言語聴覚士(ST)はリハビリ職の中でも知名度が低く、仕事内容についてもまだあまり広く知られていません。
STの仕事は専門性の高さから難しさや大変な部分もありますが、臨床の奥深さなどやりがいを感じることも多く、とても魅力的なものです。
今回は、そんなSTの仕事のやりがいと楽しさ、臨床で活躍するSTがSTを目指すに至ったきっかけについてご紹介します。
目次
1.言語聴覚士(ST)のやりがいを感じる時
STのみならず、仕事を楽しみながら続けるためにはやりがいを感じられるかがポイントになります。臨床の場で活躍するSTはどのような場面でやりがいを感じているのかご紹介します。
生きる喜びを取りもどすよう助けられる
STが介入する患者様は子供からご年配の方まで幅広く、障害の種類や程度も様々です。中でも多いのが、成人分野の脳血管障害(脳梗塞や脳出血など)による高次脳機能障害や嚥下障害です。
この場合、発達障害のように未獲得の能力を習得していくのとは異なり、「これまで当たり前にできていたことができない」という状況になります。これは本人にとっても周囲にとっても受け入れに時間がかかるため、精神的につらく、ストレスを感じる方も多いようです。
例えば、発症により失語症で話すことができずに周囲とのコミュニケーションが取れなくなったり、注意障害や遂行機能障害により日常生活に支障をきたす可能性があります。さらに嚥下障害になると栄養不足や誤嚥の原因にもなるため生命に直結します。
このような状況が長期間に及ぶとだんだんと気分が鬱々として覇気がなくなり、生きていくための楽しみを見出せなくなることがあります。
STはリハビリによる機能改善や生活環境設定、精神的サポートなどさまざまな手段を使って、患者様ができるだけストレスの少ない環境で、前を向いてリハビリや生活を続けられるように関わっていきます。
STとして自分が関わることで、落ち込みがちだった患者様の表情変化が見られ、できることが増え、「次はこんなことに挑戦したい」など今後について前向きな言葉が聞けたときには、やりがいを感じられます。
社会復帰をサポートできる
コミュニケーションをはじめとした障害のある方でも、その障害や特性をSTが評価して正確に把握し、障害の程度に応じた適切なサポートをすることで社会復帰に繋げることができます。
この社会復帰は一般的な「職に就く」という意味だけでなく、家族や医療スタッフ以外と関わる場への復帰を指します。
自宅など限られた場所から通所施設に通ったり、訪問リハを受けることは本人にとっても周囲の人にとっても心身の負担を軽くし、暮らしやすい環境作りや社会の一員として活動していく自信になります。
職場復帰にあたっては、リハビリで回復したと思っても従来通り上手くいかないことや、どうにもならない問題が生じることもあり、STはこれらを事前に予測して、本人や職場に説明し、対処できるようにリハビリを進めていきます。
患者様それぞれの性格や生活背景、ご家族など周囲のサポートの都合などがあるため、一人ひとりに合った評価や計画を立てることは容易ではありませんが、これまでの経験も踏まえながら、患者様のより良い生活作りに携わることにやりがいを感じるSTも多いです。
専門性を発揮しやすい
STが扱う分野は高次脳機能障害、言語障害、コミュニケーション障害、摂食嚥下障害、聴覚障害など多岐にわたります。理学療法士(PT)や作業療法士(OT)は身体活動・運動のリハビリという点で共通していますが、STはリハビリの分野がやや異なるため、単独で任せられる部分も多くなります。
そのため、STが得意とするコミュニケーションや食事に関する情報などはSTが中心となって、患者様本人へのリハビリはもちろん、PT・OTや看護師などのスタッフ、ご家族などサポートする方に対しての指導も行います。
STの評価や指導・伝達のしかたひとつで、患者様の過ごしやすい環境やより能力を発揮しやすい環境を設定作ることができるため、STとしてのやりがいを感じられます。
STだからこそできることがある
STのリハビリはPTやOTのものと比べると、言語訓練など机上での課題や口や舌を動かす口腔体操、実際の食事場面への介入など一見地味に感じられるものが多く、患者様のやる気を出したり、維持するのも一苦労することがあります。
