言語聴覚士(ST)の仕事は、医師や看護師に比べるとまだ認知度が低い職業です。STはリハビリ職の中でも、言語障害、聴覚障害、嚥下障害、高次脳機能障害など専門範囲が広く、同じ医療スタッフでもSTについて十分に理解しているとは言えません。
また、同じリハビリ職の理学療法士や作業療法士は、健康な人でも骨折などの怪我でリハビリを受ける機会がありますが、STは脳血管障害や生まれつき障害をもつ方が大半を占めるため、普段病院に通っていても接する機会が少ない職業でもあります。
STを目指している方の中にも、実際のSTを見たことがなく、なかなか働いているイメージがわかないという方は多いと思います。今回はSTが働く上で感じている大変さや仕事の面白さ、やりがいについてご紹介します。
1.言語聴覚士(ST)になる難しさ
STは大学や専門学校などの養成校で単位を取得し、国家試験に合格することで資格を得ることができます。国家試験の合格とSTとして働くための専門的な授業が中心なので、入学してからもコツコツと努力することが大切です。
養成校への入学直後はほとんどの授業が基礎医学に関する授業で、聞き慣れない医学用語や人体の知識、疾患名など覚えることがとても多く慣れるまでは少し大変ですが、覚えてくると一気に授業が楽しくなります。
また、在学中に何度か経験する実習は学生生活のなかでもとくに大変さを感じる学生が多いイベントのひとつです。実習には3つの種類があり、学校の方針や施設によって多少の違いはありますが以下のように分けられます。
期間 | 実施内容 | |
見学実習 | 1~2日程度 | 病院など臨床の場で働くSTの見学。クラス単位で行く場合が多い。 |
評価実習 | 4週間程度 | バイザーST指導の下、自分で実際に患者様の検査計画および実施による評価から訓練計画立案までを行う。1人もしくは少人数のグループで行く。 |
臨床実習 | 8週間程度 | 初期評価から訓練実施、再評価まで一通り全てをバイザーST指導の下、1人で行う。 |
評価実習と臨床実習では患者様に、自分がこれまで学んできた検査や訓練を行います。しっかり学んできたつもりでも、慣れない環境や緊張で思うようにいかない、学校の仲間と離れる孤独感など、知識不足だけではない辛さがあります。
しかし実習を通じて、患者様が良くなっていく変化や退院の喜びを分かち合えたり、臨床の場でSTとしての役割を体験することで、STとして働くやりがいも感じられるため、国家試験に向けて一層やる気が出るきっかけにもなります。
そして学生生活の集大成となるのが国家試験です。STの国家試験合格率は過去5年平均70.05%で、理学療法士の平均89.2%、作業療法士の平均83.4%に比べて低く推移しており、リハビリ職の中では難しいとされています。しかし、基礎知識をしっかりと身につけ、過去問対策することで十分に合格を狙えます。
学校でも国家試験の過去問や予想問題を使用しながら対策授業とテストが実施されるため、グループワークや問題集などをうまく活用して効率よく進めることがポイントです。
2.言語聴覚士(ST)として働く難しさ
STとして臨床に出るようになると、複数の患者様の初期評価から訓練の実施など全てを1人でこなしていくことになります。さらに実習とは異なり、STとしてのリハビリ以外の仕事も多くあります。
患者様を受け持つリハビリチームの一員として、ひいては施設の一員として働くことになるため、STの仕事だけしていればよい、という訳ではないというところが難しい点として挙げられます。
訓練室でおこなったリハビリは日常生活に還元されなければ、患者様の努力が報われません。リハビリで回復した能力をしっかり使っていかないと、再び能力は衰退し、介助者の負担も増えてしまいます。
このような悪循環を防ぐためにも、積極的に日常生活場面に介入し、看護師や介護士など主たる介助者が何に困っているのか、どうしたら解決出来るのかを考えたり、他に介入しているリハビリがあれば、その訓練内容をSTの訓練場面でも取り入れるにはどうしたらよいか考えながらリハビリを進めていきます。
そして、これまで行ってきたリハビリを自宅など、他の場所で活かしてもらうにはどうしたらよいのか考え、伝達指導することもとても重要な仕事です。
これらは学校だけでは習う機会が乏しく、実際に臨床に出てから少しづつ習得していくものです。STの仕事に慣れるまではなかなか周囲に目を向ける余裕はないかもしれませんが、経験を重ね、リハビリ室の先輩たちにもアドバイスを貰いながらSTとして成長していきます。
