高齢化や治療技術の向上によって、心疾患を抱えながら地域で生活する患者さんは少なくありません。そのため、心臓リハビリテーション(心臓リハ)の分野においても、生活を評価し支援する存在である作業療法士(OT)の活躍が期待されています。
この記事では、そんな心臓リハに携わる機会の多い循環器内科・心臓血管外科でのOTの仕事内容や求められる役割、働く魅力などについて解説します。
循環器内科・心臓血管外科での勤務や心臓リハに興味を持っている方の参考になれば幸いです。
目次
1.作業療法士(OT)と心臓リハビリテーション
心臓リハビリテーション(心臓リハ)とは、心不全や心筋梗塞、狭心症、心臓手術後の患者さんが体力を回復し快適な家庭生活や社会生活に復帰するとともに、再発や再入院を防止することを目指して行う総合的活動プログラムのことです。
心臓リハと言えば運動療法や理学療法士のイメージが強いかと思いますが、OTも日常生活動作訓練や生活指導、患者教育に携わります。
次章から詳しく見ていきましょう。
2.循環器内科・心臓血管外科で求められる役割
心臓リハビリテーション(心臓リハ)の対象となるのは、急性心筋梗塞、狭心症、心不全、開心術(冠動脈バイパス術や心臓弁膜手術等)後、大血管疾患(胸腹部動脈瘤術後等)、閉塞性動脈硬化症と診断されて治療中の患者さんです。
保険診療上では「心大血管疾患リハビリテーション料」として算定し、原則として算定できる期間は治療開始日から150日間となっていますが、病院によって疾患や術式ごとにクリニカルパスと言って治療スケジュールが定められている場合が多く、パスに沿ってリハビリも進めていきます。
近年は入院期間短縮、早期退院を目指す傾向にあり、早めに外来でのフォローに切り替える場合も多く、外来リハビリの需要も高まってきています。
大まかに心臓血管外科では、主に開心術後や大血管疾患の術後の患者さんのリハビリを担当し、循環器内科では心筋梗塞のカテーテル治療後や狭心症、心不全の患者さんの内科的管理中のリハビリを担当します。
心臓血管外科や循環器内科が設置されているのは、大学病院や総合病院等、診療科が多い病院の場合が多いと思いますが、心臓リハに携わる上で特に意識すべき点としてはリスク管理を厳重に行う必要があるということです。
どの診療科に携わる場合でもリスク管理は大切ですが、特に心臓血管外科や循環器内科の患者さんは急変・増悪リスクが高く緊急性を伴うケースも多いため、作業療法士(OT)としてもリスクを把握しすぐに対応できるスキルが求められます。
3.作業療法士(OT)の循環器内科・心臓血管外科での仕事
ここでは、循環器内科・心臓血管外科でのOTの仕事内容について紹介します。
理学療法士(PT)と類似している部分も多いですが、OTの専門性を活かせる部分もあり、特に退院支援においては重要な役割を果たすので、その点についても触れていきたいと思います。
患者さんの特徴
循環器内科・心臓血管外科でリハビリの対象となる患者さんは、脳血管障害での麻痺や骨折での運動障害など、分かりやすい特徴があるわけではなく、心疾患によって心肺機能が低下し、全身耐久性や筋力が低下しているという特徴があります。
治療によって一定の安静期間が必要な場合もあり、廃用症候群やせん妄等を合併しやすいため、リスク管理をしながら早期からリハビリ介入が重要となります。
循環器内科・心臓血管外科で行う作業療法
循環器内科・心臓血管外科で行うリハビリの代表的なものとして、有酸素運動と筋力トレーニングがあり、PTがメインで携わることもありますが、OTに求められることもあります。
また、OTが専門性を発揮する領域としては、心肺機能や全身耐久性に合わせた日常生活動作訓練や再発予防のための生活環境の見直し、福祉用具・住宅改修などを含めた環境整備などが挙げられるでしょう
高齢者の割合の多い慢性心不全の場合は、再発や悪化の不安を抱えながらの生活になり、入退院を繰り返すケースも多いのが現状で、普段の生活の中で心負荷がかかりすぎている動作はないか、負担を減らす工夫はないか、などを入院中から患者さんと相談しながらセルフコンディショニングできるよう指導していくことが重要となります。
急性期の短い入院期間では退院指導や生活環境の見直しが十分に行き届かないケースも多いため、外来でのフォローや在宅医療スタッフへ情報提供、支援体制を整えていくことも大切です。
また、専門性を高める手段として心臓リハビリテーション指導士という資格があります。心臓リハビリテーション指導士とは、包括的心臓リハを通じて循環器疾患ならびに再発予防とQOL向上を目的として「日本心臓リハビリテーション学会」が認定している資格で、OTも取得することが可能です。
チーム医療の中で求められる役割
心臓リハビリテーションでは包括的なチームアプローチが基本となり、リハビリ職の他に医師・看護師・薬剤師・管理栄養士・医療ソーシャルワーカーなど様々な職種が連携して患者さんのサポートを行います。
