作業療法士(OT)として働く中で、つらいと感じることがあるでしょう。
ただ同じOTであっても、つらいと感じる原因は様々です。つらいと感じる原因やそれを乗り越えていくコツなどを事前に知っていれば、つらい気持ちをうまく切り替えていけるかもしれません。
この記事では、そんなつらいと感じやすいポイントや対処法について整理しましたので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
1.作業療法士(OT)として働く中でつらいと感じるとき
OTとして働く中でつらいと感じるのは、何が原因でしょうか。まずは、考えられる理由をまとめましたので、見ていきましょう。
心身の負担が大きい
身体的な負担として代表的なものは、基本動作訓練や日常生活動作(ADL)訓練などが挙げられるでしょう。
自らより重い体重の患者さんを持ち上げたり、支えたりする場面が多いです。介助時に腰や膝を痛めないようにするコツはあるものの、日々の業務の中で思いがけず体を痛めてしまうことは珍しいことではありません。
また、リハビリ中は安全管理を徹底しなければならず、気を抜けないということもあります。例えば、歩行や移乗時に突然患者さんがふらつき、とっさに支えないとならないことなど、一瞬の不注意が患者さんのケガにつながることもあり得るのです。
精神的な負担としてはスタッフ間のコミュニケーションなども挙げられますが、患者さんと親しくなりすぎることで、かえってトラブルのもとになることが代表的なものかもしれません。
特に、精神分野など精神的に不安定な患者さんと接することの多いOTは、自らのふるまいや発言で患者さんを不安にさせてしまうリスクを伴います。患者さんの思いに寄り添いつつも、専門職としての一歩引いた視点・関わり方を求められるため、ただ仲よくなれば良いわけではなく、精神的に疲弊してしまう方もいます。
OTが身体障害、精神障害ともにアプローチできることは「OTとしての強み」でありますが、その分身体的にも精神的にも疲弊しやすい、という側面も持ち合わせているといえます。
円滑なコミュニケーションが難しい
患者さんにとって効果的なリハビリを実施するためには、OTとしてリハビリをするだけでいいのではありません。OT同士はもちろん、多職種と情報交換をし、連携をとることが必要不可欠です。
例えば、入院中の患者さんであれば、担当の理学療法士(PT)や言語聴覚士(ST)とともに目標を定めたうえで訓練内容を設定する必要があります。
また、排泄や食事といったADL訓練を行っている場合、実際に病棟でもリハビリ時と同様の動作や介助方法が実践できるよう看護師(Ns)にサポートを頼むこともあります。時には医師と相談し、リスク管理を徹底しなければならないこともあります。
自らよりもキャリアも年齢も上の多職種のスタッフと連携をとることは、時に大変に感じることもあるでしょう。スタッフと意見が、必ずしも一致するとは限らないので、コミュニケーションの難しさを痛感することもあるかもしれません。
しかし、患者さんのためには、意見が異なる時でも、相手の意見を汲みながらも、OTとして主張をしていくことが求められます。そのため、OTでは対人関係で悩む方も少なくありません。
仕事の成果が見えにくい
リハビリの成果は、一朝一夕で効果が現れるものではありません。1~2か月もしくはそれ以上かかって、やっと患者さんの納得のいく効果が現れたり、進行性の疾患では改善が難しかったりすることもあります。
しかし、病気で障害を負ったばかりでは、ショックで「すぐにでも改善したい!」と強い思いを持っている患者さんも少なくありません。
そのため、患者さんの中には、思うように障害の程度が改善せず、OTにイライラとした気持ちをぶつけることもあります。そんな患者さんに寄り添うこと大切な仕事ですが、中には無力感を覚え仕事が辛くなってしまう方もいます。
自己研鑽を求められ、勉強量が多い
医療は日々進化しており、リハビリに関する知識も技術も同様です。
OTとして患者さんに効果的なリハビリを提供するためには自己研鑽が求められ、患者さんの疾患や症状なども多岐にわたるため、自分の知らない疾患の患者さんを担当すれば、その都度知識のアップデートが必要になります。時には、思うようにリハビリができずに悩むこともあるでしょう。
また、職場によっては、持ち回り制で症例検討会があったり、勉強会を開催したりするところもあります。学会参加を推奨するところもあるでしょう。人前で発表をするなどといったことが苦手な人には、つらく感じることもあるかもしれません。
労働環境に不満がある
職場によって労働環境は様々ですが、人手不足の職場では、業務量が多かったり、残業が多かったりする職場もあるでしょう。
仕事の忙しさに比例して給料が多ければ、まだ納得もできるかもしれませんが、OTの業界では、「忙しい=給料が高くなる」というわけにはいかない現状があります。
