言語聴覚士(ST)として様々な経験を積むにつれて、自身の興味のある分野についてのスキルをより高めたり、自分の足りない分野のスキルを身に着けたいと考えるようになる方も少なくありません。
事実、スキルアップすることで仕事の幅が広がり、本当に自分のやりたい分野で活躍できる可能性が高まります。また昇給や昇進などのキャリアアップや、仕事のやりがいにも繋がります。
今回はスキルアップの方法としてSTに関連する一般的な資格を得ることだけでなく、副業や転職を活かす方法についても解説していきます。
目次
1.言語聴覚士(ST)がスキルアップする方法
まずはSTがスキルアップする王道を6つご紹介します。リハビリの目標設定と同様にまずは最終的に自分がどうなりたいのかゴールを設定し、目標を達成するための小ステップを設定して進めていくと良いでしょう。
目標が定まれば準備を含め、すぐに動き始めることができるものも多いので、参考にしてみてください。
院内勉強会への積極的参加
勉強会では、聴講者としてだけでなく、発表者として積極的に参加してくことをおすすめします。
自身が発表する際にはテーマに合せて資料やスライドを作成する中で、これまでの知識だけでなく、より深い知識や自分の考えが必要となります。また、知識の乏しい新人さんや他部門の方でもわかるように解説するという過程は自身の理解を深めることに繋がります。
聞き手として参加する際も、治療法の知識以外に他のセラピストが患者様やリハビリに対してどのように考えて実施しているのかという考え方に加え、発表の際の資料の作り方、スライドの提示の仕方、話し方など、今後自身に活かせるできる気付きを得るようにすると良いでしょう。
勉強会以外でも日常的に治療についての情報交換や他部門と患者様の情報共有をしていくことも自身の治療をより良いものにしていくためにとても重要です。
県士会など地域の講習会の活用
それぞれの病院には、メインで対象とする疾患や介入の仕方など様々な点で違いがあります。講習会では地域の病院に所属する言語聴覚士(ST)がたくさん集まりますので、治療に対する勉強はもちろん、他院でのリハビリについて情報交換ができる良い場所となっています。
患者様に対する治療内容だけでなく、事務作業の効率化など仕事に関して困っていることについて相談してみると、良い発見があるかもしれません。他院のセラピストの良いところをどんどん吸収して、自身の力にしていくと良いでしょう。
また、交友関係が広がり他院の職場環境を知ることができますので、転職の際にも近隣の施設の情報を得やすくなります。
大学院で博士号を取得する
臨床で得た知識を活かしながら、研究を行うなどより深い知識を得るために大学院への進学という方法もあります。実際、私の周りでは学生から直接大学院に進むことはなく、現役STとして大学院で学ぶという方ばかりでした。
大学院進学は時間と学費がかかりますが、学習の環境が整っており、同志のSTが居たり、教授とのつながりができたりと人脈作りも可能です。また博士号を取得することで、履歴書にも記載することができるため、その後の転職にも有利になります。
ST向けの大学院は全国でも数が少ないのが難点ですが、カリキュラムに関しては社会人向けのものもあり、平日夜間と土曜日を中心としたカリキュラム設定、修業年限を延長できる長期履修制度などのサポートをしています。
大学院では、座学と症例や障害などを詳細に分析した論文の提出が中心です。臨床と並行して通学することで、病院や患者様の協力のもと、研究に必要なデータが得られます。
資格を取得する
スキルアップのためには資格を取ることもおすすめです。
目標が明確になることで、普段の勉強内容も資格取得に必要なものに絞れるため、より充実したものにしていくことができます。また、転職時にも自身の強みとなります。
STのスキルアップに適した資格は、職場環境や自身の興味のある分野など様々ですが、認定言語聴覚士や栄養サポートチーム(NST)専門療法士、呼吸ケア指導士、LSVT LOUD、介護福祉士、プロフェッショナル心理カウンセラーなどがあります。
こちらの記事ではSTにおすすめの資格について詳しくご紹介していますので、参考にしてみてください。
副業で知見を広げる