医師は患者さんの治療方針を考えリーダーシップを取っていく役割、看護師はケアを通し患者さんをサポートする役割、薬剤師は薬剤コントロールや薬剤指導を行う役割など、それぞれの職種に専門性に特化した役割があります。
OTはリハビリ中の状況を他の職種と共有し、退院後に問題となりそうな点のアセスメントを行い「生活を見据えて評価し支援ができる職種」として多職種と連携を取っていくことが重要です。
例えば退院後に必要となる社会資源について、医療ソーシャルワーカーと共有しケアマネージャーに繋いでもらう等、再発予防のために連携して切れ目のないサポート体制を作っていく必要があります。
4.循環器内科・心臓血管外科で働くスケジュールや勤務イメージ
ここでは、循環器内科・心臓血管外科で働く作業療法士(OT)の業務内容やタイムスケジュールについて解説していきます。下部に循環器内科・心臓血管外科を有する総合病院の心臓リハビリテーションチームに所属するOTのスケジュール例の表も示しています。
CCU(循環器疾患集中治療室)では、急性期や術後の集中的管理を要する患者さんが入院しているので、朝のカンファレンスに参加することで直接医師や看護師から情報収集ができ、リハビリの進め方の確認を行います。
カルテで情報収集を行ったら、病棟へ行きその日の担当看護師と情報共有を行いつつ患者さんの状態や安静度に合わせてベッドサイドや病棟内、心臓リハビリテーション室で個別リハビリを行います。
病院によっては心臓リハビリテーション教室といって、心疾患の基礎知識や運動療法、退院後の生活や栄養管理についてなど、対象の患者さんに向けて定期的に勉強会があり、OTが講義を担当することも。
また、定期的に心臓リハビリテーションチームの多職種が集まり、心臓リハビリテーションカンファレンスを開催する必要があり、対象の患者さんのリハビリの進行状況や退院目安などについて多職種で検討します。
理学療法士(PT)は連続歩行距離や自転車エルゴメーターの運動強度など、患者さんの運動耐用能について情報提供を行うのに対し、OTは日常生活動作における心負荷の程度や退院後の生活における課題や、再発予防のための自己管理能力など認知面についての情報提供を行います。
カンファレンスやリハビリ業務後はカルテ記載や退院される患者さんの情報提供書の作成や退院時リハ指導記録など事務作業を行い業務終了となります。
時間 | 業務内容 |
08:30~08:45 | CCUカンファレンス参加 |
08:45~09:00 | リハビリテーション科朝礼、リハ室環境整備 |
09:00~09:30 | 情報収集、カルテ確認 |
09:30~12:00 | 個別リハビリテーション対応 |
12:00~13:00 | 昼休み |
13:00~13:30 | カルテ記載、カンファレンス資料作成 |
13:30~15:00 | 個別リハビリテーション対応 |
15:00~15:30 | 心臓リハビリテーション教室で講義 |
15:30~16:30 | 個別リハビリテーション対応 |
16:30~17:00 | 心臓リハビリテーションカンファレンス参加 |
17:00:17:30 | カルテ記載、情報提供書作成など |
5.作業療法士(OT)が循環器内科・心臓血管外科で働く魅力
循環器内科・心臓血管外科で働くOTは理学療法士(PT)と比較するとまだ少なく、心臓リハビリテーション指導士の資格を持つOTもまだ少数派ではありますが、心臓リハの知識と経験を持っていれば強みをもったOTとしてキャリアアップのチャンスも広がりやすいという魅力があります。
対象の患者さんは認知症など合併症を有する高齢者も多いことや再発予防のために退院後の生活を見据えた指導が重要となるため、今後は更にOTの活躍が期待される分野であると言えるでしょう。
また、近年は在院日数の短縮により早期に在宅や施設での生活に移行するケースが多くなっており、訪問リハビリや通所リハビリで心疾患を抱える患者さんを担当することも増えてきています。
病院とは違い身近に医師や看護師がいない場合も多いため、心疾患増悪のリスクを見逃さないことはもちろん、再発予防のための生活習慣や日常生活動作の指導などを継続して行うことが地域で働くOTの重要な役割となります。
6.まとめ
今回は、循環器内科・心臓血管外科での作業療法士(OT)の仕事内容や求められる役割、働く魅力などについて解説しました。
まだ従事するOTの数が多いとは言えない分野ではありますが、これから益々活躍が期待される分野ですので、スペシャリストを目指してキャリアアップやキャリアチェンジを検討してみてはいかがでしょうか。
今回の記事が皆さんの職場選びの参考になると幸いです!
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【参照サイト】
厚生労働省 令和2年度診療報酬改定について 第3関係法令等 リハビリテーション