神経難病では、その疾患ごとによって、症状や予後が大きく異なります。
罹患者数が多い疾患ではないので、机上での学習では聞いたことがあっても、実際にその患者さんにお会いしたことがない、OTとして関わったことがない、という方もいるのではないでしょうか。
ここでは、神経難病のリハビリについて、具体的に見ていきましょう。
目次
1.作業療法士(OT)が神経難病に対するリハビリで求められる役割
厚生労働省の「難病の患者に対する医療等に関する法律」によると、難病とは次のように定義されています。
発病の機構が明らかでなく、かつ、治療方法が確立していない希少な疾病であって、当該疾病にかかることにより長期にわたり療養を必要とすること
厚生労働省 難病の患者に対する医療等に関する法律
その中でも神経難病に該当する疾患には、筋萎縮性側索硬化症(ALS)やパーキンソン病、脊髄小脳変性症などが挙げられます。
疾患によっては、進行性で予後の悪い疾患もあります。OTは疾患の特徴や経過を把握し、患者さんの予後を想定しながら訓練プログラムを立てていく必要があります。
予後不良の疾患を抱える患者さんの中には、ご家族の意向により本人に正式な疾患名を伏せる場合もあり、ご家族との情報共有もとても重要になってきます。
また、入院期間は疾患によってさまざまになります。
一般的にはリハビリの病期としては急性期、回復期、維持期と分かれますが、神経難病では進行性の疾患が多く、それには当てはまらないケースも見られます。その症状次第によっては在宅生活が難しく、入院期間が長くなる場合もあります。
2.神経難病と向き合う作業療法士(OT)の仕事
ここでは、神経難病と向き合うOTの業務内容やタイムスケジュールなどを詳しくご説明します。
勤務スケジュールやイメージ
神経難病のリハビリに携わるOTの業務内容やタイムスケジュールは、以下の表のとおりです。
時間 | 業務内容 |
8:30~9:00 | 出勤。リハビリ専門職同士のミーティングを行う。 |
9:00~12:00 | 午前のリハビリ 入院患者さん中心にリハビリをするが、中には外来の患者さんが見えることも。 11:30~に病棟での食事が始まることが多いので、食事評価に行くこともある。(自助具の提供などもこの時に実施) |
12:00~13:00 | 昼休憩 |
13:00~16:00 | 午後のリハビリ 入院患者さんのリハビリ この間に、多職種やご家族を交えた担当者会議などを行う場合もある。 |
16:00~17:30 | リハビリ専門職同士のミーティングを行ったのち、リハビリ記録を書く。 |
17:30~ | 退社。この後、翌日の準備や勉強会に参加することも。 |
作業療法士(OT)による神経難病へのリハビリ
それでは、神経難病として代表的な2つの疾患のリハビリ内容について詳しく見ていきましょう。
1)筋萎縮性側索硬化症(ALS)のリハビリ
ALSの主症状は筋萎縮と筋力低下であり、手足などから出現し、症状が進行すると全身の筋力低下が生じ呼吸不全を引き起こします。症状の進行の程度、生存期間は人によって差はありますが、予後は不良です。
ALSのリハビリは、症状の進行度合いを評価しながら、現在の運動機能を維持することを目的にリハビリを行います。
過負荷なリハビリはかえってマイナスになることもあるので、疲労感に留意します。理学療法士(PT)と訓練時間をずらす(午前と午後に分けるなど余裕を持たせる)、負荷量を調整するなどの配慮が必要になります。
発症初期は、筋力低下予防のための機能訓練のほか、予後を想定した呼吸筋の維持のための呼吸練習も取り入れます。
中期には、機能訓練に加え、日常生活動作(ADL)訓練と並行しながら生活環境を整えることで、ADLの維持・介助量の軽減に努めます。症状が進行すると、摂食嚥下や構音にも支障をきたすため、言語聴覚士(ST)と連携しながらコミュニケーション障害の対応も行います。
ALSのリハビリは、PTSTとの連携を図りながら、症状に合わせ訓練内容を変更していく必要があります。特にOTでは、ADL訓練をするだけでなく、看護師やご家族へ環境調整について指導したり、福祉用具の提案をしたりする役割が期待されます。
2)パーキンソン病のリハビリ
パーキンソン病は、振戦、筋固縮、無動、姿勢反射障害の4つが運動症状として現れます。
そのほか、便秘や起立性低血圧などの自律神経症状や、意欲低下や抑うつなどの精神障害も伴うことが多く、生活上の困難につながります。また、症状が進行すると、嚥下障害も出現するので、看護師やSTと情報共有し、留意する必要があります。
パーキンソン病は発症初期こそ軽度ですが、症状の進行に伴いADLの低下が起こり、重度になると寝たきりや車椅子での生活となり、全面的に介助が必要となります。
