現在、言語聴覚士(ST)として活躍されている方や、STを目指して勉強している方の中には将来的に結婚・出産など生活環境が大きく変わったときにも仕事は続けられるのか、どんな変化が生じるのか不安に感じている方も多いのではないでしょうか。

今回は子育てに焦点を当て、STが仕事と子育てを両立させていくためのコツや、知っていて損のない制度、実際の体験談など、詳しく解説します。

お持ちの資格(複数選択可)
ご希望の働き方 ▼
無料相談理想の職場を探してもらう

1.言語聴覚士(ST)の子育ての現状

厚生労働省が発表した国民生活基礎調査の概況によると、18歳未満の子供がいる世帯のうち、働く母親がいる世帯は年々増加傾向にあり、2023年調査では77.8%を占めます。

STは女性の割合が多く、とくに30~40歳代が多く活躍している職種です。また、病院でのリハビリ以外にも職場の選択肢が広がりつつあり、子育てをしながらSTとして活躍している方も増えています。

とはいえ、他の職業にも言えることですが、STとして働きながら子育てをすることは、なかなか大変です。事前にしっかり計画を立てていても、妊娠出産による自身の体の変化や保活問題、復職してからは子どもの急な体調不良や家事負担など多くの課題があります。

そのため、次章から課題解決に向けた働き方や利用できるサポートについて紹介していきます。
(出典:厚生労働省 HP 2023年 国民生活基礎調査 結果の概要

2.仕事と子育てを両立するSTが選択できる働き方や施設による違い

子育てをしながら働くSTは、どのような働き方が多いのでしょうか。STが選択できる働き方や施設による違いについてみてみましょう。

常勤と非常勤の違い

労働基準法や労働契約法には、常勤・非常勤の定義はされていませんが、常勤はいわゆるフルタイムで、1日8時間で週5日のような、勤務先の所定労働日数や所定労働時間に即した勤務をする働き方です。非常勤はそれ以外の働き方を指すことが多いようです。

常勤の場合、給与は月給制を採用しているところが多いため、毎月安定した収入を得られます。また、事業規模にもよりますが社会保険の加入対象となり、勤務先が健康保険料と厚生年金保険料を半分負担してくれるため、経済的な負担が軽減されるのもメリットです。

STの求人が一番多いのが常勤で、休日は固定・変動制など施設によって異なります。

非常勤では労働時間が短かい、日数が少ない等のため、時間の融通が利くのがメリットです。ST復帰の際に体力的に不安がある、少しずつ感覚を取り戻したいなど、再度仕事に就くハードルが低いのも大きな特徴です。

常勤STがなんらかの理由で一時的に欠員となった場合や、外来や通所施設などのように、特定の曜日や時間帯に多くの人手が必要な場合に非常勤の募集をすることが多く、施設によっては正職員登用につながる可能性もあります。

短時間勤務制度(時短勤務)やシフト制の選択肢

時短勤務は、育児・介護休業法により定められた制度で、希望者の申し出により1日の所定労働時間を6時間とすることが法律で決められています。育児では子どもが3歳に達するまで取得可能で、利用する期間は事情に合わせた個別の対応が求められます。

元々フルタイムで勤務していた人が常勤で復帰する場合に、保育園のお迎えに間に合わせるためや、帰宅後のスケジュールを考えて利用することが多く、子どもの手がかかる時期に体力的・時間的な余裕を持てるというのが一番のメリットです。

STとして元の職場に復帰する場合には、常勤で時短勤務を利用するというパターンが多く、勤務時間に合せて担当の割り振りをしたり、リハビリスケジュールを組んでいきます。

シフト制は、労働日や労働時間が固定されておらず、各々の都合に応じて、様々な時間帯に勤務する働き方です。365日リハビリを取り入れている医療施設や朝食・夕食時間などにもSTが介入している介護施設ではシフト制を取り入れている場合もあります。

一定期間ごとに希望を提出して出勤日や時間を決めていくため、一番柔軟な働き方ができますが、状況によっては希望が通らないこともあるため注意が必要です。

施設や訪問リハビリなどの勤務先別の特徴

STが所属する多くの施設ではこれまで紹介したような常勤・非常勤の勤務形態で時短勤務の制度を利用する、シフト制で生活スタイルに合せて出勤するというのが一般的です。

ある程度STの人数が確保されている規模の施設では、希望に合せて出勤の調整が可能ですが、ことばの教室など個人で開業している場合や、訪問リハビリなどSTをはじめとした職員の人数が少ない施設では、急な休みなどのフォローが得られにくく、希望通りに働くことが難しい可能性もあります。

