精神科での作業療法士(OT)の仕事といわれると、どのようなイメージをしますか。

精神障害領域で求められる患者さんの「こころ」の回復を促す作業療法は、一般的な「からだ」の回復を促す身体領域に対して行うリハビリとは違う部分も少なくありません。
 
ここでは、OTが精神科で求められる役割、勤務内容を分かりやすく説明します。

他の領域とは違った魅力がありますので、ご自分の合う仕事を見つける際の参考にしてみてください。

1.精神科で求められる作業療法士(OT)の役割

精神障害領域における作業療法は、精神疾患により生じた妄想や幻覚、不穏などの精神症状により日常生活や社会生活が困難になった患者さんが対象になります。

様々な作業活動を用いて、生活の支障となる精神症状の軽減を図ることで、患者さんが安らぎや自信を回復し、自分らしい形で社会生活に参加できるよう作業療法を提供していきます。

また精神科の身体障害領域における作業療法は、神経・筋・骨格・内科的疾患により生じた運動機能の低下、日常生活の低下をきたした患者さんが対象となりますので、社会生活に必要な身体能力やADLを獲得するために、機能回復やADLに直接的にアプローチする事も多いです。

2.作業療法士(OT)が担当する精神科の患者さんの特徴

精神科の患者さんの中でOTが関わる方に多い疾患として、統合失調症とうつ病が挙げられます。統合失調症は若い方が多く、うつ病は20代~50代の方が多い印象があり、病期は早い段階が中心になるでしょう、

文献「精神医学」によると、”統合失調症は100人に1人罹患している”といわれ、日本では約120万人の統合失調症者がいます。また同書内で“最も多い発症年齢は男性15~25歳、女性25~35歳”と言及されており、全体的に若い傾向であることが分かります。

また統合失調症の病期は文献やサイトで表現が異なりますが、文献「精神障害と作業療法」では、“要安静期、亜急性期、回復期、維持期、終末期の段階に分けられる”と定義されています。

その中でも、OTは亜急性期から早期に関わり、「病的状態の離脱」「二次的障害の防止」を図ることが大切です。

統合失調症は若い人が発症することが多く、社会経験が少ないまま入院生活が続くことも。その経験の少なさが、退院後の生活をさらに不安にさせていることも多いです。OTはそんな不安を汲み取って、患者さんのペースに合わせて、少しずつ、無理なく社会生活に戻れるよう支援することを意識しましょう。

先ほどの「精神医学」によると、“うつ病は患者数の最も多い精神疾患であり、日本では360~600万のうつ病者がいる”とされています。また“発症は児童期から老年期まで全年齢に渡りますが、その半数は20~50歳代で起こる”とあります。

うつ病は身体症状として睡眠障害や疲労感・食欲低下が現れることもあり、初めは内科を受診し、のちにうつ病と判明することもあります。

初めは「まさか、自分がうつになるなんて」と思う方もいるかもしれません。実際、私も実習で患者さんがそう言っているのを何度も聞きました。だからこそ、精神疾患を持つ方だけでなく、家族や友人など周りの方も心身の異変に気づけることが大切で、それが患者さんの早期受診につながっていきます。

3.作業療法士(OT)の精神科での仕事内容

「からだ」を治すリハビリと比べ、精神科で求められる「こころ」のリハビリは改善が目に見えやすいものではなりません。だからこそ、じっくり、ゆっくり、患者さんと向き合っていくことがとても大切です。

身体障害領域では、家事や入浴などが訓練内容となりイメージしやすいと思いますが、精神障害領域における作業療法では、自分自身(OT)との関わりそのものがリハビリにつながります。

そのため精神科では、OTがどう関わっていくと患者さんが安心できるのか、どんな作業を提供すればこころがやすらぐのかなど、患者さんの気持ちに寄り添った関わりができるかどうかが、適切な作業療法を提供する一番のポイントと言えるでしょう。

それでは、精神科で求められるOTの仕事内容について、もう少し具体的に見ていきましょう。

信頼関係を築き安心できる場を提供

患者さんとの信頼関係構築はOTにとって欠かすことのできないものですが、特に精神科では重要なポイントになってきます。

精神障害をもつ患者さんの多くは、これまで自然にできていた作業や社会生活が上手くおこなえなくなり、自信を失い、自分の世界に閉じこもっている状態ともいえます。

そのため、まずOTがすべきことは作業療法の提供ではなく、苦しみや不安に共感し寄り添い、患者さんにとって安心できる存在になっていくことです。

作業活動で患者さんの自信や能力を取り戻す

患者さんがより楽しむことができ、安心して取り組める作業(手作業や園芸、陶芸など患者さんの趣味に合わせたもの)を選択することで、自信や能力を取り戻すことも、精神科では特に求められます。

できないことをできるようにしていくことはもちろん大切ですが、患者さんが今ある力を確かめ、自信を取り戻せるよう支援していくこともOTの大切な仕事です。

私が作業療法の一環で患者さんと編み物をした時の話なのですが、不器用な私が編み物をうまくできないでいると、患者さんは私に編み方を教えてくれました。

教えてもらったのは私なのですが、お礼とともに褒められた時の患者さんは、嬉しそうで、いつもより表情が明るく変わっていたのが印象的でした。

このように、患者さん自身が「誰かに何かを教えられる」というのも、自己肯定感や自信を感じられるきっかけになるのです。OT自身の得意なことだけではなく、不得意なことも、関わりひとつでリハビリに活かせるのも、精神科の作業療法の醍醐味といえるでしょう。

