作業療法士(OT)が勤める施設には様々なものがありますが、高齢の方のリハビリをサポートする施設の1つに介護老人保健施設(老健)があります。
老健は自宅退院を目指す入居者を多職種で連携しながら支えていく施設ですが、その中で求められるOTの役割や業務が気になる方も多いのではないでしょうか。
ここでは、老健の特徴について改めて解説したうえで、OTとして仕事内容を同じような施設との違いを交えながら説明していきます。
高齢者分野での仕事に興味のある方は是非参考にしてみてください。
目次
1.介護老人保健施設(老健)とは
老健は身体面や認知面に不安のある方が、日常生活の中でスタッフのサポートや必要な介護を受け、生活リハビリを通して自宅退院を目指しながら生活する施設です。
作業療法士(OT)はその中でも、より専門的なリハビリを行い、身体機能や認知機能、日常生活動作の回復を目指しながら、多職種と密にコミュニケーションをとり、スタッフが一丸となって入居者の自宅退院を目指しています。
2.作業療法士(OT)の介護老人保健施設(老健)での仕事
それでは、老健でのOTの仕事について詳しく説明します。
①OTの基本的な仕事内容とスケジュール
OTの仕事は入居者の医療ケアや、食事・入浴などの日常生活動作(ADL)の合間を縫って、個別リハビリを実施します。
個別リハビリは、体力の向上や体の柔軟性の向上、認知機能の維持向上などを目指す機能回復訓練から、食事や排泄、入浴動作の介助量の軽減や安定性の向上を目指すADL訓練など、多岐にわたります。
また、自宅退院が近い方には必要に応じて、サービス担当者会議への出席や、自宅改修のアドバイスなども行います。
多職種と連携することで、生活リハビリや集団レクリエーションの企画の際にOTとしての視点が役立つ場面も多くあります。
次に、タイムスケジュールの一例を見てみましょう。
個別リハビリのほかに、身体能力やADL能力を把握するために、食事場面や入浴場面に参加し評価する場合もあります。
時間 | OTの業務内容 |
08:30~09:00 | 出勤、準備 |
09:00~10:00 | OTスタッフ、多職種とのミーティング |
10:00~11:30 | 個別リハビリ |
11:30~12:00 | 午前に行ったリハビリや評価内容などの記録を書く |
12:00~13:00 | 昼食 |
1300~16:30 | 個別リハビリ |
16:30~17:00 | サービス担当者会議、申し送りなど |
17:00~17:30 | 午後に行ったリハビリや評価内容などの記録を書く、明日の準備、退勤 |
老健の特徴とOTの役割
OTが老健で働く魅力は、入居者と自宅退院を目指し、自宅退院を見据えたリハビリを行える点です。
日本作業療法士協会によると、OTの役割は、運動機能や認知機能といった基本的動作能力、食事やトイレ、家事などの応用的動作能力、地域への活動の参加などといった社会的適応能力の回復を図ることとされています。
自宅での生活はそのすべての能力が必要とされるため、OTには多角的な視点や入居者の生活環境を踏まえたアプローチが求められます。他にも、福祉用具の提案を行ったり、住宅環境の評価や住宅改修のアドバイスをしたりすることもあり、そうした知識や技術も必要になります。
その分、入居者が自宅退院した際の喜びややりがいは大きく、自身のスキルアップにもつながるでしょう。
また、老健では生活リハビリも機能回復には欠かせません。看護職や介護職と密に連携を取りながら、入居者のサポートを行える点もOTとしてのやりがいの一つです。
一方で、老健のデメリットとしては、1人の入居者と関わるリハビリ時間が短いことです。慢性期などの病院に比べ、老健は機能訓練指導員の職員数が少ないことから、1日に多くの方とリハビリを行う必要があります。
そのため、慢性期病院では2単位(40分)、回復期病院では3単位(60分)などと患者の状態に合わせて1回のリハビリにかける時間を調整しますが、老健では1人にかける個別リハビリの時間は1単位(20分)の場合が多くなります。
そして、そのほかのリハビリは機能訓練指導員以外でも行える生活リハビリが中心となりますので、一人ひとりとじっくりと向き合って時間をかけてリハビリを行いたい方には、あまり向かない働き方かもしれません。
3.特別養護老人ホーム(特養)との違い
次に、介護老人保健施設(老健)と近しい特養との違いについて、項目ごとにまとめました。作業療法士(OT)が働く際にどのような視点を持てばいいか、一緒に見ていきましょう。
①.入居条件の違い
老健は、自宅に復帰するための施設ですので、入院加療中の方は対象となりません。要介護認定で要介護1以上の方をサポートし、在宅復帰に向けたリハビリを行っていきます。
一方で特養の場合、終の棲家とする方もおり自宅での生活がモチベーションとなる方ばかりではありません。また、要介護3以上かつ65歳以上の方が対象となり、老健より重い症状の方の比率も多くなります。
ただ、40歳から64歳の特定疾患が認められる方など、特定の条件を満たしていれば入居できますので、必ずしも65歳以上かつ介護度3以上の方にリハビリを提供するわけではありません。
②.利用期間の違い
先ほども少し触れましたが、老健は終身利用を目的としていないため、原則3か月ごとに入居を継続するか判断し、可能であれば自宅退院を行ったり、他施設へ転院したりします。
