作業療法士が精神科で働くことはイメージしやすいと思いますが、言語聴覚士(ST)はどうなのか気になる方も多いのではないでしょうか。

実は、STも精神科で求められる職種であり、必要性も高い職場と言われています。

そこで今回は、STが精神科で求められる役割と勤務内容について紹介していきますので、参考にしていただけたら幸いです。

1.精神科で求められる言語聴覚士(ST)

はじめに、精神科で求められるSTの分野や基本的な役割についてについて紹介します。

また、精神科と混同されやすい科目として心療内科があるので、こちらの違いについても合わせて説明していきます。

基本的な役割

精神科でのSTの役割は、成人分野と小児分野で大きく二つに分けることができ、成人であれば摂食嚥下機能、小児の場合は発達障害に対するアプローチが中心となります。

成人に対しては、セルフケアへの関心低下による口腔ケア不足、向精神薬の副作用などによる、摂食嚥下障害に対応することを求められることが多いです。

また、厚生労働省障害保健福祉部がまとめたデータによると、入院患者の約2割は75歳以上とあるため、加齢による機能低下や過去の疾患の後遺症に対しての言語聴覚療法が求められると考えられます。

同データによると、精神科に入院する方の約1割はアルツハイマー型や脳血管性認知症であるため、認知症の評価やリハビリも必要とされるでしょう。

小児領域である児童精神科や児童思春期精神科で求められるSTの役割は、主に発達障害に対するアプローチです。

ことばが出にくい子どもには絵カードや音声を使って言葉の意味や使い方を教えたり、社会性の発達にサポートが必要な子どもに対しては、時系列で出来事を整理して、人の気持ちを一緒に想像したりします。

ただ、発達段階や心理的疾患に伴って、なんらかの形で構音・発声機能障害、摂食嚥下機能障害を併発していることも多く、小児分野の全般的な知識が必要とされるのがリアルな現状です。

心療内科との違い

ちなみに、「こころの病」を取り扱うという点で精神科のほかに「心療内科」という医療分野を耳にしたことがある方もいると思います。違いが分かりにくいため、就職先を探す際に混乱する方もいらっしゃるかもしれないので簡単に違いを説明させていただきます。

精神科とは、心が原因で心に症状が出ている患者様を診る診療科目です。疾患名の例は統合失調症・薬物依存症・アルコール依存症・うつ病(感情障害)・認知症などが挙げられます。

それに対して心療内科では、心が原因で身体に症状が出ている患者様を診ます。例で挙げるとストレスによる胃腸炎・気管支ぜんそくなど心身症があります。

具体的な疾患名をみるとわかりやすいと思いますが、STの就職先としては、心療内科ではなく精神科だと言えます。

2.精神科での仕事内容

さて、今度は具体的な言語聴覚士(ST)の業務内容について紹介していきます。

前章でお伝えしたように、成人分野では主に摂食・嚥下障害や認知症に対するリハビリ、小児分野では発達障害に対するリハビリや個人の発達段階に合わせた構音・発声機能、摂食嚥下機能のリハビリを行います。

成人分野

成人分野では、先ほどご紹介したように「摂食・嚥下機能のリハビリ」のニーズが高く、食事や飲み物を安全に摂取するための評価やリハビリをします。口部や咽頭の筋力や嚥下反射の異常を確認し、意識レベルや食事に対する注意向けがしやすい環境を整えます。

精神症状や薬効によって意識がぼんやりしてしまう結果、口に力が入らなくなり筋力が低下して発話不明瞭となることもあるため、唇や舌の運動や発声訓練を行い、口腔の機能改善も合わせて行います。

さらに、成人の精神科ではアルツハイマー型や脳血管性認知症の方も入院されているため「認知症に対するリハビリ」も行います。

認知機能検査(HDS-R・MMSE)を使った評価や観察からの評価を使って認知機能の全体像を把握し、回想法・見当識の確認、注意機能訓練などを行い認知機能の低下を予防します。

小児分野

小児の分野では、発達障害情報・支援センターで定義されているような、自閉症やアスペルガー症候群、その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害など、いわゆる「発達障害」に対するリハビリを行います。

対象児のことば、コミュニケーション、認知、感覚面などを総合的に評価し、子どもの得意なことや苦手なことを整理します。発達段階や日常生活の問題に合わせて、課題を調整してリハビリします。

3.言語聴覚士(ST)が精神科で働く魅力

精神科での治療は複雑で繊細です。さまざまな理由から社会での生きにくさを感じている患者様も多く、自分の気持ちをうまく表現することができない方もいらっしゃいます。

そのため、精神科で働くことは、観察力や察する力がとても鍛えられ、コミュニケーションの繊細さを培うことができます。

また、成人分野も小児分野も治療やリハビリに時間を要することが多いため、長期的に患者様と関わり、じっくりと一人ずつ向き合うことができます。

一人ひとりの生活や背景に合わせてサポートする必要があるので、患者様の成功体験や社会復帰の場面を共有できた時は療法士の喜びも大きい仕事だと言えます。

4.まとめ

言語聴覚士(ST)の精神科での役割と勤務内容は、成人分野・小児分野に大きく分けられ、摂食・嚥下機能リハビリや発達障害に対するアプローチが求められることが多いです。

精神科と似ている分野として心療内科が挙げられますが、こちらは心身症に対する治療のためSTの就職先とは異なる分野となっています。

精神科での仕事は、観察力や察する力がとても鍛えられ、コミュニケーションの繊細さを培うことができます。ひとりひとりとじっくり向き合い、成功体験を積み重ねて社会復帰を目指すことができるやりがいのある仕事だと言えます。

今回の記事が皆さんの職場選びの参考になると幸いです。

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【参照サイト】
厚生労働省障害保健福祉部が厚生労働省「患者調査」などから作成した「参考資料」
発達障害とは | 国立障害者リハビリテーションセンター