LSVT®(Lee Silverman Voice Treatment、リーシルバーマン療法)とは、主としてパーキンソン病の方に対して実施される治療法のひとつです。もともとは声量低下に焦点を当てたものでしたが、現在は音声発話障害に対するLSVT® LOUDと運動障害に対するLSVT® BIGの2つに分けて用いられています。
言語聴覚士(ST)はLSVT® LOUDを用いて、パーキンソン病による声量低下に悩む患者様に対して声を大きく出す訓練を行い、日常会話の音声と発話の改善を目指します。
今回はSTが扱うLSVT® LOUDについて、治療内容のほか、資格の取得方法や活用方法について詳しく解説します。
目次
1.LSVT® LOUDとは?パーキンソン病患者に特化した音声治療法
パーキンソン病の症状として身体の動きが遅くなる(無動・寡動)、手足がふるえる(振戦)、手足の筋肉がこわばる(固縮)、倒れやすくなる(姿勢反射障害)の4つがあります。
LSVT®は身体の動きが遅くなる症状に対して、音声および身体運動訓練の役割をもつリハビリプログラムです。
ここでは言語聴覚士(ST)が音声訓練として用いるLSVT® LOUDについてみてみましょう。
LSVT® LOUDの定義と特徴
LSVT® LOUDは、パーキンソン病の音声および発話障害に対する治療法として、レベル1のエビデンスと有効性を確立され、その他の神経障害にも適用可能な初めての発話治療法です。
パーキンソン病の方は症状が進行すると、動作や発声が鈍く小さくなります。他者にその症状を指摘されることで一時的に改善されますが、自覚が乏しく、自己修正は困難です。
声のかすれなどに対する一般的な音声障害に対する治療では、リラックスするように指導する、適切な発声方法について訓練するのに対し、LSVT® LOUDではとにかく声を大きく出す習慣を身につけ、日常会話の音声と発話の両方を改善していきます。
治療の有効性に関するエビデンスは、信頼性が最も低いレベル6から、信頼性が最も高いレベル1まであります。その違いは研究デザインの種類による信頼度の差で、エビデンスレベルとは、できるだけ真実に近い、良質なエビデンスを得るための手法の確かさの基準となります。
レベル1のエビデンスでも絶対的にそれが真実だと保証できるものではないという点に注意すべきではありますが、レベル1のLSVL® LOUDはパーキンソン病に対する音声発話治療として信頼性の高い治療法であるといえます。
(出典:医療法人社団 北斗わかば病院 LSVT BIG&LSVT LOUDをもっと詳しく LSVT LOUD の内容と効果)
LSVT BIG®との違い
LSVT® LOUDとLSVT® BIGはどちらもパーキンソン病により身体の動きが遅くなる症状に対する治療法で、資格認定を受けたセラピストとともに4週間の訓練スケジュールに沿って進めていきます。
また、大きな動きや発声から日常生活をより円滑にしていくという基本的な考え方や機能改善を目的とする点は同じですが、対象とする機能と担当セラピストが異なります。
LSVT® LOUDは声量の低下や発音の不明瞭さなど音声機能の改善を目的としており、言語聴覚士(ST)が実施するのに対し、LSVT® BIGは歩行、姿勢、動作の硬さなど運動機能の改善を目的としており、理学療法士(PT)や作業療法士(OT)が実施します。
項目 | LSVT LOUD | LSVT BIG |
対象 | 音声機能の改善 | 運動機能の改善 |
対象者の課題 | 声量低下、発音の不明瞭さ | 歩行、姿勢、動作の硬さなど |
実施者 | 言語聴覚士(ST) | 理学療法士(PT)、作業療法士(OT) |
2.どんな患者に有効?LSVT® LOUDの効果
LSVT® LOUDはパーキンソン病に対する治療法として開発されましたが、声量および発話明瞭度の低下とその自覚症状が乏しいという問題を抱える他の疾患の方々にも適応となる場合があります。
例えば進行性核上性麻痺(PSP)などの非定型パーキンソニズムや、脳卒中、多発性硬化症に起因する言語障害のある成人のほか、脳性麻痺およびダウン症の子供にも有効であるとされています。
LSVT® LOUDは声量の増大を主な目的としていますが、大きな声での発声訓練を繰り返し、日常場面で自発的に使用できるようになることで、発話明瞭度が上がり、周囲とのコミュニケーション能力の向上になります。
さらに、口腔機能全般の向上により摂食嚥下機能の改善や、腹圧を十分に高める力がつくため、誤嚥リスクの軽減にも繋がり、結果として生活の質(QOL)が向上するという利点があります。
(出典:LSVT GLOBAL HP | WHAT IS LSVT LOUD?)
