社会人経験者のなかには、「今からでも医療に携わりたい」「定年後を見据えて安定した資格が欲しい」など、様々な理由から作業療法士(OT)を目指そうと考える方もいらっしゃるのではないでしょうか?
しかし、50代という年齢から新たにOTの養成校に通うことに二の足を踏んでしまう方もいらっしゃるでしょう。この記事では50代がOTを目指すにあたって知っておくとよいことを、現役OTの視点や、私の学生時代に50代の後輩がおり、かかわった体験をもとに解説していきます。
目次
1.作業療法士(OT)は50代から目指せる?
作業療法士(OT)を目指す方のなかには、ほかの職種での社会経験を経てOTを目指す方もいるでしょう。では、何歳までならOTを目指せるのでしょうか。
厚生労働省「作業療法士国家試験の施行」によると、OTの受験資格について以下のように記載されており、OTを目指すのに年齢制限はないことがわかります。
文部科学省令・厚生労働省令で定める基準に適合するものとして、文部科学大臣が指定した学校又は都道府県知事が指定した作業療法士養成施設において、3年以上作業療法士として必要な知識及び技能を修得したもの
厚生労働省「作業療法士国家試験の施行」
しかしながら、50代からOTを目指すにはメリットもデメリットも持ち合わせているため、その点を理解したうえで目指すことをおすすめします。
2.50代から作業療法士(OT)を目指す方法
50代から作業療法士(OT)を目指す方法を、具体的に解説していきます。
作業療法士になる最短ルート
OTになるには、専門学校、短期大学、大学と手段がありますが、学校によって4年制と3年制の違いがあります。4年制は余裕をもって学習ができるというメリットはあります。しかし、50代からOTを目指す場合は少しでも早く卒業できたほうが資格を活用できる時間が長くなるため、3年制をおすすめします。その場合、短期大学か専門学校を選択するとよいでしょう。ただし、「専門学校=3年制」というわけではなく、学校によって4年制を導入しているところもあるので、注意しましょう。
学校選びのポイント
学校を選ぶ際は何に注意すればよいでしょうか。ポイントを詳しく見ていきましょう。
専門学校または短大がおすすめ、大卒者は履修免除の可能性も
50代でOTを目指す場合、少しでも早く卒業し、OTとして活躍できる時間を長くするほうがよいでしょう。そのため、前述のとおり3年制の専門学校か短期大学をおすすめします。
さらに、すでに大学を卒業している方なら、履修済みの基礎科目(保健体育や英語、学部によって物理学や生物学など)を免除できる場合もあり、負担を減らせます。ぜひカリキュラム内容をチェックしてみてください。
(出典:厚生労働省「作業療法士国家試験の施行」受験資格(1))
通学時間も考慮
50代は10・20代と比べると、体力の低下は免れません。そのため、通学時間は極力短いほうがよく、自宅から近い学校を選ぶとよいでしょう。特に、通学にあたり年齢問わずどの生徒も車通勤不可のため、公共交通機関を使って通える学校にしましょう。学校によっては寮があり、活用するのも一つです。
学校ごとのカリキュラムの違いに注目
学校ごとのカリキュラムの違いにも着目しましょう。OTになるには避けて通れない臨床実習は、年代関係なく体力・気力ともに要します。その後の国家試験に向けた学習も侮れません。OTの学校は留年をすることが珍しくないのです。そのため、できるだけアフターフォロー体制が充実している学校を選び、留年を回避できるようにするのがよいでしょう。できれば学校を決める前にオープンキャンパスに参加し、相談会を利用して臨床実習の詳細や、国家試験対策も含めたアフターフォロー体制を確認しておきましょう。
学費はフォロー体制も含めて要検討
学費は私立に比べると公立の学校の方が安くなります。しかしながら、公立は私立に比べるとフォロー体制が厚いとはいい難いので、フォロー体制が欲しい方は私立の学校をおすすめします。同じ私立でも学校ごとに学費のばらつきがあります。ぜひ複数の学校を比較してみてください。また、条件を満たせば奨学金も利用できますので、少しでも負担を減らしたい方はぜひ学校に問い合わせてみてください。
通学と働きながら学べる制度
