主に病院や介護施設で活躍している言語聴覚士(ST)ですが、最近では活躍の場を広げており、そのひとつに「訪問リハビリ」という分野があります。

訪問リハビリは、「訪問リハビリテーション」と「訪問看護ステーション」から提供されるサービスであり、自宅や介護保健施設に訪問して利用者様の生活に密着したリハビリを提供する現場です。

今回は、2つの施設の違いとSTが訪問リハビリで求められる役割、業務内容について紹介します。

1.言語聴覚士(ST)からみた訪問リハビリとは

「訪問リハビリ」とは、利用者様の自宅などにセラピストが訪問し、自宅の状況やご家族の介護状況に合わせたリハビリを行い、生活そのものの改善を目指すものです。

病状や全身の身体機能の把握し、症状の変化があった際に、ドクターや看護師などと連携して、いかに入院せずに自宅での生活を維持できるかサポートする役割も担うことになります。

訪問リハビリの特徴は、利用者様ごとに使用している介護サービスや医療サービスが異なるため、どのようなサービスを利用しているのかを把握する必要がある点です。ドクターや看護師、ケアマネージャー、ヘルパー、デイサービス、他訪問看護など多くの関係者と情報共有や相談業務を行うことが多い仕事といえるでしょう。

訪問リハビリを詳しくみてみると、事業者や対象者の定義などにより「訪問リハビリテーション」と「訪問看護ステーション」に分けられます。

「訪問リハビリテーション」によるリハビリは、日常生活における自立化や社会参加といった目的のもと、治療上必要なものとして医師の指示により実施されるリハビリで、施設でのリハビリの延長上にあります。

一方、「訪問看護ステーション」によるリハビリは、位置づけとしてはあくまで、療養上の目的に沿って行われるもので、訪問看護でリハビリを実施する場合は、あくまで看護業務の一部として行われることを利用者に説明し、同意を得る必要があります。

STが担う役割としては失語症・構音障害、嚥下障害などのリハビリや、患者様のご家族に対する介助方法の指導、他の職種との情報共有など、様々な役割が求められますが、細かく見ていくと少しずつ違いがあります。施設やSTの働きかたの詳細は2章で説明しますのでそちらも参考にしてみてください。

2.言語聴覚士(ST)の訪問リハビリテーションでの仕事

訪問リハビリテーションとは、自宅で生活している要介護者に対し、心身機能の維持回復や日常生活の自立することを目的として、セラピストが自宅を訪問し、必要なリハビリを提供するサービスを指します。

まずは、訪問リハビリテーションの特徴とSTの役割についてみてみましょう。

訪問リハビリの特徴と求められるSTのスキル

訪問リハビリテーションの事業者は病院・診療所、老人保健施設などで、専任の常勤医師が1名以上在籍している必要があります(兼務可)。また、STだけでなく、理学療法士(PT)と作業療法士(OT)も適当数おかなければならず、必要に応じた組み合わせで連携を取りながら介入していきます。

STの役割としては、通常のリハビリと同様に摂食嚥下障害や失語症、構音障害などのリハビリや、ご家族に対する介助方法の指導、利用者様に関わるスタッフとの情報共有などの役割を担うことになります。

それに加え、訪問リハビリは機能回復だけでなく、「社会参加を促す」ことまで見据えたサービスの提供が求められるため、家の中や本人と介護者だけの狭いコミュニティではなく、「仕事に就きたい」「外食を楽しみたい」「趣味のサークル活動に参加したい」など現状を踏まえた上でニーズに沿ったリハビリを実施します。

訪問リハビリテーションにおける業務内容

施設内での臨床と大きくは変わりませんが、利用者様の自宅という環境上、限られた道具を使用することになります。そのため、口腔ケアなどで使用する氷をご家族に依頼したり、コンパクトかつ汎用性が高い訓練用具を選んだりと、施設で行うリハビリより道具の工夫が必要になります。

道具や技術不足で利用者様に不利益とならないよう、その都度必要な道具について検討し、その場でやり方を変えるなど気転が大切になる場面も増えるでしょう。

また、社会参加を促すことも目的としているため、本人の趣味なども積極的に取り入れ、目標達成のためにどのような関わり方が良いか、必要なサービスはあるかなど情報の共有もしていきます。

自宅で行うという特性を上手く活かして、ご家族に実際の場面をみてもらいながら現状や訓練方法を説明したり、食事形態の提案(調理が可能か、サービスが必要かなどの判断)、隙間時間にできる口腔体操などの指導なども実施します。