患者様の状況や性格などを踏まえて、気持ちを傾聴し寄り添ったり、ときには叱咤激励したりと、STが得意とするコミュニケーションで、上手く患者様の気分をあげていくことが腕の見せ所であり、やりがいを感じるポイントとも言えます。
2.言語聴覚士(ST)が楽しいと思う瞬間
STのリハビリは多くの人との関わりや、日々の患者様の変化など楽しみの多い仕事でもあります。今度はSTが感じている楽しいと思う瞬間についてご紹介します。
患者さんと話す機会が多い
STのリハビリは施設にもよりますが、一般的な病院でのリハビリの場合、個室で実施されていることが多く、一対一で患者様と話せる貴重な時間となります。STはこの環境を利用して、なかなか他で話せない患者様の気持ちを知り、信頼関係を築いていきます。
また、食事場面への介入では担当する患者様以外とも顔を合わせることになるため、実に多くの患者様と話す機会があります。廊下ですれ違った際やリハビリの送迎の際に挨拶を交わすなど、顔見知りが増えていくのはとても楽しいです。
チームで患者さんをサポートする
リハビリはSTだけでなく、医師をはじめとして理学療法士(PT)や作業療法士(OT)、看護師、栄養士など多くのスタッフが患者様を中心とした、ひとつのチームを作って進めていきます。
患者様の状態は日々変化していくため、日常生活の観察や評価の結果をもとに定期的に話し合い、現状の確認や退院に向けたゴール設定など方向性を決定します。
患者様をより良くするためにどうしたら良いか、スタッフが団結してプランを作り上げていくことが楽しいと感じるSTも多いです。
専門的な知識を手に入れることができる
STが臨床の場に出るためには、養成校で学び、国家試験に合格するというプロセスが必要です。疾患や訓練法など座学での知識はもちろんのこと、養成校卒業までに実習もあるため、患者様の評価や訓練実施までの一連の流れもある程度把握してから臨床に出ます。
しかし実際に臨床に出てみると、養成校で学んできたことよりもさらに一歩踏み込んだ専門的な知識が必要な場面が多々あります。
その都度自分で調べたり、勉強会に参加したりするなど、常に新しい知識を取り入れていくことが、STとしての成長にも繋がるため、とても楽しいと感じられる瞬間でもあります。
臨床では患者様の生活を総合的に評価するためにSTの専門的な知識だけでなく、PTやOTなど他の職種の知識も予備的に学んでいくことができ、より幅広い知識や技術を磨いていけるのも魅力のひとつです。
全ての経験を役立てられる
STは患者様とのコミュニケーションを重視しているため、患者様と共通する話題を数多く持っている方が親しみを感じてもらうことができ、信頼関係を築くきっかけも作りやすくなります。
学生時代に入っていた部活動のスポーツが患者様の趣味と共通していたり、旅行した場所が出身地だった患者様と観光地の話題で盛り上がるなど、きっかけとなる話題は様々ですので、STとしての経験だけでなく、全ての経験を役立てることができます。
訓練に関する机上課題や道具などを自作することもありますので、工作が得意、パソコンスキルがある、アイデアを考えることが好きなど、セラピスト自身も楽しみながら訓練を実施できることもSTの楽しさです。
3.言語聴覚士(ST)を目指したきっかけ
数ある職種のなかでもまだ知名度の低いSTは、職業選択の際にも上位に名前が出てくることは多くありません。STがSTを目指すに至った理由について代表的なものをご紹介します。
リハビリに興味があった
私の場合は大学の進路を決定する時期に、ふと目に留まったのが医療職、とくにリハビリに関する仕事でした。当時はリハビリといえば理学療法士(PT)や作業療法士(OT)が行っているような運動のリハビリのイメージが強く、STの存在は知りませんでした。
STに関する仕事内容を見てみるとこれまでのリハビリのイメージとは全く異なり、人とのコミュニケーションや食事など人生の楽しみにも関わるリハビリで体力勝負ではないこと、女性の比率が高く、結婚や出産など生活環境が変化しても長く続けられそうなところに惹かれました。