パーキンソン病のリハビリでは、できるだけ長くADL能力を維持できるよう、運動機能面の維持や能力に合わせたADL訓練が必要です。
特に、パーキンソン病では、日常生活そのものがリハビリになるため、OTは室内環境における方向転換を少なくする・歩きやすくなるよう目印をつけるなどの調整をしたり、自助具の提案をしたりと、患者さんが生活しやすくなるように環境を整えます。
看護師や家族にADLの介助方法やパーキンソン病体操などの自主トレーニングの指導をすることも大切です。パーキンソン病は日内変動が出現する場合もあるので、リハビリ時間を患者さんの動きが良い時間帯を選ぶといいでしょう。
チーム医療の中で求められる役割
神経難病では、病気の進行や予後について、患者さんごとに違いがあるため、主治医との情報収集を密に行い、「OTとして、今、関わる必要があることは何か」「どのようにアプローチしたら、患者さんらしい生活が維持できるのか」を考える必要があります。
具体的に求められる役割としては、関節可動域・筋力・バランス能力などの身体的な機能維持・向上に加え、ADL能力の維持・向上になってきます。
PTが歩行などの粗大的な運動能力の改善を図るのに対し、OTは食事、排泄、更衣などの、より生活に特化した活動へのアプローチが中心となります。
ALSなどの筋力低下をきたす疾患では、食事場面では握りやすい太柄のスプーンを提案し、パーキンソン病など振戦の出現により巧緻動作が難しい場合には、ボタンエイドを提案するなど、OTならではの視点が重要となってきます。
自助具の提供の際には、病棟に出向き、看護師と連携を図り情報共有をし、実際に使ってみてもらい、そのフィードバックをすることも大切です。
さらに、患者さんのご家族の意向を知るためにも医療ソーシャルワーカー(MSW)との情報共有も必要です。
3.作業療法士(OT)が神経難病と携わる魅力
神経難病では、脳卒中や整形外科と比べ、各々の疾患を罹患する人数が少ないです。実際、厚生労働省から次のようなデータが公表されています。
筋萎縮性側索硬化症(ALS) が人口 10 万人あたり 7~11 人、パーキンソン病が人口 10 万人あたり100~150 人、脊髄小脳変性症が人口 10 万人あたり 10 人
厚生労働省 神経難病
そのため、疾患によっては、総合病院でのリハビリを行う場合が多くなります。神経難病罹患者が少ない分、そうした疾患に携わりOTとしての経験や知識の幅を広げられるのは大きな魅力だといえます。
進行性の疾患は、その時々の患者さんの身体状況や日常生活動作(ADL)能力に合わせて評価し、ADLが最大限行えるよう支援する必要があり、神経内科医や看護師との連携や情報収集もより重要になるので、多職種との関わりが増え、多角的な視点を学びたい方にはぴったりです。
中には、患者さんに合った自助具やコミュニケーションボードなどを作成することも求められます。そのため、細やかな評価技術や自助具などの知識が豊富な方は、神経難病のリハビリに向いています。
神経難病は完治が難しく、治療期間が長いという背景から、患者さんの心には大きな葛藤が生まれるものです。ほかの疾患にも必要なことではありますが、神経難病では、より患者さんのお気持ちに沿った関わりが必要になります。
相手の気持ちを考えながらコミュニケーションをとれる方や、患者様とのコミュニケーションを重視してリハビリを行いたい方にお勧めです。
しかし、予後が不良な場合では、患者さんの苦しみや悲しみを受け止める場面もあるでしょう。心優しく、相手の話を親身に聞ける方はOTに向いていますが、時に感情移入をしすぎてしまい、精神的に負担になってしまう場合もあるようです。
患者さんの気持ちを受け止めつつも冷静さを保ち、予後や能力を正確に把握し、今ある能力に見合った関わりができる方が神経難病でのリハビリに向いています。
4.まとめ
完治が難しい、進行性の場合が多く、患者さんやそのご家族との関わり方はデリケートな部分も大きい神経難病。だからこそ、医師、看護師、リハビリ専門職、医療ソーシャルワーカーなど、多職種同士の連携が大切です。
神経難病は、知識面だけでなくコミュニケーション面も要求される難しさはありますが、患者さんの人生に寄り添え、自らを作業療法士(OT)としても人間としても成長させてくれます。
私も、神経難病の方にOTとして関わったことがあります。患者さんの自身への思い、ご家族への思いなどのお言葉は、数年たった今も忘れられません。
「難病を抱えつつも、患者さんが最後までその人らしく生きるためにはどうしたらいいのか」そう考え、患者さんに向き合いたいと思える方に、ぜひ神経難病のリハビリに関わっていただけると嬉しいです。
転職先で悩む際はぜひ、PTOT人材バンクのキャリアパートナーにご相談ください。
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