1人の入居者とのリハビリ時間が短いということは前述しましたが、それだけでなく長期間関わっていくことも施設の特性上難しいといえるでしょう。
それに対し特養は、日常的に介護が必要とし自宅生活が困難な方が長期間にわたって生活できる施設であり、終身利用が可能です。そのため、同じ方と長い付き合いになる傾向が強いです。
③.OTの配置基準の違い
老健では、入居者の在宅復帰を目指し、医学的管理下において多職種が連携してチームケアを行うため、医師や看護師、機能訓練指導員の配置が必須であり、介護度が高く医療ケアを必要とする方にも安心して積極的なリハビリを提供でき、一緒に自宅復帰を目指せます。
特養では、PTOTSTといった機能訓練指導員の配置も必須ではないため、機能訓練指導員がいない施設も多く、介護士や看護職員だけで日常生活の介護やケアを行っているところもあります。
同じような職種の方と連携したリハビリを提供したい方は、現在の構成員をしっかり確認するようにしましょう。
④.施設の違いを踏まえたうえでOTができること
上記の点から、「入居者に積極的なリハビリを行いたい」「自宅退院など明確な目標を持って、入居者と関わりたい」という方に老健は特におすすめです。
ただ、特養でも生活の質を向上するために、身体機能や日常生活動作の維持向上を図ることや、多職種と協力し生活リハビリを取り入れることで、入居者のできる能力を伸ばしていくことが可能です。
老健、特養のどちらにおいても、リハビリの視点を多職種に伝えていくことは、入居者の生活の質の向上に大きく寄与するため、OTとしての存在意義は高まっているといえるでしょう。
4.高齢者と向き合うその他の施設と介護老人保健施設(老健)の違いとおすすめ
ここでは、高齢者の方との関わりがある施設をいくつか説明します。
慢性期病院との違い
慢性期病院では、急性期での治療が完了した方、または在宅や施設療養中に状態が悪化した方に継続的な治療とリハビリテーションを行い、在宅復帰を目指します。
症状の改善などにより継続的な治療の必要がなくなった場合、要介護度や目的に合わせて、在宅復帰や老健、特別養護老人ホーム(特養)、有料老人ホームなどへ引き継ぎますので、長期的なお付き合いは少ない傾向にあります。
また、老健に比べて医療設備や医師や看護師といったスタッフはもちろん、所属する作業療法士(OT)や理学療法士(PT)の人数も複数名いることも多く、リハビリの技術・知識も深めやすい環境である可能性も高いです。
経験年数が浅い、勉強会などがある職場が良いという方には、老健よりも慢性期病院での勤務をお勧めします。
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)との違い
サ高住は、比較的元気な高齢の方向けの賃貸住宅ですので、介護をあまり必要としない要介護の方や要支援の方のリハビリがメインになります。安否確認や生活相談サービス、介護、生活支援などを行います。
ただ、施設により細かな入居条件は異なるので、「医療ケアの対応の有無」「認知症の方の対応の有無」などは事前に確認するようにしましょう。
老健との違いは、自立の方や要支援の方も入居できたり、外出も自由に行えたりと、入居者の生活の自由度が高い点です。そのため、機能訓練指導員の配置義務がなく、OTが勤務していない場合がほとんどですので、リハビリ専門職一人だと不安という方は注意が必要です。
有料老人ホームとの違い
有料老人ホームには、「住宅型有料老人ホーム」や「健康型有料老人ホーム」など様々な種類がありますが、OTの勤務先としては主に「介護付有料老人ホーム」が考えられます。
介護付き有料老人ホームは、介護サービスを行う高齢者向けの施設ですが、介護を必要としない入居者もおり、幅広い状態の方と向き合う施設です。
入居者にリハビリや介護体制を提供しているため終の棲家とする方もおり、一人ひとりと向き合うことができます。また、看護師が入居人数に合わせて1人以上、機能訓練指導員も1人以上配置されていますので、他の専門職との連携も求められることもあります。
ただ、一人職場であることも多く専門職の総数は少ないため、1人当たりのリハビリ時間は少なく、集団での体操などを取り入れることも多いようです。
5.まとめ
高齢者の方が自宅以外で安心して過ごせる施設は複数あり、入居者の身体状況や入居者一人ひとりに向き合える時間も変わってきます。
介護老人保健施設(老健)は、入居者の能力に合わせた個別的なリハビリプログラムが実践でき、必要に応じて自宅環境の調整も行うため、様々な知識を持っていることが求められる職場です。
こうして聞くとハードルが高いと感じてしまうかもしれませんが、明確な目標をもって入居者としっかりと向き合えるためやりがいは大きく、教育体制が整った施設もあります。
施設の特性を知っておくことは、自らの希望に沿った仕事探しをするうえでの手掛かりになります。老健がこの記事を読んだ方の就職活動の選択肢の一つになれればうれしいと思います。
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【参照サイト】
日本作業療法士協会 作業療法士ってどんな仕事?
厚生労働省 介護老人福祉施設 医療関係職種の配置等に係る介護老人福祉施設の介護報酬上の評価
厚生労働省 サービス付き高齢者向け住宅の概要
厚生労働省 特定施設入居者生活介護 有料老人ホームの概況(平成28年度)