超高齢社会の日本において、言語聴覚士(ST)の需要は高まってきているとされています。しかし、病院や介護施設をはじめとした多くの施設でSTの人員確保が進まず、現場ではまだ十分な人数が足りていないというのが現状です。
STを目指している方の中には、資格取得後の就職について気になるという方も多いのではないでしょうか。今回は、STの需要と供給やニーズについて解説します。
目次
1.言語聴覚士(ST)はまだ足りていない
STは理学療法士(PT)や作業療法士(OT)に比べると、施設ごとの配置人数が少ないものの、専門として扱う疾患は幅広いため、一人が担当する仕事の量も多くなりがちです。
配置人数が少ない背景には、国家資格として言語聴覚士法が制定されたのが1997年で他のリハビリよりも歴史が浅いことや、養成校の数が少なく資格保有者数も増えにくい環境であることなどがあります。
さらに急速に高齢化していく社会に伴う介護分野の需要や、近年注目されている発達障害など教育分野での需要など、求められる場所も増えているためSTが足りない状況はまだ続くと予想されます。
2.言語聴覚士(ST)の資格保有者推移
STの国家試験は毎年1,600~2,000人程度が合格し、厚生労働大臣から免許を受けたのちに一人のSTとして登録されます。日本言語聴覚士協会によると2022年3月時点で有資格者数の累計は38,200人にまで増えてきています。
国家試験合格者数の推移(2022年3月現在)
合格者数 | 累計 | |
~2017年 | 29,225人 | |
2018年 | 2,008人 | 31,233人 |
2019年 | 1,630人 | 32,863人 |
2020年 | 1,626人 | 34,489人 |
2021年 | 1,766人 | 36,255人 |
2022年 | 1,945人 | 38,200人 |
STとして働く上で、言語聴覚士免許の交付は必須ですが、日本言語聴覚士協会への入会は任意となっています。2022年3月の時点での協会会員数は19,789人で、有資格者のうち約51.8%が会員として登録されています。
会員のうち約84.2%にあたる16,656人は常勤もしくは非常勤でSTとして働いており、その分野は医療、介護、教育など多岐にわたります。STが活躍している分野やニーズについては次の章に詳しく解説していますので参考にしてみてください。
STは30~40歳代の女性が多いため出産・育児休暇を取得していたり、日本言語聴覚士協会に入会していないSTが有資格者の約半数を占めることを考えると、実際に働いているSTの数はもう少し多いと考えられます。
3.言語聴覚士(ST)が求められる分野
STは社会のニーズとともに活躍の場を広げてきており、最近では医療現場だけでなく、介護や小児教育の場など少しずつ身近な仕事になってきています。ここではSTが働いている分野ごとのニーズについて解説します。
医療の場でのニーズ
STがメインとして活躍しているのが医療分野です。日本言語聴覚士協会の会員の所属先データによると67%と半数以上が医療分野で働いており、主な場所としてはリハビリテーション科や耳鼻咽喉科、小児科、形成外科、口腔外科などが挙げられます。
患者様の年齢層や疾患の傾向などは施設ごとに異なりますが、治療や機能回復を主な目的として、本人やご家族などのニーズも聴取しながら、STの評価に基づいた個別訓練を行うことが基本です。
評価や訓練時の様子などから、ご家族や次に介入する施設への情報提供もおこなっており、患者様と周囲の人が、より暮らしやすくなるための橋渡しも担っています。
介護の場でのニーズ
STの勤務先として医療分野に次いで多いのが、介護分野です。介護分野ではリハビリ専門職の配置が義務付けられている介護老人保健施設のほか、居宅サービス事業所、地域包括支援センターなどの施設で、施設の利用者様のリハビリを行います。
介護分野では高齢者が病院でのリハビリを経て、退院したあとに介入するケースも多く、利用者様の評価や誤嚥予防、健康維持のためにSTを導入しているという施設が増えてきています。また、高齢化に伴い介護関連施設自体も増加しているため、STの需要も高まっています。
医療の臨床に比べると、集団訓練やゲーム性を取り入れた訓練など、楽しみながら続けられるリハビリに対するニーズも高いでしょう。
福祉の場でのニーズ
福祉分野では障害者福祉施設、デイサービスセンター、小児療育センター、肢体不自由児施設、重症心身障害児施設などの施設での勤務があります。
成人施設では在宅生活を送っている障害者の方に対して、障害の程度や個々のニーズに合わせ社会復帰を目指した訓練や、在宅生活において周囲とのコミュニケーションを円滑にするための訓練などの支援を行います。
小児施設では言語・コミュニケーションの面を中心に発達支援を行います。ニーズに合わせて個別・集団リハを取り入れており、保護者への指導もSTとして求められています。
教育の場でのニーズ
教育分野ではセラピストとして特別支援学校(聴覚障害・知的障害・肢体不自由)や、ことばの教室などで訓練を行うケースと、指導者としてSTの養成校や大学院で学生の育成に携わるケースがあります。
特別支援学校やことばの教室では言語獲得やコミュニケーション能力の向上、集団生活への参加を促すための訓練を実施したり、保護者や教師への助言などを行います。ST資格のみで勤務可能な施設もありますが、小・中学校における特別支援学級及び特別支援学校でSTが働く場合は教員免許も取得している必要があります
指導者としてのSTは養成校においても研究施設においても需要が高い分野ではありますが、博士号の取得や研究実績など特に高いレベルでの専門的知識と経験を求められるため、求人の数も極端に少ないのが現状です。
災害現場でのニーズ
地震や水害など、災害の多い日本において災害現場でもSTのニーズは高まってきており、普段は医療機関などに勤めているSTが災害派遣医療チームの一員として派遣されたり、ボランティアスタッフの一員として参加することがあります。
訪問介護や通所リハが介入していた方が避難所生活となった場合、適切なサポートが受けられず、全身状態が急激に悪くなる可能性があり、この状況を避けるために予防リハの実施が望ましいとされています。
また、健康な人でも避難所での生活が長引くと活動量が減ったり、ストレスで抑うつ傾向になったりと身体への影響が出てきます。
特に高齢者では生活の変化により、食事が摂れず不調をきたす、寝たきりになるなどのケースがあります。口腔機能の低下により誤嚥性肺炎を発症することもあるため、STによる口腔体操の促しや口腔ケアの実施で予防に努めます。
4.まとめ
今回は言語聴覚士(ST)の需要と資格保有者の状況、各分野におけるSTのニーズについて解説しました。STは専門性の高さだけでなく、社会の変化とともに活躍の場を広げており、有資格者の緩やかな増加傾向からみても、まだこれから需要が高まっていくと予想されます。
一度臨床に出てからも、自分の専門分野を突き詰めたり、経験を活かして別の分野に変更したりと、常に自身を成長させていくことができる仕事ですので、STに興味のある方はぜひチャレンジしてみてください。
今回の記事はこれからSTを目指す方の参考になれましたらうれしいです!PTOT人材バンクは皆さんの就職活動を陰ながら応援しています。
関連記事
言語聴覚士(ST) のキャリアに関するおすすめ記事をご紹介します。
【参照サイト】
日本言語聴覚士協会HP
言語聴覚士国家試験の合格者数
就業状況と勤務先
会員の年齢構成
養成校検索 施設一覧
言語聴覚士数の推移
日本言語聴覚士協会会員の所属機関