3.言語聴覚士(ST)がLSVT® LOUDを取得する方法
LSVT® LOUDは商標登録がされており、治療効果を国際的に維持するため、臨床で行うためにはいくつかの条件を満たす必要があります。
まず言語聴覚士(ST)であることが前提
STが訓練としてLSVT® LOUDを実施するためには、LSVT Globalが主催するオンラインによる事前学習と2日間のワークショップの受講、認定試験での合格が必須となります。
このワークショップの受講はST資格を有していることが第一条件であり、学生で受講を希望する場合もSTの養成校に通っている学生のみで、ST資格を取得するまでは仮認定となります。
(出典:新潟リハビリテーション大学 HP LSVT®認定講習会に関するQ&A Q1、Q5)
LSVT® LOUD認定プログラムの概要
LSVT® LOUDの認定を取得するためのプログラムにはオンラインの事前学習と対面での認定講習会があり、日本では年に1回開催されています。
オンラインの事前学習では、指定された期間中にパーキンソン病についての知識のほか、パーキンソン病における音声治療の概要について学びます。復習問題などもあり、この事前学習を終了していないと次の認定講習会への参加はできません。
認定講習会では講師によるデモンストレーションを受けた後、詳細な訓練内容についての指導を受けます。認定講習は2日にわかれており、講師は米国人で同時通訳しながらの講義のほか、参加者同士での演習やスタッフとの模擬訓練も交えながら進んでいきます。
講習会後に行われるLSVT® LOUD認定試験に合格し、アンケートに回答することで認定資格を得ることができます。認定試験に不合格となった場合でも再試験料を納付し、再試験を受けることも可能です。
認定試験はオンラインで実施され、50問の選択問題、84%以上で合格となります。認定取得者は本人の希望があれば、LSVT® Globalが管理するLSVT®認定取得臨床家名簿に名前を掲載されます。
(出典:新潟リハビリテーション大学 HP LSVT® LOUD認定講習会 アジェンダ)
プログラムの受講方法
LSVT® LOUD認定講座受講の申し込みは日本の事務局は新潟リハビリテーション大学となっていますので、新潟リハビリテーション大学や企画運営会社であるLSVT® GLOBALより問い合わせ・申し込みが必要です。
(参考:新潟リハビリテーション大学 LSVT®)
LSVT® LOUDの公式サイトであるLSVT® GLOBALではオンライン式、バーチャルライブ式、対面式での申し込みも可能ですが、英語、イタリア語、ドイツ語などでの受講となります。
(参考:LSVT® GLOBAL HP)
費用や所要時間
2024年度の参加費用は新規受講者で79,000円、学生が50,000円となっています。認定資格既得者は40,000円で、オンライン契約書の提出は必須ですが、自分が聴講したい講義だけ出席することができ、事前学習や模擬訓練への参加も自由です。
(参考:新潟リハビリテーション大学 HP LSVT®認定講習会【LSVT® LOUD認定講習会】、LSVT®LOUD Q&A Q7)
認定のために必要な日数は約3時間のオンラインによる事前学習と2日間の対面講習会、受講後に受ける認定試験で、最短で3日(事前学習と講習会を受講後、当日中に試験に合格した場合)です。
(参考:新潟リハビリテーション大学 HP LSVT® LOUD認定講習会 アジェンダ)
申し込みは開催の約半年前に情報公開され、100人程度の募集ですが、募集人数に到達次第、終了となります。
認定証の取得方法
2021年度認定講習会より、電子媒体(PDFファイル)での発行へ移行しており、全ての履修を完了、認定試験合格後、LSVT® GLOBALが確認後に学習ポータルサイト「Learn Upon」にてダウンロードが可能となります。
(参考:新潟リハビリテーション大学 HP LSVT®認定講習会Q&A Q9)
4.言語聴覚士(ST)がLSVT® LOUDを現場で活かす方法
LSVT® LOUDは定められたスケジュールで訓練を進める必要があり、本人の訓練意欲や改善の見込みなどいくつかの条件があります。実際、臨床の場ではどのように扱われているのかご紹介します。
病院やリハビリ施設など臨床での実際は?