3.スキルや知識のアップデートは楽しみながら
言語聴覚士(ST)がスキルアップや知識を得るためには、施設内や地域の勉強会に参加したり、臨床の中で不足している分野の文献を探して勉強するなど様々な方法があります。
どの方法を選択しても努力したことは自分の力にはなりますが、一番大切なことは「自分自身が楽しみながら出来る方法を選択すること」です。1つの方法に絞る必要はなく、学ぶことが楽しくなってくると、学習意欲も高まり、効率よく知識を吸収できます。
臨床の場に出てからの勉強は退職するまでずっと続きます。患者様のリハビリにとって必要な知識であればST側の苦手分野であっても関係ありません。そのため、自分に合った勉強方法を見つける、知識や経験を共有できるST仲間をつくるなど、継続して学び続ける姿勢が大切です。
また、一見臨床とは関係ないように感じられる趣味活動を広げることもSTの臨床の場では役立つ場面がありますので、プライベートを充実させることもおすすめです。
STの評価の際には、患者様の性格や生活スタイル、これまでの人生経験などその人となりを踏まえたうえで、評価を進めていくため、様々な話題を引き出すためにST側のトークスキルやSTに限らない知識と経験が必要になります。
患者様と共通の話題があれば、口数が少ない患者様とのコミュニケーションのきっかけやベッド上で過ごす時間の多い患者様の活動量アップ、リハビリへの参加意欲の向上にも繋がり、雰囲気の良いリハビリ環境作りができます。
STとしての知識も、患者様とコミュニケーションを取るための話題作りもどちらもSTの仕事には欠かせません。スキルアップも臨床の時間をより良いものにするためにも、自分自身が楽しみながら学ぶことが継続のコツです。
4.現役だから分かる大変さや魅力
言語聴覚士(ST)が臨床の場で感じる一番大変であり、一番の魅力は、患者様がその人らしく過ごせるように、最大限の力を尽くすということです。
STの臨床に携わっていると、似たような障害、似たような検査結果の2人の患者様がいたとして、ゴールとなる目標も、実施していく訓練の内容も全く異なるということが多々あります。
なぜなら、2人は全く別の人生を歩いている人だからです。年齢や性別、性格、これまでの人生経験、これからの生活環境も異なります。これらを考えたうえで、検査結果を評価し、何が障害になっているのか、どのような訓練でどのレベルを目指すのか決定します。
患者様それぞれの個性や環境を尊重し、趣味活動なども取り入れてリハビリへのモチベーションを高めつつ、個別の訓練を考えていくのはSTとしての経験を重ねても、なかなか簡単にできるものではありません。
しかし、失語症で言葉が出なかった方が趣味の歌では歌詞が出たり、嚥下障害でほとんど口から食事が摂れなかった方が好物では思いのほか上手に嚥下出来たりと、STのアイデアと行動次第でいつもと違う患者様の反応が得られた時には大きな達成感を感じられます。
リハビリに患者様の好みや楽しめるアイデアを取り入れ、一緒に楽しみながらオリジナルの訓練が出来るのは、様々な訓練法を扱うSTだからこその魅力でもあります。
5.まとめ
今回は言語聴覚士(ST)が感じている大変さや仕事の面白さ、やりがいについてご紹介しました。
STは扱う専門分野が広いため、学校で習うST基礎的な知識だけでなく、様々な分野の知識や経験が要求されます。学ぶことも多く大変な反面、あなたの特技や趣味も活かすことができる可能性があるということです。
3章でも述べたように、自分自身が楽しみながら学んでいくことがSTにはとても大切です。臨床の場面でもSTが楽しみながらリハビリを提供することで、リラックスした雰囲気作りや患者様との信頼関係の構築にもなりますので、楽しむ気持ちを忘れずに勉強や臨床に臨んでみてください。
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【参照】
理学療法士国家試験合格者の推移
厚生労働省 第55回理学療法士国家試験及び第55回作業療法士国家試験の合格発表について
厚生労働省 第56回理学療法士国家試験及び第56回作業療法士国家試験の合格発表について
厚生労働省 第57回理学療法士国家試験及び第57回作業療法士国家試験の合格発表について
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