作業療法士(OT)はリハビリを行う専門職として徐々に認知されつつありますが、具体的な仕事内容や特徴、理学療法士や他職種との違いについてはまだ浸透していないのが現状です。
今回は、OTが行う作業療法についてはもちろん、仕事内容や求められる役割、給料や勤務先、他職種との違いについて詳しく解説します。
OTの仕事に興味を持っている方や目指している方の参考になれば幸いです。
目次
1.作業療法士(occupational therapist)とは
作業療法は、フランスのフィリップ・ピネルやイギリスのウィリアム・テュークで有名な「道徳療法」が起源とされ、欧米では18世紀や19世紀(1700年~1900年の間)には行われていたといわれています。
日本では第2次世界大戦以降に精神科における道徳療法から始まり、1963年に日本初の理学療法士(PT)・作業療法士(OT)養成校が開校、1966年に国家資格として認められ「日本作業療法士協会」が発足しました。
作業療法士は英語で「occupational therapist」(オキュペーショナルセラピスト)と言い、英語の頭文字を取って「OT」と略されます。「occupational」は直訳すると「職業の、職業的な」という意味ですが、作業を通して身体と心のリハビリテーションを行う専門職であるという意味が込められています。
OTの仕事は、基本的動作能力から応用的動作能力、社会の中で適応する能力などを維持・改善し、「その人らしい」生活の獲得を目指すことです。医療や福祉・介護の現場はもちろん、保健・教育・就労支援など、様々な場所で本人と社会との接点を作るために必要とされています。
2.作業療法士(OT)が行う作業療法とは
日本作業療法士協会では、作業療法を次のように定義しています。
作業療法は人々の健康と幸福を促進するために、医療、保健、福祉、教育、職業などの領域で行われる、作業に焦点を当てた治療、指導、援助である。作業とは対象となる人々にとって目的や価値を持つ生活行為を指す。
日本作業療法士協会
簡単に説明すると、食事や入浴など人の日常生活に関わる全ての諸活動を「作業」と呼び、「作業」を通して病気やけがなどで日常生活に支障をきたしている人々の治療を行うことが作業療法であるということです。
OTが行う作業療法には、身体的なリハビリだけでなく精神的なリハビリも含まれており、発達期から高齢期まで人生のあらゆるステージで障害を抱える方の支援に携わることができ、役割や活躍の場が幅広いことが魅力です。
3.作業療法士(OT)の仕事内容や求められること
ここからはOTの具体的な仕事内容や求められる役割について解説していきたいと思います。
患者さんとリハビリへの取り組み方
作業療法の対象となる患者さんは、発達期から高齢期まで様々な年齢の患者さんで、脳血管障害や神経疾患、骨折などの整形外科疾患、統合失調症やうつ病、認知症など精神疾患、脳性麻痺やダウン症候群など発達障害など、幅広い疾患が対象となります。
「作業」には日常生活活動、家事、仕事、趣味、遊び、対人交流、など人が営む生活行為と、それを行うのに必要な心身の活動が含まれ、作業療法では「作業」に焦点を当て、その「作業」自体を練習し、出来るようにしていくことや達成するための環境への働きかけが含まれます。
例えば「入浴する」という作業が難しい患者さんに対して、出来ている部分、出来ていない部分の評価を行い、身体を洗う、浴槽をまたぐなど出来ていない部分を達成するために動作練習や環境の工夫をサポートしていきます。
OTの仕事は主に作業療法を行うことですが、他にも家族への介護方法の指導や多職種カンファレンスへの参加、計画書や報告書など書類作成業務など臨床業務以外にも多岐に渡ります。
求められる役割
OTには障害を抱えながらもその人なりのその人らしい生活を「作業」を通して支援していくこと、治療だけでなく予防的な働きかけや社会復帰の支援、学校での教育支援など、幅広い役割が求められています。
自分らしさを取り戻すための心と身体のリハビリを行う専門職として、目標を達成できた時に患者さんやその家族と喜びを分かち合える点は、最大のやりがいであると言えるでしょう。
「作業」の定義が幅広いため、あらゆる視点からのアプローチを行い、広い視野で患者さんの支援を行える点もOTの面白さであり醍醐味であるとも言えます。
4.理学療法士(PT)や言語聴覚士(ST)との違い
同じリハビリテーションスタッフであるPT・STとOTにはどのような違いがあるのでしょうか?4章では、PT・STの特徴についてそれぞれ見ていきます。
理学療法士(PT)と作業療法士(OT)の違い
よく比較されるPTとの違いですが、起き上がる、立ち上がる、歩くなど基本動作のリハビリを行うのがPTであるのに対し、OTは食事をする、入浴するなど日常生活をスムーズに送るための応用動作のリハビリを行うと表現されることが多いです。
