言語聴覚士(ST)は多くの場合、理学療法士(PT)や作業療法士(OT)などリハビリのチームに所属します。経験年数を重ねるにつれて、チームをまとめる役割を担うことも増え、管理職について興味が出てくる人も多いのではないでしょうか。

職場によっては管理職になることによって数万円の手当がつくこともあり、生活にも大きな影響がありますので、STとして働く上で、知っておきたいポイントでもあります。

今回は、STが管理職になるために必要なスキルや方法、管理職に求められる仕事について解説します。

1.言語聴覚士(ST)が管理職になるために身につけたいスキル

管理職になると自身の仕事を遂行するだけでなく、他のスタッフの仕事の状況把握などSTやリハビリ室のスタッフ全体をまとめていく必要があります。それに加え、事務作業など臨床とは異なる仕事も増えるため、以下のような様々なスキルが必要になります。

テクニカルスキル

テクニカルスキルとは「業務遂行能力」のことで、業務を実行するにあたり必要となるスキルです。管理職は臨床のほか、多くの仕事をすることになるため、臨床を含め、受け持った仕事量や優先順位などを考えながら確実に遂行していく必要があります。

また自身の仕事だけでなくスタッフ全体の管理も重要な仕事ですので、各スタッフの力量を見極め、仕事量や内容を調整したり、技術力アップのためのプランなど、業務運営を行う上で必要となるマネジメント能力もテクニカルスキルの要素になります

STは扱うリハビリの分野は多いですが、理学療法士(PT)や作業療法士(OT)とは異なったリハビリを提供していますので、PTやOTを含めた全体をまとめる際には、専門外のリハビリについても知る努力が必要です。

コミュニケーションスキル

コミュニケーションスキルとは「対人関係能力」のことです。リハビリはSTのほかPTやOTとの連携、そして医師や看護師、患者様のご家族などたくさんの人ととのコミュニケーションによって、より良いものとなります。

そのためリハビリに関わるスタッフ間の情報交換など話しやすい・働きやすい環境作りや他部門への依頼・交渉など、人間関係の構築を通じて、チームが向かうべき方向へ導く能力が必要です。

なにより、STのリハビリはコミュニケーションを専門としており、対象となる患者様や利用者様との信頼関係を築くことが重要ですので、ぜひ高めておきたいスキルと言えます。

コーチングスキル

コーチングスキルとは「指導能力」のことです。ただ正解を教えて学習させるのではなく、本来持っている能力や可能性を最大限発揮することを目的に、自ら考えさせて行動を促し、結果をつくり出すことをサポートする能力を指します。

あくまでも気づきを促すサポート役ですので、自分の思っていることや感じていることを何でも話してもらう「傾聴」、考え方等に対してそれを認めていく「承認」、そして自ら考えて答えを導き出せるように仕向けていくような質問行う「質問」の3つを上手く使いながら、目標を達成できるようサポートしていきます。

STのリハビリにおいても失語症や高次脳機能に関するリハビリでは、患者様に対して同様の促しを必要としますので、臨床の際にも意識しておきたいスキルです。

コンセプチュアルスキル

コンセプチュアルスキルとは「概念化能力」のことです。これは物事の本質を捉える能力であり、状況分析力や課題の発見力、解決法の検討など、スタッフをまとめる上で特に必要なスキルです。

管理職は様々な情報を分析・意思決定する場面も多く、状況を見極める力や多角的に物事を捉える力、論理的思考などが求められます。これらはトラブルや緊急事態が発生した場合にも役立ち、応用力や柔軟な対応力が必要となります。

リハビリの基本も、患者様の障害像から障害の核となる問題点を探し出すことから始まります。高次脳機能など思考力も扱うSTにとって、日頃から高めておきたいスキルです。

パソコンスキル

これまでのスキルとは少し異なりますが、事務作業やスタッフに配布する資料作成などパソコン作業も増えるため、文章作成ソフトや表計算ソフト、プレゼン資料ソフトの操作などパソコンスキルも必要なスキルです。

最近はカルテやレセプト、入退院情報など、様々な情報がパソコンで院内共有されており、管理職ではアクセスできる情報も増えますので、セキュリティなどについても知識を付け、情報漏洩予防に努めましょう。

