言語聴覚士(ST)は、話す・聞く・読む・書くなど言語やコミュニケーションに関する障害をはじめとして、食べ物の飲み込み(嚥下)、記憶障害のような高次脳機能障害など様々な障害に対してリハビリを行い、機能回復・維持をサポートするリハビリ職です。
とてもやりがいのある仕事である反面、仕事を続けていくうちに「仕事がつらい」と感じる場面もないとは言えません。
今回は、STがどのような時に仕事がつらいと感じているか、またそのような時にどう乗り越えているのかについてまとめてみました。
目次
1.言語聴覚士(ST)として働く中で感じるつらいこと
「障害を持つ人の助けになりたい」「患者様が回復していく姿にやりがいを感じている」などの志を持ってSTとして働いている方でも、仕事が辛いと感じる場面は誰でもあります。
まずは、よくある辛いタイミングの具体例を挙げてみました。
患者様と信頼関係の構築がうまくいかない
リハビリを進めていくうえで、重要なのが患者様との信頼関係がどれだけしっかりしているか、ということです。STはコミュニケーションのプロと言っても、人それぞれ元々のコミュニケーションの得手不得手や性格が異なるので、相性が合う・合わないなどの問題が出てくることは仕方ありません。
さらに患者様は病気の発症を機に、体に様々な問題が生じ、これからどうなるのか不安を感じています。退屈で慣れない環境の入院生活に不満を持っていたり、麻痺などで思い通りに動かない自分の体にもどかしい気持ちを抱えていたりと、ストレスフルな状態も多くあります。
なかなか心を開いてくれないことに心が折れたり、リハビリの拒否など、患者様との信頼関係作りがうまくいかないことで、STの仕事がつらいと感じる人も少なくありません。
常に勉強し続けないと知識が古くなる
リハビリをはじめとした医学的知識は想像しているよりも早い速度で変わっていきます。これまでずっと正しいとされていたものが違っていたり、さらに良い治療法が発見されたりと、自ら学ぶ姿勢がないとどんどん古い知識の中に取り残されていくことになります。
施設や地域のST会、各学会など様々な勉強の場が提供されているとは言え、臨床の場に立ちながら自分の時間を確保し、STのリハビリに関わる疾患や治療法など全ての情報に目を通すことはとても大変なことです。
はじめは「頑張ろう!」と努力していても、日々の臨床で力不足を感じ続けることで、だんだんと負担になり、辛く感じてしまうこともあるかもしれません。
高い技術やコミュニケーション能力が求められる
養成校を卒業したばかりであっても、臨床の場に立てば、専門知識を持った1人のSTとして扱われることになります。
担当患者様に適したリハビリを提供するための責任が生じ、必要なリハビリを行う技術やリハビリに前向きな気持ちを維持してもらうための関係作り、他スタッフとの情報共有のためのやりとりなどコミュニケーション能力も求められます。
経験の浅いSTがいくら一生懸命に努力していても、患者様やご家族の方はリハビリが介入することで「これから良くなる」という期待に胸を膨らましているため、できることなら、ベテランと呼ばれる経験豊富な人に担当してもらいたいと思われてしまうことも実はよくあることです。
リハビリに必要な治療技術やコミュニケーション能力など、自分なりにでも努力している最中に、STとしての経験不足を痛感させられるような出来事が続くと心が折れてしまう、ということもあります。
思うような成果が出ない
リハビリは教科書通りの知識や治療だけで、全ての患者様に対応できるわけではありません。複数の症状・障害が複雑に絡んでいたり、患者様のニーズなど様々な要因から適切な方法を選択していくため、正解が一つではないことが多々あります。
また、患者様のリハビリに対する気持ちや、適切なタイミングでリハビリの難易度を変化させたり、他の方法を取り入れるなど、少しの違いで結果が異なる可能性もあります。
自分が考えて選択した方法で思うような結果が得られない場合には、どうしたらいいか悩んだり、自信がなくなってしまいつらい、ということもあります。
孤独を感じる
理学療法士(PT)と作業療法士(OT)は広いリハ室など複数のセラピストと患者様がいる環境でリハビリを行うのに対し、STは個室のような静かな環境でリハビリを行うことが多く、患者様と1対1でリハビリ時間を過ごします。
患者様の体調変化など緊急で他のスタッフを呼ぶ場合は別ですが、何か困ったことが起きても頼れるのは知識・技術やコミュニケーション能力など自分の経験だけです。
また、PTとOTは運動療法で少し共通する部分がありますが、STは専門分野が大きく異なるため、患者様の症例検討や情報交換の際にも、積極的に知識を得ておかないとわからない用語が多かったりと疎外感を感じることがあります。
他のスタッフからSTとしての専門知識を頼ってもらうことはとても嬉しいことですが、その反面、ST同士でしか相談しにくい内容も多いため、1人職場などSTが少ない環境では孤独感をつらいと感じる場合もあります。
責任が重く感じる
リハビリは結果次第で、患者様の人生を変えてしまう可能性もないとは言えません。特にSTの場合、摂食嚥下に関する評価・リハビリは肺炎を起こして全身状態の低下に繋がったり、今後の経口摂取の可否、延いては生死に関する問題になる場合もあります。
とてもやりがいのある仕事ですが、患者様の持つ可能性をどれだけ引き出せるか、患者様と真剣に向き合えば向き合うほど、STとしての責任の重さが負担に感じてしまうということも多いようです。
2.つらい・大変だと感じた時の乗り越え方
これまで言語聴覚士(ST)がつらいと感じる場面についてみてきました。では、実際にそのような状況になった場合、どのようにして気持ちを切り替えたり、つらい場面を乗り越えるのかみてみましょう。
他部門との情報共有をしっかり行う
