新しく患者様が入院してきたら病態を把握する必要がありますが、いきなりすべての検査をするわけにはいかないため、問診やスクリーニング検査を通して大まかな病態を把握することからスタートします。
ただ、こうした検査を通して今後どのような検査が追加で必要になるのか、言語聴覚士(ST)としてどのように介入していくべきかが見えてきます。
今回の記事では、STが行うスクリーニング検査について解説していきます。
目次
1.スクリーニング検査とは
スクリーニングとは、「ふるいわけ」を意味しますが、その言葉通り、新しく入院してきた患者様の病態について、障害の有無や程度を短時間で大まかに把握していくものとなります。
言語聴覚士(ST)で行うスクリーニング検査には、嚥下障害、失語症、音声・構音障害、認知機能低下や高次脳機能障害などをみていくものがあります。
2.スクリーニング検査の3つのポイント
はじめに、スクリーニング検査のポイントについて、3つに分けて説明していきます。
ポイント①.短時間で必要な情報を収集する
スクリーニング検査は、STだけが行うものではないため、患者様に負担をかけすぎないためにも、短時間で必要な情報を収集する必要があります。
予測された障害については後日細かく精査していくため、スクリーニングの段階で必ずしも正確に把握し、障害の程度などまで断定する必要はありません。あくまで、大まかな全体像として把握することが大切です。
ポイント②.ラポートをしっかり形成しつつ行う
患者様にとっては、検査をされるということは、心地の良いものではありません。医療現場では、信頼関係の構築を「ラポート(ラポール)の形成(構築)」と呼ぶことが多く、患者様と関わる上で大切にしていることの一つです。
初対面で信頼関係が十分にできていない中でぐいぐい検査をすすめてしまうことは、不快感を与えかねずリハビリや介護拒否にも繋がることがあります。しっかりとコミュニケーションをとりつつ、無理のない範囲で進めていくことが大切です。
ポイント③.事前情報を必ず確認する
事前情報には、現病歴の他に既往歴も記載されているため、その患者様の病態を知るためにも必ず確認しましょう。
現病歴や既往歴を把握することで、どのような障害があるのか予測を立てることができます。また、義歯の有無や食事に関する情報などは、嚥下障害の程度を知る目安となります。
3.スクリーニング検査の作り方
スクリーニング検査には決まった形式はなく、病院や施設ごと、もしくは個人で自由に作成したものを用いていることが多いです。
言語聴覚士(ST)としてみるべきポイントを書き出し、そのポイントに合わせた項目を作り、評価用紙としてまとめていきます。
次章から、下記4つのスクリーニング検査について詳しくご紹介していきます。
・嚥下障害のスクリーニング検査
・発声・発語器官のスクリーニング検査
・失語症のスクリーニング検査
・高次脳機能・認知機能のスクリーニング検査
4.嚥下障害のスクリーニング検査
まずは、嚥下障害のスクリーニング検査で主に行われているものを紹介していきます。
反復唾液嚥下テスト(RSST)
唾液の嚥下を促し、30秒間の間に起こる嚥下回数を数え咽頭期の障害を評価します。
用意するもの:ストップウォッチ
改定水飲みテスト(MWST)
3mlの冷水を嚥下させ、嚥下運動およびプロフィールから咽頭期の障害を評価します。
用意するもの:3ccのメモリが分かるシリンジ、冷水
水飲みテスト
常温30mlを注いだ水を普段通りに飲むように促し、水を飲み終わるまでの時間に加え、むせや湿性嗄声があるか、口からこぼれるかなどの状態を観察し、嚥下運動やプロフィールから咽頭期の障害を評価します。
用意するもの:30mlの水、コップ
食物テスト(フードテスト)
茶さじ1杯(約4g)程度のゼリー等の半固形物を用いて実際に嚥下を促し、むせや呼吸変化が無いか、口腔内残差がないかを観察します。
用意するもの:エンゲリードゼリーなどの離水しにくい半固形物、ティースプーン
5.発声・発語器官のスクリーニング検査
口唇、頬、舌、顎の動きを直接観察し、麻痺や筋力低下の有無、協調運動は行えているかなどを見ていきます。次に、発声持続はどの程度行えるか、鼻息鏡を用いて鼻咽腔閉鎖機能はどうか、開鼻声や嗄声の有無なども評価します。
また、「パ」「タ」「カ」「ラ」をそれぞれ反復して言っていただき、音に歪は無いか、リズムは一定か、音の渡りは低下していないかを確認します。
そして、実際の会話場面での構音の様子から、発語器官に筋力低下や可動性の低下、協調性の低下などが無いかを見ていき、発話明瞭度を評価していきます。合わせて、食事場面で咀嚼や送り込みの状態も確認していきます。
用意するもの:ペンライト、鼻息鏡、舌圧子、ストップウォッチ
6.失語症のスクリーニング検査
失語症のスクリーニング検査は、理解面と表出面に分けて説明していきます。
嚥下障害のスクリーニング検査のように標準的な検査はないため、言語聴覚士(ST)が自身で準備する、もしくは病院などにある既存のものを使用することが多いです。