LSVT® LOUDは医師により改善の見込みがあると判断され、訓練意欲のある患者に対し、4週間の入院もしくは16回の通院による集中的な個別訓練と毎日の宿題(セルフトレーニング)を行います。
そのほかに、病状が安定していること、声かけにより声の大きさに変化が生じることがLSVT® LOUD導入の基準となります。
全ての条件をクリアし、LSVT® LOUDのプログラムそのものを提供できるパーキンソン病患者は限られているため、LSVT® LOUDの課題の一部や手法をあくまでも参考にしたアプローチを提供することもあります。
LSVT® LOUDのように十分な腹圧をかけて発声する訓練を行うことで、呼気筋力の向上のほか、小声やかすれ声、抑揚の乏しさ、不明瞭な構音などの改善が見込まれます。また、これらの症状に悩む方は嚥下障害を併発していることが多く、誤嚥したものを吐き出す力も低下しているため、誤嚥性肺炎の予防としても必要な訓練と言えます。
パーキンソン病をはじめとした神経難病に対するSTの臨床の流れや役割については、こちらの記事を参考にしてみてください。
言語聴覚士(ST)による神経難病のリハビリテーションや役割
在宅ケアや地域医療での応用は?
前項でも解説したように、LSVT® LOUD適応には様々な条件があり、在宅での実施は困難です。しかし、高齢化が進む地域ではパーキンソン病症状に悩む高齢者も多いため、病院などで行っているように課題の一部や手法を応用した訓練は十分に役立つと考えられます。
他職種との連携
LSVT® LOUDが適用、あるいは一部を応用した訓練が有効であると評価した場合には、理学療法士(PT)や作業療法士(OT)が実施するLSVT® BIGによる運動機能改善も有効となる可能性もあります。
STとPT、OT、そして看護師や家族など、患者様に関わる人たちと訓練場面や日常生活での変化など情報を共有し、訓練内容に反映させていくことが全体的な機能向上や生活の質(QOL)を高めることに繋がります。
5.LSVT® LOUDを取得した言語聴覚士(ST)の将来性・キャリア
LSVT® LOUD認定の有無でSTの将来性やキャリアに違いはあるのでしょうか。認定を取得することで得られるメリットや、将来性についてみてみましょう。
スペシャリストとしての認知度向上
LSVT® LOUDを取得すると、LSVT® LOUD認定言語聴覚士として名乗ることができます。また、希望すればLSVT® GLOBALの公式サイトの名簿に掲載することもでき、LSVT® LOUDによる音声治療を希望する方に対して、質の高い正しいLSVT® LOUDを実施可能であるという信頼の証明になります。
また、パーキンソン病やLSVT® LOUDについて正しい知識を身に付けて臨床に臨むことで、患者本人や家族、スタッフなどへの有益な情報提供が可能であり、リハビリ実施に際してアプローチが幅広くなり、自信をもってリハビリを提供することができます。
主となるSTのほか、深い知識と技術を身に付けておくことは、転職の際に自身の強みとなります。ほかにもSTが取得できるおすすめの資格についてまとめた記事もありますので参考にしてみてください。
言語聴覚士がダブルライセンスを取得するメリットは?おすすめの資格も紹介
パーキンソン患者増加に伴う需要の増加
厚生労働省が実施した患者調査によると、令和2年10月時点でのパーキンソン病の総患者数は28.9万人となっており、平成29年の16.2万人と比較して増加傾向にあります。
パーキンソン病は50歳以上で発症することが多く、65歳以上の高齢者では100人に約1人が発症するなど、人口の高齢化に伴い患者数も増えていきます。高齢化により世界的にパーキンソン病が急増する状況はパーキンソンパンデミックとも呼ばれており、さらなる需要の増加が見込まれます。