2.言語聴覚士(ST)から管理職になる方法

実際にSTが管理職になるためにはいくつかの方法があります。以下に管理職になるためのいくつかのパターンについて挙げてみました。

同じ病院や施設に勤務し続ける

単純に年功序列で決める、という施設も多いため、パターンとして一番多いのは勤続年数が長いというパターンです。

臨床経験としては様々な施設で勤めた方が、技術を高められる可能性がありますが、同じ施設に長く勤めることで、その施設の良い点・悪い点についての理解を深めることができたり、実際に自身が経験してきたからこその視点が生まれます。

施設側としては、リハビリ部門だけでなく施設全体を良くしたいとの思いがありますので、施設の実情を踏まえつつ、自らの経験やスタッフからの情報をまとめ、意見できる人材を求めています。

実績を積む

STは臨床業務のほかに疾患に関する院内勉強会を開催したり、食事の姿勢設定や対応の難しい患者様の接し方について指導するなど、看護師など他職種の働く環境にも介入していきます。

このような機会を早い段階から積極的に活用していくことで、リハビリの知識を高めつつ周囲からの信頼も得られ、自身の実績として評価に繋がります。

ある程度の臨床経験も必要ですが、自分の考えを周囲に積極的に発信できる姿勢とスタッフとの関係が良好であることは、管理職を目指すのであれば必要な能力ですので、しっかりと押えておくことが管理職への近道となります。

管理職を募集している施設に転職する

経験年数が比較的浅い段階から管理職を狙うのであれば、新規の施設など管理職を募集している施設に転職するという方法があります。

もちろん、探しているから誰でも良いわけではなく、リーダーとしての資質や1章で挙げたような様々なスキルは求められますので、採用されることは簡単ではありません。

しかしながら、このような施設はスタッフ全体の年齢層が若いことも多く、大規模な病院などに比べると、経験年数が10年程度の中堅レベルのスタッフでも、十分に可能性があります。

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3.言語聴覚士(ST)から管理職になった際に求められる仕事内容

STが管理職になった場合、組織としてどのような仕事が求められるのか気になるという方も多いと思います。STは人数が少ない施設も多いですので、臨床と並行して以下のような業務を担う場合もあり、労働の負担としてはなかなか大きくなりがちです。

組織をマネジメントする

管理職としての一番の仕事はこのマネジメントです。チームに所属するセラピスト全てを束ねる立場になるため、自身だけでなく、セラピストや業務全般のマネジメントを行う必要があります。

各セラピストへの仕事の割り振りや、難易度が力量に見合っているか、過度な負担が生じていないかなど、業務の分担を見直して偏りや長時間労働が生じないよう改善します。

労働環境を確保する

リハビリを実施する際の機器の整備や他部門を含むスタッフ間の連携の取りやすさなど、部下となるセラピストたちが、気持ちよく業務に励むことができる環境を整えるのも管理職の大切な仕事です。

これには職場でお互いに助け合う雰囲気があるか、コミュニケーションが円滑に取れているかがポイントになります。立場の上下に関係なく、相談しやすい環境を作ることで、雰囲気の良い職場環境作りを促進します。

また、自分達だけでは改善できない問題点を施設側に相談・改善案を提案したり、交渉することもリーダーである管理職が率先して行う必要があります。

若手や管理職の育成

リハビリの質を維持・向上していくためには、部下を育成することも大切です。管理職として自ら手本を示すとともに、部下にも経験を積む場やスキルアップの機会を用意し、次の代に交代しても十分に機能していけるよう、組織を導いていきます。

若手や中堅、ベテランとそれぞれにあわせたスキルアップを考え、セラピストの育成を図ることが大切です。

スタッフの評価・査定

施設によっては、各セラピストが設定した目標の達成度が給与や賞与に影響してくる場合があります。その場合の評価や査定を行うことも管理職の役割です。

評価基準が明確に定められている場合とそうでない場合があり、管理職にとっても難しい仕事のひとつです。公平な評価はもちろんですが、自己評価との違いや良い点・悪い点など、本人に伝える責任があり、セラピストの数が多いほど大変な作業になります。

4.まとめ

管理職は、十分な臨床経験やリハビリだけに留まらない豊富な知識が必要ですので、管理職になるということは簡単なものではありません。

しかし、2章でもみてきたように管理職になるための手段としては、どれも特定の人に限ったものではなく、誰にでも管理職に就くチャンスはありますので、この機会に考えてみてはいかがでしょうか。

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