また、これから高齢になっていく両親との会話や、食事を摂る際にささいな変化に気付けること、万が一の際にも私に医療や介護に関する知識が多少なりともあることは双方にとっての安心に繋がると思い、STを目指しました。
家族が言語聴覚士にお世話になった
看護師など医療職に多い志望理由として、家族や知り合いなどが入院や通院でお世話になった経験から、その仕事を目指したというケースがあります。STでも同様に、実際に働いている姿に影響され、STを目指す人も多くいます。
最近では発達障害や小児の構音障害など小さいころに自身や兄弟がSTに接していたという人も増えてきており、自分も人の助けになりたいと考え、STに興味を持つ人も多いようです。
話すことが好きだった
STは話すことやコミュニケーションに関する専門職ですので、「人と接する仕事」として惹かれ、STを目指すケースも多いようです。
人と話すことが好き、食事場面などリハビリを通じて人の生活に寄り添うことに興味がある、こういう気持ちが強い人は相手の気持ちを慮ることにも長けていることが多く、もう一度生きる喜びを味わってほしいという想いでSTを目指すというケースがあります。
特別支援学校の方との交流
学生時代に特別支援学校や支援学級との交流から障害に関する仕事に興味を持ち、将来障害を抱えた方をサポートしたいと、STなった人もいます。
まだ人生経験が乏しい学生時代に受ける影響は大きく、実際に障害を持つ人と接する経験の中で、周囲からサポートするSTなど障害に関する仕事を知り、STを目指したという人もいるようです。
STは障害を伴う人生をサポートするだけでなく、リハビリを通じて「より暮らしやすくするために何ができるか」を考えていくことも仕事の一つですので、生活の中で困っている場面などを実際目にすることで、「役に立ちたい」という意識が芽生えるようです。
4.言語聴覚士(ST)になって思うこと
STの国家試験を無事に終え臨床の場に出てから、自分のリハビリで少しずつ患者様の変化が得られる喜びを感じつつ、患者様の人生に関わる責任の重さやその他の事務作業の多さなど、慣れるまでは辛いと感じることも多々ありました。
しかしある時、評価や訓練に対して必死すぎるあまり、患者様はただ付き合わされているだけで、「患者様のためにやっている」と思っていたことが、ST側からの一方的な押し付けの訓練になっていることに気付きました。
患者様の症状・障害と真摯に向き合い、STとして何をすべきか考えることは必要ですが、STの基本となる患者様とのコミュニケーションやリハビリ意欲の向上にかける時間も大切な時間です。そのためにはST自身が楽しみながらリハビリに臨む必要があります。
そのことに気付いてからは、「どうにか訓練に参加してもらわなくては」「自分でどうにかしなければ」という力が抜け、「一緒に楽しもう」という気持ちで訓練に臨むことができるようになりました。
ST自身が楽しみながらリハビリを行うことで、緊張感の緩和や明るい雰囲気作りになり、患者様もリラックスした状態で訓練に参加することができます。
どの仕事でも言えることですが、「相手のためにしている」と思っていることが、いつの間にかサポートしてもらっていたり、自分を成長させてもらっているということが多くあります。
日々の臨床業務で思うようにいかず、大変だと感じることもあるかと思いますが、たまにはきっちりとした訓練だけでなく、お互いが楽しめるものにシフトして考えてみると良いのかもしれません。
5.まとめ
今回は言語聴覚士(ST)の楽しさと、STを目指したきっかけについてご紹介しました。STという仕事は仕事内容の幅が広い分、楽しみかたややりがいを感じるポイントもひとそれぞれです。
担当する患者様の症状・障害も様々で、入退院などを機に定期的に入れ替わるなど、とても多くの人と接する仕事です。経験を重ねてからも毎回新鮮な気持ちで臨むことができるため、自分なりの楽しさややりがいを見つけてみてください。
今回の記事が皆さんの職場選びの参考になると幸いです。
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