(参考:厚生労働省 HP 令2年 患者調査 傷病分類編(傷病別年次推移表)、パーキンソン病、公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター HP パーキンソン病(指定難病6))
他の専門的プログラムとの組み合わせの可能性
これまで解説してきたようにLSVT® LOUDは音声治療にのみ焦点を当てた治療法です。そのため、パーキンソン病に対する治療として基本となる投薬治療のほか、様々なリハビリを行っていく必要があります。
理学療法士(PT)や作業療法士(OT)が行うLSVT® BIGのほか、ST領域では併発しやすい嚥下障害に対するリハビリも重要です。また、MDSJ認定パーキンソン病療養指導士など、パーキンソン病について高度な知識を持った多職種が専門性を活かすことで、最大限の治療効果を得ることができます。
6.LSVT® LOUDに関するよくある質問
LSVT® LOUDの資格取得を目指す上で、よくある3つの疑問についてまとめました。
LSVT® LOUDを学ぶのに難しい点は?
LSVT® LOUDの講習は短期間のスケジュールではありますが、パーキンソン病についての事前学習を行ったうえで、座学だけでなく熟練のスタッフとの実践練習もあるため、実際のリハビリの進め方を確認しながら学ぶことができるため安心です。
また、講師は外国人ですが、日本語通訳士もいるため質問等にも適切に対応してもらうことができます。
ただし、日本語での認定講習は年に1回程度の開催で、常に募集しているわけではありませんので、希望してすぐに講習を受講できるわけではありません。自ら情報収集を行い、募集締め切りに間に合うように申し込む必要があります。
未経験でもすぐに効果を出せる?
前項で解説したように、しっかりとしたプログラムで学ぶことはできますが、他のリハビリと同じように、実際に患者様にとって適切に実践できるかどうかは、場合によって異なります。
LSVT® LOUD認定講習会で学んだことをしっかり復習し、プログラムを正しく実施していくことと、日頃から患者様との信頼関係を築き、目的や目標を共有しながらリハビリを行うなど、臨床を行いながら言語聴覚士(ST)として経験を積んでいくことが重要です。
日本国内での実施可能な施設は?
LSVT® LOUDは認定資格を所有している言語聴覚士(ST)が在籍する施設でプログラムを受けることになります。
新潟リハビリテーション大学のホームページでは、全国の認定資格者在籍施設が一覧でまとめられており、LSVT® LOUD認定STが在籍する最寄りの施設を検索することができます。
(参考:LSVT®リハビリテーションプログラムが受けられる施設一覧)
7.まとめ
今回はパーキンソン病の音声障害に対する治療、LSVT® LOUDについて解説しました。
しっかりと呼気を出して発声するLSVT® LOUDのような発声訓練は、声量の乏しい方だけでなく、肺活量の増加や構音訓練、誤嚥した時の喀出など、STが対象とする方にとってとても大切な訓練となります。
LSVT® LOUDの認定講習を通じて、パーキンソン病やLSVT® LOUDのプログラムについて正しい知識を身に付けることで、STとしてのレベルアップにも繋がります。
パーキンソン病は高齢化に伴い今後も需要は増加していくと考えられますので、現在、言語聴覚士(ST)として活躍している方や、STを目指して勉強中の方は、是非LSVT® LOUDの認定講習にもチャレンジしてみてください。
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