OTの平均年収は約427万円で、一般企業に比べても決して高いわけではありません。そのため、「業務量は多いのに、給料が少ない…」と感じて、転職をしたくなったり、OTの職自体を辞めたくなったりする人もいるのは事実です。
なお、OTの収入については、『【2023年版】作業療法士(OT)の年収~月給や給与UPの方法を総まとめ~』の記事で解説しているので、「もっと収入について詳しく知りたい」と感じる方は、ぜひ参考にしてみてください。
2.つらいと感じた時の乗り越え方
つらいと感じても、すぐに退職を考えるのではなく、できれば今の職場で頑張りたいと考える方も多いのではないでしょうか。つらいと感じた時の乗り越え方を知っておくだけでも、心が軽くなるかもしれません。
乗り越え方の一例をまとめたので、ぜひ参考にしてみてください。
身体的につらい時
身体的な負担により、すでに腰や肩などに痛みがあって困っている場合は、整形外科クリニックや接骨院などを受診し、体の痛みを改善しましょう。そして、痛みが引いたら、痛みが生じにくくなるような対策を取りましょう。
腰痛がある場合は、体幹の筋力が弱く腰を痛めやすい方もいるので、筋力トレーニングが効果的なこともあります。また、自分の介助方法を見直すことも効果的です。肩や腰に負担がかからないような介助方法を習得することも大切です。
職場に働きかけ、労働環境を改善することもよいでしょう。介助量の多い患者さんは二人介助で対応するのはもちろん、受け持ちの患者さんの調整なども相談してみてはいかがでしょうか。
もし、どうしても今の職場では改善が難しい場合は、身体的負担が少ない職場に転職することも方法の一つです。
具体例としては、積極的なリハビリを要する回復期病院でのリハビリから、自宅退院した方を対象とするデイケアへ転職するなどです。転職する場合は、今の知識を活かせる職場選びがおすすめです。
精神的につらい時
精神的につらい時は、まずその気持ちを誰かに打ち明けることも大切です。自分の中のモヤモヤを吐き出すことで心が軽くなります。
職場の同僚や上司など、信頼できる人がいれば一番ですが、もし伝えづらければ、家族や養成校時代の友人などに相談するのもいいでしょう。相談しているうちに、自分の考えがまとまり、スッキリとしてくるかもしれません。
精神的に悩む原因が、患者さんであったり、他職種のスタッフとの関わりであったりする場合は、職場の上司に相談しましょう。アドバイスをもらえたり、間に入ってもらうことで改善が期待できたりするかもしれません。
また、根本的な解決ではありませんが、気分転換につながる趣味を作ることも効果的です。元々好きな作業活動があれば、それを極めてもいいですが、軽い運動を取り入れてみることもおすすめです。
散歩やジョギングなどを休みの日に取り入れることで、気持ちをスッキリさせる効果が得られます。体力もつくので、一石二鳥です。
効果が見えにくい時
患者さんのリハビリ効果は、患者さんの疾患や障害の程度や種類によって効果の差はあります。
作業療法士(OT)として大切な視点は、「小さな変化でも見逃さない眼」を持つことです。患者さんの良くなった点や頑張りを見逃さず、些細なことでもフィードバックすることで、喜びや達成感につながるでしょう。
特に、小児分野の場合、障害を持つ児童は年単位のスパンで、成長とともにゆっくりと改善が現れることも少なくありません。OTだからこそ気づける小さな改善点をご家族に伝えることで、喜んでいただけることもあるでしょう。
小児分野でのリハビリでは、年単位で特定の児童に関わることも多く、リハビリを介して成長を見守れることも、やりがいにつながります。
そして進行性の疾患や、老年期の患者さんの場合、改善が見込めないこともあります。リハビリは「良くすること」がすべてではありません。「身体的・心理的な苦痛を和らげること」も患者さんの生活の質(QOL)の向上に大きく関わっていきます。
患者さんによっては自ら言葉で痛みや不快感を訴えられない方もいます。OTとして、患者さんを評価し、思いを汲み取りながら、患者さんにとって不快感が少なく安心できるようにアプローチすることも、大切な役割です。
自らが働く職場で、どのようなリハビリを求められているのかを見極めることで、OTとしてのやりがいを見つけられるのではないでしょうか。
OTとしての自己研鑽が思うようにできない時
リハビリをする中で、自らの知識や技術が不足していると感じ、仕事がつらくなる時もあるでしょう。
自己研鑽は短期間で完了するものではなく、コツコツと勉強なりキャリアなりを積み重ねることで、知識や技術が備わってくるものです。まずはあせらず、大なり小なり自己研鑽を積む努力をしてみることが解決の糸口につながります。
知識や技術を積極的に学びたいという方は、教育体制の整った職場や、OT人員が多く指導をしてくれる先輩や上司がいる職場を選ぶことをおすすめします。
反対に、職場内で症例検討会や勉強会の発表があるとストレスになる、自分のペースで勉強をしたいという方は、小規模の職場に勤め、自分のペースで外部の勉強会などに参加をしてみるといいでしょう。自己研鑽の方法は一つではないので、自分に合った方法で取り入れてみると、自己研鑽が負担と感じにくくなります。