他者との関わりの範囲を拡大する

初対面の人やあまり親しくない人と関わる時、緊張することありませんか。でも、そんな時、自分の安心できる人がそばにいると、その緊張が和らいだりしますよね。

OTが患者さんの安心できる存在になることで、患者さんは不安がありながらも少しずつ他の人と関われるようになっていくのです。

「他の患者さんと同じ場所で過ごせた」「今度はOTを含めて3人で話ができた」「他の患者さん同士で話ができた」というように、少しずつ成功体験を積み、徐々に関わりを広げていきます。

そうした活動を通して「他者と関わることへの不安や恐怖」を少しずつ軽減し、コミュニケーションスキルなど社会性を獲得しながら、社会生活に戻る準備をお手伝いしていきます。

4.精神科で求められる多職種との連携

これまでは、精神科で働く上で気になる、作業療法士(OT)に求められる役割や仕事内容、患者さんの特徴についてご紹介してきましたが、ここからは多職種連携について見ていきましょう。

精神科では多職種との連携が必要不可欠です。主に携わる職種との関係性を解説していきます。

医師とは治療方針の確認を

治療方針は必ず確認し医師とも積極的にコミュニケーションを取っていきましょう。

患者さんとの関わりの中で、精神症状の悪化や改善など変化があった場合には適宜報告し、服薬内容の変更は精神症状の出現に大きく影響するため、情報収集も欠かせません。

看護師とは生活リズムの情報共有を

1日の生活リズムの崩れは精神状態を不安定にさせる原因のひとつにもなります。夜間時の様子、睡眠時間、病室での過ごし方などのリハビリ室以外での様子を看護師から聴取することはとても大切です。

また、リハビリの視点で生活の中で取り入れると良いことなどの情報交換も密におこなうと良いでしょう。

精神保健福祉士(PSW)とは、家族情報などの情報共有を

生育歴や家族情報は患者さんの元々の人格や精神症状の出現に大きな影響をあたえていることが多いため、PSWとの情報共有は大切です。

また、退院後の生活を見据え、家族の意向をしっかり把握し、生活イメージを明確にした上でアプローチをしていく必要があります。患者さんと家族の考える退院後の生活イメージが異なる場合もあるので、PSWや医師への方向性の確認が大切です。

5.作業療法士(OT)が精神科で働く魅力

OTにとって精神科での仕事は、自分より年上の患者さんと関わることもあり、人生の先輩として心に響く言葉をいただくことも少なくありません。

もちろん最初からいいことばかりではなく、患者さんの中には他者に攻撃的な人がいることも。そうした時は、精神疾患を患った背景を理解し、その人の気持ちに寄り添うように心掛けると、精神症状の軽減につながり、その人の優しさや温かさ、人となりに触れられることがあります。

OTとして関わり、患者さんの笑顔や退院する姿、感謝の言葉をもらった時などには、「この仕事について良かった」と何とも言えない喜びや充足感を感じられます。

患者さんの人生というストーリーの一ページに微力ながらも自分が関われた喜び。これが、精神科で働く最大の魅力なのではないでしょうか。

6.心療内科との違い

こころの病気を見てもらうためには、精神科と心療内科の2つの診療科がありますよね。ただ、その違いは意外に知られていないもの。最後に、これらの違いについて簡単に見ていきましょう。

厚生労働省の「こころもメンテしよう」というサイトには、精神科と心療内科の違いについて明記されており、要約すると次のようになります。

精神科とは、こころの病気を専門に診る医療機関であり、その疾患は統合失調症・うつ病(感情障害)・認知症・薬物依存症などが挙げられます。

一方で、心療内科とは、ストレスなど心理的な要因で体に症状(胃潰瘍、気管支ぜんそくなど)が現れる「心身症」をおもな対象としています。しかし、病院によっては軽度のうつ病など、一部の精神疾患を診察する病院もあります。

つまり、精神科はこころの問題を中心に扱うのに対し、心療内科はこころが原因で生じる症状を中心にしています。

心療内科のクリニックは昔に比べると数も増えてきて、身近になってきていますね。何らかのストレスでこころが苦しくなってしまった時、体に不調が出てきた時に気軽に相談する方が徐々に多くなっているのかもしれません。

7.まとめ

精神疾患は同じ疾患名でも、同じ背景、同じ精神症状の方は1人としていません。だからこそ、日々患者さんに寄り添うためにはどうしたらいいのか、模索し学んでいく必要があります。

リハビリをおこなう中で、患者さんの関わりを見つめ直すことや、患者さんの今ある力を伸ばせる作業を選び実践することは、難しさもありますが、自分自身が成長するきっかけにもなるのではないでしょうか。

今回の記事が皆さんの職場選びの参考になると幸いです。転職先で悩む際はぜひ、PTOT人材バンクのキャリアパートナーにご相談ください。

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【参照サイト】
厚生労働省 こころもメンテしよう~若者を支えるメンタルヘルスサイト~

【引用文献】
山根寛:精神障害と作業療法.三輪書店.2008
上野武治:精神医学.医学書院.2006