言語聴覚士(ST)にとって、成人の分野では脳血管疾患の患者様と同様に関わる機会が多い疾患が神経難病です。
今回は、そんな神経難病に対するリハビリテーションについて紹介させていただきます。病気の種類によって症状や介入の仕方が異なりますので、大まかにどんな指定難病があり、どのようにリハビリしていくのかをお伝えしていきます。
大変な部分もありますが、患者様に寄り添ったケアやリハビリをカスタマイズすることも多く、STとしてやりがいのある分野でもあります。
目次
1.言語聴覚士(ST)が神経難病に対するリハビリで求められる役割
神経難病に対するリハビリでは、入院して集中的に行う方もいれば、外来リハビリや訪問リハビリを行う方もおり、病気の進行度によって求められるケアが異なるため、STの介入の仕方も大きく異なります。
そもそも神経難病とは、体の神経や脳に発症する病気の総称で、いずれの病気にしても、発症の原因や治療法というのが現在のところ確立していない疾患のことで、パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症、脊髄小脳変性症、多系統萎縮症、多発性硬化症、重症筋無力症などが該当します。
病気の特性上、病気自体が改善することは難しいのですが、リハビリのやり方によって、今持っている言語機能や嚥下機能をなるべく維持するサポートができ、症状が進行したときに備えて、コミュニケーション手段を確立しておくことも。
また、徐々に体が思ったように動かなくなり、できないことが増えていく過程をともに経験するため、心理的な配慮や気持ちに寄り添う言葉や振る舞いも大切です。
神経難病の患者様に出会う場面は、急性期病院、回復期病院、老人保健施設、訪問リハビリなど多岐にわたり、それぞれの段階で介入期間は異なります。入院している患者様なら10日~最大で3か月ですし、老人保健施設や、訪問リハビリでは数年単位で関わることも多いです。
2.神経難病と向き合う言語聴覚士(ST)の仕事
次に神経難病の方へのリハビリの具体的な一日の流れの一例を紹介します。
勤務スケジュールやイメージ
病院や施設の勤務のスケジュールも、訪問リハビリのスケジュールもほかの疾患の方と大きな変わりはありません。パーキンソン病など一日の中で調子の良い悪い時間が分かれる人は、その人に合わせてリハビリの時間を変更する場合があります。
病院や施設の場合
時間 | 業務内容 |
09:00~09:30 | 朝礼、申し送り |
09:30~12:00 | 午前のリハビリ(1~3件) |
12:00~13:00 | 昼食(必要に応じて嚥下評価) |
13:00~16:30 | 午後のリハビリ(3~4件) |
16:30~18:00 | カルテ記入、連携業務、書類業務など |
18:00~ | 帰宅。日によっては勉強会 |
言語聴覚士(ST)による神経難病へのリハビリ
今度は具体的に疾患の紹介とのSTのアプローチの一例を紹介します。
ここでは代表例をお伝えしていきますが、コミュニケーション手段の確保・摂食嚥下機能の維持や進行に合わせた適切な食事形態、食べ方・経験栄養の導入のタイミングのフォローなど、STに求められることは多いです。
また、認知症を合併しやすい疾患の場合は、認知機能の維持に対して多岐にわたって評価やリハビリが求められます。
パーキンソン病
パーキンソン病は声の出しにくさ、小声、口部が大きく動かせずぼそぼそとした話し方、認知症の合併が症状として挙げられます。
全身の筋力も低下していき身体も筋固縮により固まりやすくなるため、徐々に嚥下障害も生じていきます。構音や声を大きく出す発声練習、摂食嚥下機能の練習を行います。
ちなみに、難病情報センターでは次のように定義されている病気です。
振戦(ふるえ)、動作緩慢、筋強剛(筋固縮)、姿勢保持障害(転びやすいこと)を主な運動症状とする病気で、50歳以上で起こる病気です。時々は40歳以下で起こる方もあり、若年性パーキンソン病と呼んでいます。
難病情報センターパーキンソン病 1.
脊髄小脳変性症
脊髄小脳変性症は舌や唇はもちろん、呼気や声帯のコントロールも難しくなるので、ことばのイントネーションがくずれたり発話が短く途切れます。
また、食事をとる動作や飲みこむタイミングも障害され、誤嚥性肺炎を生じやすくなります。発話の長さやイントネーションをコントロールする練習や、摂食嚥下機能の練習や食べやすくなるような環境調節を行います。
難病情報センターによると、次のように紹介されている病気です。
歩行時のふらつきや、手の震え、ろれつが回らない等を症状とする神経の病気です。動かすことは出来るのに、上手に動かすことが出来ないという症状です。
難病センター脊髄小脳変性症 1.
筋萎縮性側索硬化症
脳萎縮性側索硬化症は、意識や感覚は保たれているのに、運動だけが障害されていく病気です。
口部や顔面、喉や呼吸筋も徐々に影響を受けてくるので構音障害や発声障害、嚥下障害に対するアプローチが求められます。コミュニケーションノートや透明文字盤、パソコンなどの専用ソフトウェアを使ったコミュニケーション手段の確立も重要な役割です。
難病情報センターでは、次のように説明されている病気です。
“手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだんやせて力がなくなっていく病気です。しかし、筋肉そのものの病気ではなく、筋肉を動かし、かつ運動をつかさどる神経(運動ニューロン)だけが障害をうけます。”
チーム医療の中で求められる役割
神経難病のケアを行うには、チーム医療が非常に重要となります。
ドクターや看護師にはリハビリの進捗状況や、今できること・できなくなっていることを明確に伝え、薬の調整や栄養確保の手段の検討など正確な治療ができるための情報提供が必要です。
言語機能の改善には全身状態や体幹機能などそもそもの体力も重要なので、理学療法士(PT)・作業療法士(OT)と連携して、身体の動作機能の把握や、筋肉のこわばりなどによる痛みが生じやすい部分の確認などが大切です。
3.言語聴覚士(ST)が神経難病と携わる魅力
神経難病のリハビリは、細かな変化に気づけるような観察力や、患者様が求める生活ができるよう体質や生活に合わせて、コミュニケーションや食事場面で工夫する必要が多いので、より深い専門的な知識が求められます。
やることが多く、大変かもしれませんが、場合によっては年単位で長く患者様に関わることができる分野でもあるので、患者様に寄り添ったケアができることが魅力です。
その人に会ったリハビリをカスタマイズして関われるのでSTの腕の見せ所です。
また、難病に関する研究だけでなく、フォローするための福祉用具やコミュニケーション機器も年々新しものが出てきますので、最新情報をキャッチしながら臨むことができ、面白く、やりがいを感じやすいと思います。
4.まとめ
神経難病とは、体の神経や脳に発症する病気の総称で、いずれの病気にしても、発症の原因や治療法というのが現在のところ確立していない疾患のことを言います。
病気の特性上、病気自体が改善することは難しいのですが、リハビリのやり方によって、今持っている言語機能や嚥下機能をなるべく維持できることもあり、症状が進行したときに備えて、コミュニケーション手段を確立しておくことや食事の楽しみを継続できます。
神経難病の方のリハビリは、病院や施設、訪問リハビリのスケジュールもほかの疾患の方と大きな変わりはありません。
言語聴覚士(ST)としては、患者様の細かな変化に気づけるような観察力や、患者様が求める生活ができるよう患者様ごとの体質や生活に合わせて、コミュニケーションや食事場面で工夫する必要が多いので、より深い専門的な知識が求められます。
長期間関わたるケースもあるのでやりがいを感じやすく、スキルアップできる貴重な経験になると思います。
今回の記事が皆さんの職場選びの参考になると幸いです。
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