ただし、訪問リハビリは病院の医療保険でのリハビリに比べて診療報酬が高いため、短時間でも時短勤務に比べ、収入があがるということがあり得ます。また、週に1回のミーティング出席以外は自宅からの直行直帰も可能というような施設などもあり、条件さえ合えば子育て中も働きやすい施設と言えます。

3.STが仕事と子育てを両立するための具体的な工夫とポイント

これから子育てをしながら働こうとしているという方は、一日の流れを具体的にイメージしてみることも大切です。ここでは仕事と家事育児のバランスをとるためのコツや職場選びについてご紹介します。

スケジュール管理の工夫

子育てと並行して共働きとなると、家事や買い物、食事の準備などもスケジュールに組み込まなければならないため、効率的に時間を管理することが求められます。これらの問題に対処するためには、積極的に協力し合い、スケジュール管理を工夫することが重要です。

事前にわかっている仕事や子どものイベントは、アプリなどを活用して予定をお互いに共有し、必要な場合は予定を調整します。可能であれば急な仕事の依頼や予定変更に対応するために、あらかじめ余裕を持たせたスケジュールを組んでおくことが有効です。

特に小さな子どもがいると体調不良による園からの急な呼び出し、お休みなども避けられないため、どちらが対応するのかなど、よく話し合っておきましょう。

子どもの送迎や家事分担は細かくタスクを分け、ごみ捨てなど確実にこなしたいものはしっかり分担を決めつつ、忙しい時期や余裕のあるときはその都度柔軟に対応していきます。また、お掃除ロボットなどの家電に頼る、優先順位の低い家事は休日にまわすなどの工夫も必要です。

職場選びのポイント

ここ数年、働く女性のワークライフバランスを重視した子育て支援制度を導入している施設が増えてきています。子育て支援制度が充実している職場環境は、制度としてだけでなく、子育て経験者も多いため、子育てをしながら働く女性にとって魅力的といえます。

具体的には、女性だけでなく男性も育児休業の取得率を高めるための取り組み、復職後のキャリアサポート、急な休暇取得のサポート体制、施設内の託児所設置などが挙げられます。

言語聴覚士(ST)は病院や介護施設などに出勤して、リハビリを行うことが多いため、自分の職場はどのような制度があるのか、申請はどうなっているのか確認しておくことが大切です。また、新しく就職する際にも、子育てに関する制度が充実している施設を選ぶと良いでしょう。

また、STもオンラインでの言語リハやST資格を活かした別の仕事など、在宅勤務が可能な働き方もあります。自宅で働くための環境作りは必要になりますが、通勤時間がなく、出社する場合と比べて家庭や子どもとの時間を増やせることは大きなメリットです。

家であれば、突発的な出来事にも柔軟に対応しやすくなりますし、少しの隙間時間を家事に使うこともできるため、選択肢のひとつとして検討してみると良いかもしれません。

サポートを活用する

仕事と子育ての両立でいちばん大切なのは周囲との協力体制です。家族内での協力はもちろん、保育園や学童保育、ファミリーサポートセンター(ファミサポ)などの地域サポート、職場の仲間やママ友との情報共有も含みます。

家事には得意不得意もあるかと思いますが、どちらか一方が負担になりすぎないよう、バランスをとって分担し、どうしても手が回らないときには家事代行で家事負担を軽減したり、事前に調整が必要ですがファミサポに送迎を頼むなど、外部のサポートを活用していくと良いでしょう。

ちょっとした悩みなどは職場の先輩仲間やママ友にどうしているのか相談してみると、解決へのヒントをもらえ、便利な情報を共有していくことで、いざという時に役に立つかもしれません。

4.仕事と子育てを両立している言語聴覚士(ST)の声

実際に子育てをしながら働くSTの実例を2つご紹介します。

実例1:職場内の育児支援制度を活用しているケース

病院などでは看護師をはじめ、女性が多く、早番や夜勤など働く時間が一定でない職種の方も多いため、院内に保育室が設置されている場合があります。

仕事復帰をするにあたり、保育園について検討するなかで、子どもと一番近くで過ごせる院内の保育室を選びました。

メリットは送迎にかかる時間がほとんどなく、休憩時間など仕事の合間にも子どもの様子が見られるので安心して働くことができること、延長保育にも理解があるため、お迎えに間に合わない時にも安心して預けられることです。

子どもが慣れるまでは時短勤務をしながら様子をみて、自分自身も両立できるようになってきたタイミングで徐々にフルタイムに移行し、STとしては産前とほぼ変わらない担当患者数をもっています。