それでも「現在の職場では、自分にとって求められているものが高すぎる」と感じてしまう方は、負担の少ない職場を探してみてはいかがでしょうか。転職については、次の項目で詳しくポイントを解説します。
3.転職やキャリアチェンジも視野に入れる
職場の労働環境や給与面での不満などは、上司に相談をしたとしても、少しの変化はあっても短期間で大きく変わることは難しい場合が大半です。もし、今の職場で「つらい」と感じ、心身に過剰な負担がかかっている場合には、思い切って転職をすることも改善策の一つです。
「今の職場で働き続けることが難しい」と感じる場合には、作業療法士(OT)そのものを辞めてしまうのではなく、自分に合った条件の職場探しをしてみてはいかがでしょうか。職場環境が変わることで、悩みが解消されることも多々あります。
転職をする際のポイントを、例を交えながらまとめました。ぜひ参考にしてみてください。
希望 | 当てはまる職場の一例や、転職時にチェックする項目 |
・新入職員として、OTの基礎を一から学びたい。 ・今以上に新しい知識や技術を習得し、OTとしてのキャリアを磨きたい。 | ・OTの人数が多く、ベテラン職員、中堅職員が複数そろっており、指導体制が整った職場(回復期病床を持つ総合病院など)を選ぶ。 ・プリセプター制度や、勉強会の開催など、教育体制が整った職場を選ぶ。 ・常に知識をアップデートしたい方には、国立の病院など異動がある職場に勤めると、転職をせずに新しい職場(分野)でキャリアを積めるのでおすすめです。 |
・ライフワークバランスを重視したい。 ・残業が少ない職場で働きたい。 | ・高齢者施設など、土日祝日休みの職場を選ぶ。 ・求人票の年間休日や残業時間を確認するようにしましょう。給与に見込み残業が含まれている場合もあるので、要注意です。 ・産休や育休の取得実績を確認することも大切です。女性はもちろん、最近では男性の育休取得も増えてきているので、確認してみてください。 |
・身体的な負担が少ない職場で働きたい。 | ・精神疾患を対象とする職場を選ぶ。 ・自宅で生活している方は比較的介助量が少ない傾向があります。自宅で生活する高齢者を対象としたデイサービスなどがおすすめです。 ・転職時に実際に施設見学をし、患者さんの様子を確認することもおすすめです。(高齢者施設では、どの程度の要介護度の方が多いかなど。) |
・収入面を重視したい。 | ・公立の病院に勤め、公務員になる。 ・学校の教員は比較的収入が安定している傾向があり、キャリアが長い方にはおすすめです。 ・求人票を確認し、給与の高い職場を選ぶ。民間であれば組織の大きい病院などがおすすめです。 ・副業OK の職場を探すのも一つの手です。 |
4.大変だけどやりがいもある作業療法士(OT)
ここまでは大変さ、辛さについてご紹介してきましたが、その一方でOTはやりがいのある仕事です。身体機能はもちろん、高次脳機能や精神機能にもアプローチし、日常生活動作(ADL)の改善を図り、患者さんの自宅復帰や社会復帰を支援する仕事です。
そのため、患者さんの生活場面にもより密接に関わることができ、患者さんの喜びを間近に見守れ、やりがいを感じる瞬間が多くあります。
私の体験談ですが、回復期病院で働いていた時に、担当した患者さんが、自宅退院後数か月後に病院へ訪れてくれたことがありました。患者さんの明るい笑顔を見て、とても嬉しい気持ちになったことを今でも覚えています。
また、小児のデイサービスで働いている現在は、年単位で継続して児童に関わる中で、ADLの向上が認められたり、遊びの中で社会性の向上を引き出せたりと良い変化が見られ、ご家族から感謝の言葉をいただいた時にはやりがいを実感します。
OTとして患者さんの人生の一部に関わり、リハビリが生活の質の向上につなげられることは、とても大きな喜び、達成感が得られます。私自身、それこそがOTの仕事の一番の魅力だと感じています。
誰かの役に立っているということを実感できた時、OTという仕事に自信と誇りを持つことができるでしょう。
5.まとめ
これまで、つらいと感じる原因や乗り越え方、前向きにとらえる方法などを解説しました。
実際に今、職場でつらい思いをしているという方や、作業療法士を目指しているけれど不安を感じている学生の方などが、少しでもマイナスな気持ちを和らげ、前向きな気持ちになれればいいなと感じます。これから就職活動をするという方は、ぜひ職場選びの参考にしてみてください。
また、私の体験談も交えていますので、仕事に対してマイナスの感情を持つのは自分だけではないと思えたり、つらければ現状を変えてみることでプラスになることもあるのだと感じてもらえたりすれば、嬉しいです。
お悩みの際はお気軽にPTOT人材バンクのキャリアパートナーにご相談ください。
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