こうした業務を1日4件~6件(1件あたり40分~60分)程度行い、カルテや報告書、ケアマネへの報告といった事務作業も行うことになります。

3.言語聴覚士(ST)の訪問看護ステーションでの仕事

次に訪問看護ステーションから派遣される場合のリハビリについてみてみましょう。

訪問看護の特徴と求められるSTのスキル

訪問看護は病気や怪我により自宅で療養を受ける必要が状態にある方に、自宅で看護師等による療養上の世話や必要な診療の補助を行うサービスを指し、リハビリも療養に含みます。

訪問リハビリテーションが「社会参加」を目的のひとつとしているのに対し、訪問看護ステーションでのリハビリでは、重症者やターミナルケアの役割を期待されています。脳血管障害後の後遺症をもつ患者様の中には、唾液誤嚥による誤嚥性肺炎などで入退院を繰り返すことも多くあります。

そのような方に対して、在宅でかかりつけ医師や看護師などのスタッフと連携しながらリハビリを提供し、利用者様とその周囲の人たちの生活のサポートをはかることがSTの役割として求められています。

訪問看護ステーションにおける業務内容

訪問看護ステーションにおいても、STは1日に4~6件ほどの訪問リハビリを行います。

元々は看護師が自宅で生活をしている利用者様に対して、医療的措置(吸引や胃ろう管理等)やケアを行うことを目的としていたため、リハビリ中心の利用者様に対しても、月に1回以上は看護師が訪問し、バイタル測定など健康状態の確認を行っています。

STは実際の水分や食事を使用した摂食嚥下訓練など呼吸状態や全身状態に特に注意が必要なリハビリも実施します。そのため、利用者様の状態や施設の方針によっては、看護師や保健師が同行することもあります。

特に重症者やターミナル期の利用者様の場合、少量の経口摂取訓練による誤嚥性肺炎のリスクがあったり、体調に変化があっても自分から不調を訴えられない可能性も高くなります。

STが介入した際のささいな変化の情報も、利用者様の異変に気付くためにとくに重要な情報源となるため、他のスタッフと密に連携をとっていく必要があります。

4.訪問リハビリテーションと訪問看護ステーションの違いとおすすめ

訪問リハビリテーションと訪問看護ステーションのリハビリの大きな違いは、「リハビリ・看護どちらが主体か」「主となる対象者と介入の目的」です。

これまでみてきたように、訪問リハビリでは仕事や趣味活動など社会復帰も視野に入れた積極的なリハビリの提供が求められていることが多く、訪問看護はセラピストの訪問であってもあくまでも看護することを主体にリハビリを進めていきます。

施設でのリハビリに比べると、十分とは言えない環境下でのリハビリと言えますので、どちらもリハビリだけでなく、急変にも対処できるような経験や知識と事前準備が必要となります。

どちらも利用者様やご家族に寄り添ったリハビリを提供するという点では同じですが、回復期病棟など施設の臨床で培ったリハビリ経験を別の場面で活かしたい、退院後の患者様の社会復帰まで寄り添ったリハビリがしたいという方には訪問リハビリテーションがおすすめです。

急性期病院での経験など全身状態の管理知識があり、食事やコミュニケーションなどリハビリを通じて患者様やご家族にとって穏やかな時間を過ごしてもらいたい、生活に寄り添ったリハビリを提供したいという方には看護ステーションでのリハビリがおすすめです。

5.まとめ

今回は「訪問リハビリテーション」と「訪問看護ステーション」の違いや、両者におけるSTの役割、業務内容の違いについてご紹介しました。

まとめて表現されることも多く、利用者の方々にも一見違いがわかりにくい訪問リハビリですが、運営している事業者だけでなく、介入の目的の意味合いや将来的なゴールなど少しずつ違いがあります。

また、施設でのリハビリに比べると長期的に介入していくことになり、在宅で利用者様が何に困っているのか、リハビリの介入が何がどう改善して暮らしが変わったのかが、より明確に見えてきます。

訪問リハビリは高齢化と地域医療が進む日本において、これからも需要が伸びてくる分野であると予測されますので、興味のある方は是非参考にしてみてください。

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【引用サイト】
訪問看護事業所における看護職員と理学療法士等のより良い連携のための手引き一般社団法人全国訪問看護事業協会
訪問リハビリテーション(参考資料) 厚生労働省