脳外科とは外科的治療を必要とする脳、脊髄、末梢神経系の疾患を対象とする診療科目であり、外科的治療後の機能回復のリハビリにおいて、作業療法士(OT)が深く関わります。
ただ、具体的にどのような仕事をし、役割が求められるのかは意外と分からない部分ではないでしょうか。
そこで今回は、OTの脳外科での仕事について詳しくご紹介していきます。
目次
1.作業療法士(OT)が脳外科で求められる役割
脳外科でのOTの仕事は、脳や末梢神経系の疾患で手術などの外科的治療後のリハビリが中心となります。脳出血やくも膜下出血や脳腫瘍、頭部外傷などが対象となります。
脳出血を例に挙げると、厚生労働省では次のように病期を分類していますが、あくまで代表的な例であり、症状の程度によって入院期間が延びることもあります。
病期 | 機関 | 状態 |
急性期 | 発症からおよそ1~2か月以内 | 発症直後の治療 |
回復期 | 発症からおよそ3~6か月以内 | 機能回復のためにリハビリテーション |
維持期 | 発症からおよそ6か月以降 | 日常生活に戻る訓練 |
他の病気でも同様ですが、脳外科では廃用症候群の予防のため急性期からリハビリが必要であり、術後の経過を医師から確認し、患者さんへの身体状況や負荷に気を付けながら早期からリハビリを行います。
病状が安定した回復期には、機能回復を図るためのリハビリを重点的に行います。特にOTでは、患者さんの症状を踏まえて、日常生活動作(ADL)の介助量の軽減を図ったり、介護者へ介助方法の指導をしたりする役割を担います。
維持期では、在宅や施設に戻るにあたって、回復した機能を長期的に維持できるよう関わります。必要に応じ、住宅改修などのアドバイスを行います。
また、脳外科のリハビリでは、合併症や再発に注意が必要です。既往歴に高血圧や心不全がある方は、運動の負荷量に配慮しなければならず、事前に医師と訓練の開始時期や訓練の中止基準などについて確認します。
他にも、運動前後の血圧や脈拍、酸素飽和度などを確認しながらリハビリを進めることもあります。急性期の患者さんで特に注意が必要になりますが、回復期でも訓練負荷を上げるときには患者さんの変化に留意する必要があります。
2.作業療法士(OT)の脳外科での仕事
それでは、脳外科でのOTの仕事を具体的にみていきましょう。
患者さんの特徴
脳外科の対象となる疾患は、脳出血やくも膜下出血、脳腫瘍、頭部外傷などがありますが、ここでは、OTとしてリハビリを行う機会も多い脳出血やくも膜下出血について、特徴を挙げていきます。
脳出血では、出血部位によって症状や予後が異なります。最も出現頻度が高い被殻出血では、片麻痺や感覚障害、失語症などが出現します。小脳出血では、四肢麻痺はみられませんが運動失調が出現します。脳幹出血では症状は重く、予後が不良になりやすいです。
くも膜下出血では、症状が軽度の方は社会復帰が可能ですが、重度の場合は重い後遺症が残ったり、死亡したりするケースもあります。
また、頭部外傷はもちろん脳出血・くも膜下出血どちらも共通して、高次脳機能障害が出現することもあります。記憶障害や注意障害、遂行機能障害などは日常生活動作(ADL)へ影響を及ぼすため、リハビリにて症状の改善を図ったり環境を整えたりしなければなりません。
脳外科で行う作業療法
臥床期間が長くなると、関節拘縮や筋力低下、起立性低血圧の出現など、廃用症候群がおこりやすくなるため、外科的治療後は医師の指示に従い、ベッド上で早期からリハビリを開始します。
ベッド上で関節可動域訓練や、上下肢の自動介助もしくは自動運動、ギャッジアップからの座位練習などを取り入れることで、廃用症候群の出現を予防し、症状が安定したら離床し、車椅子乗車につなげていきます。
脳出血などにより麻痺が出現している場合は、改善を図る上肢機能訓練を重点的に取り入れます。上肢機能の回復があまり見込めない場合は、利き手交換訓練や、自助具の提案なども柔軟に行い、患者さんが日常生活や社会生活での自立を図れるよう環境を整えます。
他にも、筋力強化やバランス機能向上を図り、ADLの介助量の軽減や安定につなげ、自宅生活そして社会生活へ戻れるよう支援します。
また、感覚障害を伴う場合には、感覚識別課題や認知運動療法などの訓練を行います。特に触覚や痛覚に鈍麻がある場合はけがのリスクが高まるため、感覚障害を踏まえてADL指導をすることが大切です。
症状が重度で起き上がることが困難な方には、褥瘡の予防も重要で、リハビリの視点から看護師やご家族へベッド上のポジショニング方法を指導することもあります。OTは患者さんの身体的苦痛を軽減できるように関わります。
チーム医療の中で求められる役割
理学療法士(PT)が、立位、歩行、階段昇降などの粗大的な運動機能を中心に重点的にアプローチするのに対し、OTは、排泄や更衣、入浴などのADLの介助量の軽減や自立を目指して関わり、退院前の患者さんの自宅に伺い、住宅改修のアドバイスを行うこともあります。