理解面の検査
理解面では、理解力が単語レベルなのか、短文レベルなのか、会話まで可能なのかなど、どの程度の理解ができるかを見ていきます。
また、聴覚的理解と読解(文字からの理解)で差があるのかも合わせて評価します。
用意するもの
・6~8枚の絵カード、または、あらかじめ6~8種の絵が印刷された用紙
・6~8語の文字単語(漢字/仮名)が印刷された用紙
・3~5文節の短文が印刷された用紙
絵カードポインティング
4~6枚の絵カードを並べ、読み上げた単語を指差ししていただき、単語の理解力を見ていきます。
次に文字単語を見せ、その単語に対応する絵カードを選んでいただき、読解での理解力もテストしていきます
短文の復唱
3~4文節程度の短文の復唱を行って頂き、聴覚的な把持力を見ていきます。
会話の様子などから、言語理解が単語レベルなのか、短文レベルなのか、長文や会話での理解も可能なのかを評価していきます。
口頭命令、書字命令
「右手で左耳に触ってください」など、その場で行える簡単な指示を出し、適切に行えるか見ていきます。
聴覚、読解ともに行い、短文レベルの理解力があるのかを確認していきます。
表出面の検査
表出面では、語想起(言葉を想起すること)はどの程度行えるか、喚語困難や発語失行といった失語症の症状有無などを見ていきます。また、理解面同様に、表出は単語から会話レベルの間でどの程度できるのかも評価します。
用意するもの
・絵カード
・6~8語の文字単語(漢字/仮名)が印刷された用紙
・3~5文節の短文が印刷された用紙
・白紙と鉛筆
理解面の検査で用いた物を使用するとスムーズに行いやすいです。
呼称・語列挙
呼称では、絵カードをみながらそれが何なのかを答えていただき、単語レベルでの語想起がどの程度行えるかを評価します。
呼称がスムーズに行える方は、語列挙をしていきます。
野菜や動物などのカテゴリーの単語を何語想起できるか行い、語想起や語の流暢性を見ていきます。
単語(漢字、仮名)、短文の音読や復唱
単語や数行の文章を読んでいただき、音読は可能かどうか、錯読はあるか、発語失行の有無や表出の様子を見ていきます。
また、3~4文節程度の短文の復唱から、把持力の他に、語想起が低下していても、復唱なら行えるなど発話の様子も合わせて評価します。
氏名、住所の書字
氏名や住所の書字から、書字が障害されていないか見ていきます。
字体の崩れがある場合、下記にある図形模写から、構成障害による影響か、失語症の影響か鑑別をしていきます。
7.高次脳機能・認知機能のスクリーニング検査
一般的なスクリーニング検査では、絵カードポインティングや短文の音読を通し、適切な箇所に注意が向けられるか、読み誤りはないかといったことから、注意障害があるかを見ていきます。
次に復唱課題を用いて、どの程度なら記憶できるかという即時記憶をチェックします。
最後に、白い紙に透視立方体などの図形模写を促し、構成障害の評価を行います。
この他にも、高次脳機能・認知機能のスクリーニングとして有名なものはいくつかありますので、代表的なものを3つご紹介します。
長谷川式認知症スケール(HDS-R)
医師の長谷川和夫によって作成された簡易的な知能検査で、認知症のスクリーニング検査として用いられています。
30点満点で、9つの質問から構成されており、質問に答えることで見当識、計算、記銘力、語想起など短時間で幅広く評価することができます。MMSEと合わせて用いることが多いです。
ミニメンタルステート検査(Mini Mental State Examination:MMSE)
認知症の診断用に米国でフォルスタインらが開発した質問セットです。
30点満点の11の質問から構成されており、見当識、計算、記銘力、語想起、図形的能力をテスト形式で評価します。HDS-Rと類似した検査で、短時間で実施が可能です。
トレイルメイキングテスト(Trail Making Test:TMT)
数字を順番に線で結ぶpartAと、数字と五十音を交互に線で結ぶpartBから構成されており、それぞれ所要時間を測定します。
所要時間の長さや、誤反応の有無などから、注意機能全般や、ワーキングメモリ、空間的探索力、処理速度や保続の有無、衝動性の有無など幅広く評価できる検査です。実施が簡易な為、スクリーニングとして行う病院も多いです。
8.まとめ
スクリーニング検査を行うことで、短時間で病態を大まかに把握することができます。しかし、病態をすべて把握できるわけではありません。
中には、スクリーニングテストが全く行えないような、覚醒レベルの低下している方、重度に低下している方、拒否が強くて実施できない方も多くいます。
患者様の全体像をしっかりと把握していくためにも、入院生活の食事場面や生活場面や会話の様子などから合わせて、総合的にどのような障害があるのかを評価していくことが大切です。
今回の記事が皆さんの職場選びの参考になると幸いです。
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