しかし、OTも基本動作のリハビリを担当したり、PTが日常生活動作や応用動作のリハビリを担当したりと、業務の分担は分野や勤務先によるところが大きく、業務や役割が重なる部分も多くあるのが現状です。
言語聴覚士(ST)と作業療法士(OT)の違い
OTと似た職種として挙げられるSTですが、言葉によるコミュニケーションや嚥下に困難を抱える人に対してリハビリを行う職種であり、食事動作のリハビリを行う点や発達障害や精神障害で社会生活に困りごとを抱える方を対象にする点はOTと似ている部分と言えます。
ただ、STは言葉と嚥下に特化した専門的なアプローチを行うのに対し、OTは動作や環境など広い視野でアプローチを行う点に違いがあり、それぞれの専門性を活かして協働して患者さんのサポートを行うことも多く、チームアプローチが重要となります。
5.作業療法士(OT)の給与・職場・就職先について
OTの仕事内容や求められる役割について理解できたところで、続いては給料や勤務先について具体的に解説していきたいと思います。
残業代を除いた年収は約413万円
最新のデータである2021年の厚生労働省による賃金構造基本統計調査をもとに計算すると、2021年のOTの残業代を除いた年収は4,131,000円となっています。
残業代を除いた月給は284,800円、賞与の平均は713,400円であり、勤務先の規模や経営状況、勤務態度などが賞与額に反映されるケースが多いようです。
昇給については基本的に勤続年数、年功序列によるところが大きく、年収アップを目指すなら役職者への昇進やキャリアアップに繋がる関連資格の取得、転職してキャリアチェンジを目指すなどの方法があります。
活躍できる場所は様々
OTが働いている場所として、一般的に病院や施設などを思い浮かべる方も多いと思いますが近年は活躍の場も広がっており、多くの選択肢があります。
病院や診療所などの医療施設、老人保健施設や特別養護老人ホームなどの介護施設、訪問リハビリテーション事業所、通所リハビリテーション、児童福祉施設、職業訓練施設、市役所や保健所などの行政機関など、活躍できる場所は様々です。
OTは支援を必要とする人がいるあらゆる場所で、環境や周囲の人にも働きかけながら、その人と社会との繋がりを作り出す支援を行っています。
ワークライフバランスが取りやすい労働環境
OTは基本的に夜勤がなく、休日出勤が少ない場合が多く、非常勤やパートでの求人も多いことから、特に女性は結婚や出産後もワークライフバランスを取りながら働きやすい職種であると言えます。
残業については勤務先によって差が出やすく、担当する患者さんの数や作成する書類の量で臨床業務後に残業する時間が変わってきます。訪問リハや通所リハなど介護業界では月末やレセプト前などは必要書類が多く、残業が多くなる傾向にあります。
医療・介護業界は日進月歩のため就職してからも自己研鑽が欠かせない職種であり、業務後や休日などに勉強会や研修会へ参加しているOTも多くいます。
養成校の増加によって有資格者数も増加しており、得意分野や関連資格を持つと将来的にも重宝されるため、今後は何らかみを持ったOTになることが重要となってくるでしょう。
6.まとめ
今回は、作業療法士(OT)が行う作業療法についてはもちろん、仕事内容や求められる役割、給料や勤務先、他職種との違いについて紹介しました。
OTの仕事内容や活躍の場は幅広く、今後も介護予防支援や認知症支援、就労支援などで更なる活躍が期待される職種です。
資格を持っていれば、就職先や転職先の選択肢は多く、キャリアチェンジやキャリアアップもしやすい職種であるため手に職を付けたい方におすすめの資格です。
PTOT人材バンクでは、OTの就職・転職のサポートや情報提供、お役立ちコラムの掲載などを行っていますので、興味のある方は気軽に相談してみて下さいね。
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【参照サイト】
日本作業療法士協会 作業療法士ってどんな仕事?
政府統計の総合窓口 賃金構造基本統計調査/令和2年賃金構造基本統計調査 一般労働者職種
政府統計の総合窓口 賃金構造基本調査 職種別第2表
令和3年 賃金構造基本統計調査 職種(小分類)別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)
令和3年 賃金構造基本統計調査 【参考】職種(小分類)別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)(役職者を除く)
令和3年 賃金構造基本統計調査 職種(小分類)、年齢階級別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)
令和3年 賃金構造基本統計調査 職種(小分類)、年齢階級、経験年数階級別所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)
【引用サイト】
日本作業療法士協会 作業療法の定義