50代でOTを目指す人のなかには、3年間収入が途絶えるのが辛い方もいるでしょう。そんな方には夜間部の学校をおすすめします。昼間は仕事をしつつ、夕方から通学する制度です。夜間部は仕事を辞めずにOTを目指すことが可能です。ただ、注意が必要なのは、臨床実習を履修しないとOTの受験資格は得られません。そして、臨床実習は基本的に平日の9:00~17:00(施設によっては多少開始・終了時間がばらつくことがあります)を数週間受けないといけないので、仕事をまとまって休む必要が出てきます。働きながらOTを目指すためには、職場の協力が必要不可欠です。
3.50代から作業療法士(OT)を目指すうえで注意すべきこと
50代から作業療法士(OT)を目指すときの注意点を解説します。
学費と時間の確保
親御さんが学費や生活費を出してくれる10代の学生と異なり、50代でOTを目指す方は、ご自身で学費を捻出されることでしょう。学費と生活費の両方を工面するためには、OTの学校に入学する前に、事前計画をしっかりと立てることが大切です。前項でも少し触れましたが、時には奨学金や教育ローンを検討することも一案です。奨学金については、受けるには成績が優秀であることなどの条件があったり、返済の要・不要があったりと、内容に違いがあるので、注意が必要です。
また時間の確保においては、働きながらOTを目指す方は会社の方の理解が、家庭をお持ちの方は家族の理解が必要不可欠です。特に実習期間中は実習後にもレポートや課題があったり、国家試験前は多大な勉強時間が必要だったりと、負担が大きくなるものです。必然的に仕事や家庭が疎かになってしまうので、事前にしっかりと相談をして、サポート体制を整えておきましょう。
体力がある若い方ですと、実習期間は睡眠時間をかなり削り乗り切ってしまうこともありますが、50代はそうはいきません。課題をこなすにもスケジュールを立て、睡眠時間を確保しないと体調を崩してしまい、実習を中断する事態になりかねません。無理をしすぎず時間管理を徹底することが、健康管理にも直結するということを忘れてはいけません。
就職活動でも準備が大切
就職活動では、50代は20代に比べると体力面を懸念されたり、働ける年数が少なくなってしまったりすることから、どうしても不利になってしまう場合があります。そのため、なぜ自分はOTになりたいのか、OTになったら何がしたいのかを明白にしておくことが大事でしょう。
そして、就職後も注意が必要なのは、「自分は新人である」という謙虚な姿勢が大切です。50代でOTを目指すということは、OTになる頃には50代半ばとなるでしょう。そうなると、指導者は年下の可能性が高いです。それどころか学生時代の先輩や教員も自分より年下ということも大いにあり得ます。
そのため、自分よりも若い方から厳しいことを言われたとしても、落ち込んだり、腹を立てたりせず、真摯に受け止められる姿勢が大切になります。
4.50代からOTを目指す勉強のコツ-暗記の必要性と効率的な学習法
50代の方におすすめする、作業療法士を目指す勉強のコツを解説します。
OTは人体の構造など基礎的な医療知識を頭に叩き込まなければならず、暗記は避けて通れません。しかし、若い方に比べると、どうしても記憶の定着に時間をかけなければなりません。そこでおすすめなのが、繰り返し学習です。何度も何度も反復することで、記憶は定着します。なかなか反復学習に時間が取れないという方は通学時間などを活用しましょう。単語帳やアプリを使ったり、持ち運びやすい小さめの参考書を買ったり…すきま時間にさっと知識の確認をできる、自分に合ったツールを見つけてみてください。
そして、アウトプットも積極的に行いましょう。同級生と知識を確認し合ったり、勉強を教え合ったりすることで、より知識が定着します。そして、自分の知らなかった(不足していた)知識を補えるので一石二鳥です。
最後に、50代の方は特に睡眠時間の確保が必要です。寝不足の頭で覚えたことは、抜けてしまうのも早いです。特に、睡眠中に記憶を定着させるとも言われますので、しっかり暗記したいものは寝る前に反復することも効果的です。
5.OTが50代から就職活動を成功させるためのポイント
50代から就職活動を成功させるポイントは、まず情報収集を早めに開始することが大切です。その職場がどんな人材を求めているのか、病院の雰囲気や求人票から読み解く必要があります。
たとえば、新人育成に力を入れていて若い人材を欲しがっているのか、それとも社会人経験があり基本的な接遇マナーを習得している精神的に成熟した人材を欲しがっているのかで、就職活動の成功率は大きく変わります。闇雲に就職活動をするのではなく、自分の強みは何かをしっかりと考え、就職活動をしましょう。
「社会人経験があるからこそ、年配の方の気持ちに寄り添える、気配りができる」「(放課後等デイサービスなどでは)育児経験が活かせる」などといった自分の良さを武器として、面接官にPRしましょう。