トイレ内の改修や夜間時のトイレ対応(ポータブルトイレの設置など)、浴室の環境調整(手すりの取り付け、シャワーチェアの導入など)を中心に介入します。こうした自宅内の環境調整は、患者さんが獲得したADL能力を退院後も維持するためにとても大切です。
言語聴覚士(ST)との連携においては、STが評価訓練した嚥下能力をもとに、OTは食事姿勢の評価や身体機能に適した食具を提案します。
高次脳機能障害がみられる場合は、その障害が与える影響を考慮してADL訓練を進めます。特に、半側空間無視などではADLへの影響が大きいため、患者さん本人の意識付けだけでなく、介護者にも高次脳機能障害の症状の理解を踏まえて介助指導を行います。
また、病棟の看護師に介助方法の指導を行い、訓練で実践していることを定着できるようアプローチすることも重要な役割の一つです。
3.脳外科のスケジュールや勤務イメージ
ここでは、脳外科での作業療法士(OT)のタイムスケジュールとその業務内容の流れについてみていきましょう。
基本的には、入院患者さん中心にリハビリを行いますが、中には外来の患者さんを担当することもあります。また、リハビリの合間に多職種やご家族を交えた担当者会議などを行い、患者さんがスムーズに自宅復帰するまでのサポートを確認すること大事な仕事です。
時間 | 業務内容 |
08:30~09:00 | 出勤。リハビリ専門職同士のミーティングを行う。 |
09:00~12:00 | 午前のリハビリ。 11:30~に病棟での食事が始まることが多く、食事評価に行くことも。 |
12:00~13:00 | 昼休憩 |
13:00~16:00 | 午後のリハビリ。 住宅改修のアドバイスに自宅に伺うこともある。 |
16:00~17:30 | リハビリ専門職同士のミーティングを行ったのち、リハビリ記録を書く。 |
17:30~ | 帰宅。日によっては勉強会に参加。 |
4.作業療法士(OT)が脳外科で働く魅力
これまで、脳外科で求められる役割や仕事についてみてきましたが、最後にOTがこの領域で働く魅力をご紹介します。
多職種との連携で多角的な視点を養える
脳外科でのリハビリでは、病状の予後や合併症などについて医師と情報共有することはもちろん、ADL訓練の進捗に合わせて看護師に患者さんに合わせた介助方法を伝達し、病棟での様子を共有してもらいます。
また、退院先がどこになるのか、主たる介護者は誰になるのかなど、患者さんの環境を取り巻く情報共有も必要になるため、医療ソーシャルワーカー(MSW)との連携も欠かせません。
このように、脳外科では、急性期病床・回復期病床ともに、リハビリ専門職だけなく、医師、看護師、MSWとのコミュニケーション機会は多く、幅広い視野を持つことができます。
回復期リハビリテーション病棟なら集中的に患者さんと向き合える
回復期リハビリテーション病棟では、リハビリ時間も3単位=60分間取れることも多く、集中的にリハビリを行えます。
ここに入院する3か月間で麻痺の改善が顕著にみられる場合もあるため、上肢機能訓練やADL訓練などで症状の改善がみられるときには、患者さんと喜びを分かち合え、自身のモチベーションにもつながるでしょう。
また、麻痺などの改善による身体機能に合わせた個別的なリハビリに加え、住宅改修のアドバイスのために自宅を訪問することもあるので、患者さんの退院後も想定した密なリハビリを行えます。
長期間向き合えるという点では高齢者施設などもありますが、身体機能の維持が目的となりやすく訓練時間も短い傾向にあるため、効果を感じるという部分は難しい側面があります。
脳外科でのリハビリは、3か月間患者さんとしっかりと向き合えるだけでなく、リハビリの成果を感じたいという方に向いています。
脳外科では勉強会などを実施する病院も多く学びの機会が多い
脳外科はOTが複数名在籍していることが多く、多職種とも関わりが多いことから、スタッフ間で患者さんのことについて相談しやすく、OTの知識はもちろん、多職種の見解を知り、様々な点において学びやすい環境であるといえます。
他にも、勉強会などを定期的に開催している職場も多いため知識を深めやすいことはもちろん、それを実践する機会にも恵まれています。
5.まとめ
脳外科では患者さんごとに症状も予後も大きく異なり、患者さんに合わせたリハビリプログラムを柔軟に立案し、実施する必要があります。そのほかにも、住宅改修の知識なども幅広く求められるため、やりがいとともに大変さもあるかもしれません。
その分、多職種とのチームアプローチが重要であり、多職種との関わりの中で自らの知識を増やし成長していける職場だといえます。
これからOTとしての知識を深めていきたい新卒の方や、これまでの知識を活かして患者さんと向き合いたい方に、脳外科での働き方をおすすめします。
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【参照サイト】
厚生労働省 脳卒中に関する留意事項