなど参加意欲の向上にも繋がり、雰囲気の良い環境作りができます。また、工夫の仕方次第では訓練に取り入れることも可能です。
このように、自身の経験をコミュニケーションツールとして活用する方法が身に着けば、STとしてより幅広い分野での活躍が望めます。
人間観察力を高める
発達障害や失語症、認知症など、コミュニケーションに障害を抱える方の中には、自身のことをうまく伝えられず困っている、という方も多くいます。そのような患者様とコミュニケーションをとり、信頼関係を築くためには、ささいな変化にも気付くことができるようなセラピストの気遣いが必要です。
STのリハビリは患者様をよく観察し、障害や問題点について「なぜその現象が生じているのか」を考えることから始まります。
介護分野や教育分野などスタッフが利用者様とのコミュニケーションに悩んでいる現場も多くありますので、小さな変化を見抜く観察力を培うことで、現在STが介入していない施設にも活躍の場が期待できます。
3.言語聴覚士(ST)が生き残るためにできる事
STがこれから社会で生き残っていくためには、スキルアップなどSTの質を上げていくことも大切ですが、STという仕事がどのようなものかを知ってもらうことが重要です。
「リハビリ」と聞いて想像した場合、骨折など怪我をした際に受ける運動系のリハビリを想像する人がほとんどで、STが提供しているような摂食嚥下や言語障害、発達障害などのリハビリを知っているという人は、まだまだ少ないというのが現状です。
STの名称には「言語」と「聴覚」が含まれているため、言葉や聴こえに関する仕事ということは想像ができますが、もっと複雑な仕事であるということは、医療職であっても十分に理解されていない、と現場でも感じることがあります。
仕事内容が理解されていなければ、STが活躍できる場面があっても、STに頼るという選択肢は出てきません。さらに活躍の場を広げて需要を作っていくためにも、医療業界内だけでなく、一般社会にも目を向け、STという職種をアピールしていくことが必要です。
そのために1人のSTとしてまずできることは、STの仕事を自分自身が理解し、STのあり方について考えたり、自分なりの理想像を持つことです。
STに対する自分の考えをしっかり持ち、積極的に発信してSTの存在意義をアピールいくことが、周囲のSTの仕事への理解を促し、需要を高めていくことに繋がります。
4.まとめ
言語聴覚士(ST)は医療を中心に、介護・教育と活動の幅を広げつつあります。しかし、理学療法士(PT)や作業療法士(OT)に比べると知名度も低く、数も多くありません。
これらを逆手に取り、STの幅広い専門分野という強みを活かすことができれば、これからもっと需要を伸ばし、活躍していく可能性は十分にありますので、できることから少しずつ始めてみませんか。
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