STとして臨床の知識や技術を深めていくことも大事ですが、より幅広い分野で活躍するために、副業などで視野を広げていくことでスキルアップするという方法もあります。
副業の例としては他施設での非常勤勤務アルバイト、同業者向けのセミナーの開催や一般向けの健康教室などが挙げられます。最近は対面せずに開けるオンラインサロンも人気です。
副業については2章で詳しく解説していますので、参考にしてみてください。
転職する
新しい環境へのチャレンジを考えている方は、思い切って転職するのもひとつの手です。慣れ親しんだ職場を離れて行くことは心配も多いかと思います。
しかし、職場環境が変わることで、これまで自分が得意と思っていたことが未熟であったと気付かされたり、苦手だったものが得意になるきっかけができたり、様々な変化が期待できます。
転職については3章で詳しく解説していきます。
2.おすすめの副業の選び方
現役の言語聴覚士(ST)の方の中には、これまで副業をしたことがないという人も多いと思います。ここでは、副業の例とともにどのようなスキルアップが狙えるかについてご紹介します。
非常勤勤務アルバイト
臨床の技術を学びたい方におすすめなのが、他施設での非常勤アルバイトです。
普段の臨床とは異なる環境、異なる対象者の方とのリハビリを通じて、コミュニケーション能力やリハビリの技術を高められます。
休日などを利用しての業務となりますので、実戦形式で学びたい方や体力に自信のある方におすすめです。
同業者向けのセミナーでの発表
ST同士で切磋琢磨しながらスキルアップしたい方には、休日を利用して開催される同業者セミナーへ発表者として参加するのもおすすめです。
院内で開催されるような勉強会のイメージで様々な施設から参加者が集うため、珍しい症例の発表を聞くことができ、自身も発表者となることで担当した患者様の症例に対してより深く考察する機会となり、知識を深めるきっかけとなります。
また、発表後の質疑応答では様々な角度からの質問を貰うため、自身にはなかった視点での考察も得られます。
一般向けの健康教室での講演
これまでに培ってきた技術やコミュニケーション能力をより高めたい方には、健康教室など一般向けのイベントでの講演がおすすめです。
病院や地域のST会の主催で地域住民に向けた健康セミナーでは、講演を行うことで手当が得られることがあります。主催者から講演を直接依頼されたり、院内の職員向け掲示板等で希望者を募っているので、興味のある方はご自身の施設や地域のST会などを調べてみてください。
同業者ではなく専門的な知識の乏しい一般の方を対象とすることで、コミュニケーション能力や一般の方にもわかりやすい言葉選び、指導方法などのスキルを学べます。
これらのスキルが高いと臨床の際にもリハビリ内容の説明や信頼関係の構築に役立ち、より良い雰囲気でのリハビリが展開できるようになります。
オンラインサロンの主催
オンラインサロンとは、ウェブサービスやSNSなどを使った会員制コミュニティのことで、専門知識の有無にかかわらず不特定多数の人との交流可能です。
オンラインサロンを主催することにより、隙間時間などを利用していつでも興味のあるジャンルについて情報のインプット、意見のアウトプットができるので、知識を深めたりスキルアップしたりすることにつながります。
また、同じ志を持つ仲間ができたり、より広い範囲での人脈づくりに役立ったりする可能性もあります。
3.スキルアップには転職もおすすめ
自身がどれくらいできるのかチャレンジしてみたいという方には、転職もおすすめです。
同じ職場で長く勤めることも大事ですが、転職して新しい環境で臨床を行っていくと、これまでに見えていなかった自身の得手不得手や、今までとは異なった言語聴覚士(ST)の役割に気付くなど新しい発見があるかもしれません。
この章では、状況別におすすめの転職先についてご紹介します。
全身状態の評価や初期評価能力をUPしたい
多くの患者様を診て経験を積みたい、初期評価数をこなして患者様の状態を見極める能力を向上したいという方には急性期病院がおすすめです。
患者様に安全なリハビリを実施するためには、看護師が記載するカルテなどから情報を得る、介入の際に随時バイタルをチェックするなど、全身の状態を把握しながら進めていくことが重要です。
