言語聴覚士(ST)は、コミュニケーション障害や嚥下障害などをお持ちの方を援助する魅力的な仕事である一方で、対人支援職ならではの悩みや辛さがあるのも事実です。
さらに配置人員が十分でなく、多くの業務や責任を1人で抱えている上に給与が見合わないなど、退職や転職を検討されるSTさんもいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、STの離職率や良くある離職の原因などをまとめました。もし、今の職場に対して満足度が低いようであれば、この記事を参考にその原因を明確にしてはいかがでしょうか。
目次
1.言語聴覚士(ST)の離職率データはない
厚生労働省や日本言語聴覚士協会に問い合わせを行うなど、言語聴覚士(ST)の離職率に関するデータを探しましたが、公的なものやそれに近しいものは公表されていませんでした。
そのため今回は、理学療法士協会のデータやリハビリを含む専門職の合算データなどを調べてみましたので、次章で解説していきたいと思います。
また、離職率は勤めている職場や事業所を辞める率であり、STを辞める率ではありませんので、これから目指す学生はあまり不安にならないでくださいね。
2.リハ職や医療職のデータで考える離職率
まず、理学療法士協会の調査と厚生労働省による離職に関する調査の結果を見てみましょう。
言語聴覚士(ST)の離職率は15%程度!?
少し古いデータになりますが、理学療法士協会の調査によると理学療法士の2013年~2015年の3年間の平均離職率は医療機関で10.2%。介護福祉領域で18.8%でした。
デイサービスなどの介護福祉領域が高いですが、理学療法士や作業療法士の需要は高く転職しやすいため、離職率が高い傾向にあるかもしれません。最近ではSTも同様の傾向があるので、経験則ではありますが、同じような数字になると思います。
また、2018年に行われた厚生労働省の調査によると、医療・福祉職の離職率は15.5%で、常用労働者全体の離職率である14.6%より少し高いという結果でした。
ちなみに、2018年の調査でもっとも離職率が高かったのは「宿泊業・飲食サービス業」で26.9%。次いで「生活関連サービス業・娯楽業」の23.9%、「サービス業(他に分類されないもの)」の19.9%でした。
正直、私の働いていた施設では毎年離職者が出ていて、リハビリは転職が多い職種だと感じていたため少し意外でした。職場にもよると思いますが、全体的な数字で見ると医療・福祉職の離職率が他の職種と比べて特別高いわけではないようです。
離職のピークは2年~5年未満
厚生労働省が2019年に行った調査によると、資格を持って専門職として働く場合、勤続2年~5年で離職する人が多いという結果でした。
6か月 未 満 | 6か月~ 1年未満 | 1年~ 2年未満 | 2年~ 5年未満 | 5年~ 10年未満 | 10年 以上 | |
2019年の離職者数 | 153400 | 141500 | 189500 | 343000 | 220900 | 262100 |
このデータは専門的・技術的職業従事者として集計されており、言語聴覚士の他にも、理学療法士、情報工学研究員、医師、薬剤師、看護師、歯科衛生士、保育士、司法書士、写真家、プロデューサー、教員など、様々な職種の人のデータが含まれます。
私の周りでも入職後3~5年で転職する方が多かった印象です。一方で、新卒から同じ職場に勤めて病院の中核になっている方も多いので、個々によって働き方や職場に対して求める事柄が異なるのだと感じています。
平均勤続年数6.5年
厚生労働省が調査している賃金構造基本統計調査によると、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、他の機能訓練士の平均勤続年数は6.5年であり、男女での差はありませんでした。
他の職種と比べると平均勤続年数は少ない傾向にありますが、STは国家資格化から日が浅く、勤続年数が最長20年ほどにしかならないため、平均勤続年数が引き下げられている可能性が高いと思われます。
個人的な感想にはなりますが、国家資格化前からSTとして働いている方は、同じ職場で数十年にわたり活躍されている方も少なくない印象です。
3.言語聴覚士(ST)が職場を辞める理由
最後に、STが離職する理由について考えてみたいと思います。今回は良くあるSTの離職理由を4つに分けて整理しました。
キャリア系
さらなるリハビリ技術向上や現在と異なる分野を目指したい場合などで、研修が充実している施設に転職したり進学のために離職されるケースです。
- キャリア/スキルアップしたい
- 退院した後のリハビリを診たい
- 違う分野を診たい
- 病院をかえたい
家庭系
業務を覚えることに必死になって熱心に働いていると、ワークライフバランスを崩しがちです。とくに熱意で乗り越えられる最初の数年間の働き方が常態化してしまうと、ライフイベントに対応できずに離職に繋がりやすくなります。
子育てに理解がある職場に転職したり、パート勤務に切り替える場合もあります。
- 家庭を大事にしながら働きたい
- 将来の事に対す漠然とした不安
- 子供もいずれほしい
管理職系
病院の理念や経営方針に違和感を覚えたり、管理職として活躍したいのにポストが無い場合などを理由に離職される方もいらっしゃいます。
- 今の病院・施設の方向性と合わない
- 経営にかかわりたい
- 自分の理念に基づいた施設を運営したい
人間関係
一緒に働くSTとの関係性に悩む方が多いようです。また、理学療法士や作業療法士から見下されているように感じたり、医師や看護師などに言語聴覚療法の専門性を理解してもらえないなど、苦しい立場に立つ場合も少なくありません。
- スタッフ間の人間関係になじめない
- 過度にきつく指導される
- 他職種からSTの専門性を理解してもらえず、うまく関われない
労働環境
STはスタッフ数が少ないため、多くの職務を任せられる立場になりやすく、日々の業務をこなすことで精いっぱいで体力的にもメンタル的にも疲弊してしまうことがあります。
- 残業が多く、拘束時間が長い
- サービス残業が常態化している
- 単位数のノルマがきつい
- 昼休みが取れない
- 日曜祝日も含めたシフト制で予定が立てにくい
- 通勤時間が長い
4.まとめ
ここまで言語聴覚士(ST)の離職率や良くある離職理由について見てきました。
職場を辞めること自体は決して悪いことではありません。退職理由が明確であれば、対処方法が分かりますので、やめたあとにどうするかを同時に考えておくことで満足度の高いキャリアを継続しやすくなるのではないでしょうか。
ご希望の条件に合った転職先が見つかるように、しっかりとお手伝いさせて頂きますので、お困りの際はPTOT人材バンクのキャリアパートナーに遠慮なくご相談ください。
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【参照サイト】https://www.ptotjinzaibank.com/st/tensyoku-column/post/hard/
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