普段から日常的に他部門のスタッフとコミュニケーションを図り、気軽にやりとりできる関係性を構築しておくことで、患者様の情報交換やささいなことでも話しかけやすい雰囲気にすることができます。
特に看護師など日中忙しい時間帯は聞きたいことがあっても話しかけにくい、後回しにされてしまうなど業務の都合上、仕方ない場合もありますが、手の空いている時間を見計らって少しずつ関係を作っておくと、その後のやりとりがスムーズになります。
看護師は患者様の身の回りのお世話に深く関わっているため、リハビリの時間だけでは知ることのできない日常生活や性格についてよく知っている可能性も高く、患者様の情報を共有してもらうことで、患者様との会話のきっかけやリハビリの問題点・方針の検討にも役立ちます。
院外の勉強会・研修会にも積極的に行ってみる
施設に勤めていると、自分が担当している業務を遂行する責任があり、内部のことに目がいきがちです。しかし、STが活躍しているのは、自分が勤める施設だけではありません。
外部で行われている勉強会や研修会にも参加してみると、年齢も経験年数も幅広いST仲間ができたり、他の施設の状況などを知ることができるため、STとしての視野を広げることができます。これをきっかけに問題解決やより良いリハビリの提供につなげることもできます。
同期や学生時代の友人との繋がりを大切に
慣れない環境で働き始めてつらい、と感じているのはあなた以外にも身近なところにいるかもしれません。同じ時期に入職した同期や他の施設に勤める学生時代の友人であれば、似たような状況にいる可能性も高く、もしそうであれば気持ちを共有することができます。
同じ職場の同期スタッフだからわかること、他施設の友人STだから話せるSTならではの臨床の悩みなど、近い環境で頑張っている同期や友人と話すことで、悩んでいるのは自分だけじゃないと気持ちが軽くなったり、解決に繋がったりすることもあります。
気分転換も重要
どうしてもつらい時には、一旦仕事と離れてリフレッシュすることも重要です。ずっと悩んでいると、答えの出ないループに入り込んでしまい、延々と重たい気分で過ごすことも少なくありません。
思い切って旅行してみたり、趣味に没頭してみたり、たくさん寝てみたり、自分なりの気分転換をすると、悩みで凝り固まっていた頭がすっきりし、案外するっと解決することもあります。
3.他の職場や職種への転職という選択肢を常に持っておく
言語聴覚士(ST)として働くということは、他のセラピストやスタッフと協力して患者様と向き合っていく以上、おそらく悩みが尽きることはありません。
ですが、最近ではSTとして活躍できる施設が増えており、働き方や職場選びの幅も広がってきています。無理して今の施設で頑張り続けるよりも、外に目を向けて、他の施設に転職することで、働きやすい環境や新たなスキル・キャリアを手にいれられるかもしれません。
臨床などSTの仕事自体がつらいと感じるときには、それまでの経験を糧に、別業界で新たなキャリアをつくることも可能です。STで得たコミュニケーションスキルや患者様と向き合ってきた経験は臨床の場以外でも活かすことは十分に可能です。
ご希望の条件に合った転職先が見つかるように、しっかりとお手伝いさせて頂きますので、お困りの際はPTOT人材バンクのキャリアパートナーに遠慮なくご相談ください。
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4.言語聴覚士(ST)の仕事はつらいだけではない
これまでSTの仕事のつらさや乗り越え方について解説してきましたが、もちろんSTはつらいばかりの仕事ではありません。新卒で入職して慣れない職場環境、知識や経験が足りず仕事がうまく進まないということは誰にでもありえる共通の悩みです。
リハビリの場合、患者様の入院期間という時間的な制限があり、それまでに可能な限り本人・ご家族の希望に沿うレベルまで機能を高めるサポートをするという責任があります。
・失語症でコミュニケーションが取れず、表情変化も少なかった方が、退院の時には笑顔で様々な手段を使ってコミュニケーションを楽しめるようになる。
・入院時は口から食事を摂ることが難しく、経管栄養だった方が少しずつ形態や量を変化させながら、食事を摂れるようになる。
このような変化は、日々は少しに感じてしまうものですが、入院から退院までの期間でみるととても大きな変化です。
全ての方が順調にいくとは言い切れませんが、患者様のこれからの人生に関わりながら、リハビリをはじめスタッフがチーム一丸となって患者様と向き合い、少しずつ良くなっていく姿を近くで感じられることは、STとして一番やりがいを感じることができます。
また、臨床で気持ちに余裕ができてくると患者様とのやりとりも楽しめるようになり、高齢の患者様からはそれまでの人生経験や知識を教えてもらったり、子供たちからは思いつきもしないような発想をもらえたりと、働きながら自分の世界が広がるという経験もできます。
これらは入院や通院などある程度の期間、たくさんの患者様とリハビリを通じてコミュニケーションをとり、患者様と一緒に時間を積み重ねていくSTならではの楽しみだと思います。
5.まとめ
今回は、言語聴覚士(ST)の仕事がつらい・大変な時の乗り越え方について解説しました。
STの仕事は患者様の入退院や調子の変化、リハビリの内容、患者様からのリアクションなど全く同じ日が1日もないと言っても過言ではなく、それが大変なところであり、楽しいところでもあります。
毎日の臨床の中で、前は順調に進んだのにできない、なんだかしんどい、と感じてしまうこともあるかもしれませんが、視点を変えて考えてみたり、ストレス発散したり、上手く気持ちを切り替えると、リハビリをより楽しむことができるかもしれません。
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