他の施設でもそうですが、急性期では特に求められる能力と言えるでしょう。
また、急性期では積極的な机上検査などはできないことがほとんどですが、口腔ケアや食事形態の調整などSTの早期介入により全身状態の低下を防ぐなど、予後を変えられる可能性もあります。
そのため早期に介入し、医師や看護師、MRI画像などから得られる情報とST自身が行うインテーク(初回面接)などから得られる情報を頼りに、患者様の評価と並行して治療方針を決定していきます。
評価の流れとしては急性期も回復期も同じですが、急性期では限られた情報で、なおかつスピードが求められるため、多くの患者様を診て、経験を積むには急性期病院がおすすめです。
患者様の生活に寄り添ったリハビリをしたい
患者様の日常生活とじっくり向き合い退院後のゴール設定を見極める力を伸ばしたい、より患者様に寄り添ったリハビリの提案がしたいという方には、回復期病院がおすすめです。
回復期病院では患者様のニーズを取り入れつつ、自宅もしくは施設での退院後の生活を想定した目標を決定し、リハビリを行います。
具体的には検査結果などの評価や日常生活場面の様子から、障害の核となる問題点を導き出し、リハビリで残存能力の向上を図りながら、患者様の趣味活動などQOL(生活の質、生きがい:Quality of Life)も高めていくのが理想です。
同じ訓練でも患者様の趣味に合わせて変更してみたり、退院後に必要になりそうな事柄は何か想像力をフルに働かせて、患者様のニーズに合せたリハビリをしたい方におすすめです。
楽しみながらリハビリがしたい
入院でのリハビリ治療を終えたのちに重要となるのが、可能な限り退院時の能力を落とさないように維持していくことです。
ゲーム感覚でできるリハビリがしたい、みんなでワイワイ楽しみながら機能維持やQOLを高めたいという方には、集団リハを多く取り入れている通所リハや介護施設でのリハビリや、認知症予防や認知症トレーニングを目的とした教室を開業する方法がおすすめです。
集団リハでは複数のスタッフで全員の全身状態を把握しながら、利用者様全員が参加できるリハビリを提供します。
STは口腔機能や認知機能の維持を目的とした口腔体操や頭を使ったゲームようのようなリハビリを提供することが多く、生活介助も行うため、明るく元気で体を動かすのが好きな方にぴったりです。
STの知識を活かしてより広い分野で活躍したい
臨床を行うだけでなく、もっと幅広い分野で多くの知識をつけたい方は一般企業への転職を検討してみることもおすすめです。
STの転職先企業としては、補聴器メーカーや人工内耳に関する企業などが挙げられます。また、介護食や嚥下食を扱う食品メーカーでもSTの知識が活躍します。
ただ、学校や臨床で学んできた知識、経験だけではこれらの企業で働くために十分な知識とは言えません。これまでとは違う角度となる、補聴器や人工内耳に関する深い知識や、栄養、調理に関する知識など、その都度学んでいく努力が必要になるでしょう。
これまでとは違う環境で、新しい知識を付けてみたい、STとしての経験を活かしつつ新しいことにチャレンジしたい方は、病院や施設以外にも目を向けてみることをおすすめします。
PTOT人材バンクはスキルアップを考慮した上での転職サポートも行っておりますので、キャリアパートナーに遠慮なくご相談ください。
4.まとめ
今回は言語聴覚士(ST)のスキルアップについてご紹介しました。院内勉強会などすぐに始められるものから、時間と準備を要するものなど様々ですが、一番大切なことは「自分が将来どんなSTになりたいか」という目標設定です。
ただ手当たり次第に勉強会に参加したり、色々なものに手を出してみても、しっかりと身にならず、中途半端なものになってしまいます。
まずは臨床で行うリハビリと同じく「これを極める!」「こんな風になりたい」などゴールとなる最終目標と、「いつまでに○○ができるようになる」など最終ゴールを見据えた小さいステップでの目標を設定します。
これらをひとつずつクリアしていくことで、着実にスキルアップし、最終的になりたい自分を目指しましょう。
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