フルタイムで仕事をすることで忙しさは増しましたが、夫との家事分担の見直しや休日には作り置きだけして、子どもと過ごしつつ休める時にゆっくり休むなど時間の使い方次第でどうにかやりくりできるようになりました。

実例2:フリーランスとして仕事と子育てを調整する例

総合病院や通所型介護施設にてSTとして勤務し、引っ越しを機に退職しました。その後妊娠・出産を経て、子育てをしながらのST復帰も検討していましたが、コロナ禍であったため生活環境が大きく変わるのを避けたかったことと、できれば子どもの近くで成長を見守り、サポートしたいと考え、クラウドソーシングにてウェブライターとして在宅勤務することを選択しました。

子どもが幼稚園に入園したと同時期に緊急事態宣言が発令されて休園になったり、夏休みが無期限延長(結果として1ヵ月延長)になったり、体調不良による呼び出しの基準も厳しくなるなど、短時間であっても仕事復帰していたら対応できなかったであろうトラブルにも対応できたので、この選択をして良かったと思います。

現在はSTや子育てに関する記事などのライティングをする傍ら、時折、基本の学び直しや学生時代のST仲間と情報交換をしたり、子育てや福祉関連のイベントに子どもと一緒にボランティアなどで参加しています。

将来的には臨床に復帰する予定でしたが、在宅でのオンラインでの言語リハを取り入れた施設等も増えてきているため、こちらも視野に入れて検討しています。

想定していたよりも長いブランクとなってしまいましたが、仕事量を調整しながら日中や寝かしつけ後など自由にスケジュールを組むことができるため、自分の予定や急な子どもの体調不良などにも柔軟に対応でき、気持ち的にも余裕をもって仕事と家事育児を行うことができています。

5.仕事と子育てを両立するSTのキャリア形成

結婚や出産などにより一時的にSTの仕事から離れる場合、これまでのキャリアが途切れることや仕事と子育てを両立できるかなど、不安に感じるという方も多いかと思いますが、子育てでSTから離れていた期間も経験としてしっかり臨床に活かすことができます。

仕事と子育てを両立するSTのキャリアアップのための工夫

子育ての最中は、まとまった時間をとることがなかなか難しいため、職場を離れている期間が長くなると不安を感じる方もいると思います。仕事に復帰、もしくは新しく始める際には、働き始めた場合の生活や時間の使い方をイメージしつつ、少しずつ慣らしておくのも良いでしょう。

STであれば、基本のリハビリを確認しておいたり、過去の担当症例について学びなおしたりするのも一つの手です。

もう少し時間がとれるようであれば、脳血管障害など担当する機会の多い分野や、興味のある分野のオンラインセミナーに参加したり、STに役立ちそうな資格取得の勉強をしておくと、新たな知見が得られたり、働く際の自信に繋がります。

また、この期間中に興味のある分野を広げておくだけでも子育てが落ち着いた後、取得したい資格や今後のキャリアアップの目標にもなります。

キャリアアップの考え方については、こちらの記事も参考にしてみてください。

言語聴覚士(ST)のキャリアアップと具体的な方法

子育てを活かしたSTとしての視点

実際に子育てをして、子どもが成長していくのをみることで、小児分野に興味が出てくるということもあります。

STが専門とする言語や発達は、子どもそれぞれの特性や性格など、成長に大きく差があるため、自分の経験が全てではありませんが、保護者の方との悩みを共有したり、声掛けの仕方や子どもが楽しめる遊びを取り入れたリハビリを行うなど、子どもと信頼関係を築くために必要なやりとりに対しても子育ての経験を活かすことができ、STとしての強みとなります。

6.まとめ

今回は言語聴覚士(ST)が仕事と子育てを両立するコツと利用可能な制度について解説しました。

地域のサポートや職場の制度など身の回りの支援を上手に活用することで、仕事と子育ては両立しやすくなります。オンラインでの在宅勤務のような通勤時間の短縮、時短勤務など使える制度は職場ごとに異なるため、積極的に情報収集して、使える制度はしっかり使うことが仕事と子育てを両立させるコツです。

また、ひとりで無理をしすぎないよう家族との協力、便利家電や外部のサービスなども活用することで、プライベートの時間をつくり、気持ちを切り替えていくことも大切です。無理をせず、自分と家族のペースに合わせながら進めていきましょう。

良い転職先なら検討したい方


PTOT人材バンクご利用者様の声(口コミ)
言語聴覚士(ST)の求人・転職情報はこちら

関連記事

言語聴覚士(ST)の働き方に関する様々な記事をご紹介。

社会人から言語聴覚士になるには通信でも可能?必要な学歴・学費・よくある疑問
言語聴覚士がダブルライセンスを取得するメリットは?おすすめの資格も紹介