6.定年後を見据えたOTのキャリア設計の必要性
せっかく取得した作業療法士(OT)の資格ですからできるだけ長く働きたいと思うものです。「定年したらもうOTとして働けない」と考えているのなら、非常にもったいないです。
職場によっては定年を設けていても、その後も働き続けられる場合があります。病院や施設に就職の際は、定年制と再雇用制度の実情を確認しておきましょう。特に小規模の職場は、人員不足な背景もありノウハウを持っている職員にそのまま働いてほしいと考えているところも少なくないです。ただ、定年前に比べると再雇用で給料が下がってしまう場合もあるので、注意が必要です。
そのほか、訪問リハビリや放課後等デイサービスなどを掛け持ちするなどして、一つの職場にこだわらず柔軟に働くのも一つの方法です。また、近年ではOTであることを活かして、SNS運営をしたり、健康維持を主体とした教室(ピラティスなど)を運営したりと、働き方の選択肢が増えています。
7.50代から作業療法士(OT)になった場合の年収・給料
実際に50代から作業療法士(OT)になった場合の収入が気になる方は多いと思います。
厚生労働省が公表している「令和5年賃金構造基本統計調査」では55~59歳の1~4年目の月収は35万200円です。50代であってもOTとしては「新人」という扱いであり、これまでの社会人経験は考慮されません。ただ、OTは昇給があるので、少しずつですが収入は上がってくるでしょう。
月収は施設規模や地域によっても金額は多少異なります。例えば、精神科の病院では比較的年収が高かったり、規模の大きい病院では月収が少なくてもボーナスや年間休日が多かったりと、月収だけでは測れないメリットがあることも少なくありません。パートの場合では訪問リハビリは比較的時給が高いなど、自分の望む条件の職場を選ぶことで、収入を増やすことが可能でしょう。
(出典:令和5年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種 表番号5 年齢階級別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計))
8.50代から作業療法士(OT)を目指すメリット
50代から作業療法士(OT)を目指す最大のメリットは、国家資格は定年後もなくならず、働くスタイルを変えれば、いくらでも活躍できるということです。
「定年制度があるし、体力も必要だから長く働くのは難しいのでは?」と思った方もいるかもしれません。確かに総合病院であれば、若い人材を複数確保できるので高齢の人材を新たに雇う余裕はないかもしれません。しかし、今は超高齢社会で障害を持ちながらも地域で暮らす高齢者が多くいるので、病院以外にも高齢者施設、デイケア、訪問リハビリなどでOTの需要は高まっています。
そして、50代だからこそ、若年者に比べると年齢が近い高齢者の気持ちをリアルに想像でき、寄り添える存在になれるのがメリットでもあります。訪問リハビリでは、リハビリはもちろん相談を受けることも多くあり、冷静に物事を分析し対処できる人材が重宝されます。もし、ご自分が高齢者だったら、自分の困っていることをリアルに想定してくれて、寄り添ったアドバイスをくれる専門職が自宅に訪問してくれたら、とても安心できると思いませんか?
さらに、訪問リハビリは訪問件数をある程度調整でき、直行直帰が可能なので、高齢になっても働きやすいというメリットもあります。もちろん、OTの養成校を卒業後就職した病院や施設に働き続けるのも一つですが、資格を活かして、パートに切り替え、体に無理の少ない柔軟な働き方ができるのが大きな魅力です。
9.まとめ
この記事を読んで50代でも作業療法士(OT)を目指すにあたっての実態を知っていただけたでしょうか。養成校の資料請求、体験入学を活用して、OTという仕事をより詳しく知ってみてください。ご自分のスキルや時間を見直し、学習計画を立てることで、目指すビジョンを明確にすることができるでしょう。
「50代だから遅い」とあきらめかけていた方も、決して無理なことではなくチャレンジが可能なのです。現役OTである私としては、OTはとてもやりがいのある仕事と感じているので、新しい環境で学ぶ楽しさや新しいキャリアを築く充実感を感じていただけたら幸いです。
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