作業療法士(OT)のキャリア形成の一つに大学院進学がありますが、OTの大学院進学はハードルが高いイメージが強く、進学率はあまり高くないのが現状です。

この記事で大学院生活の実情を知り、大学院進学への理解を深めてみることで、キャリア形成の選択肢を増やしてみてはいかがでしょうか。

1.作業療法士(OT)が大学院で積めるキャリア

ここでは、現役のOTやOTを目指す学生が大学院に進学することで、どのようなメリットを得られるのかを説明していきます。

大学院で得られるもの

OTが大学院に進み、修士課程を修了すれば『修士』の学位、博士課程を修了すれば『博士』の学位を取得できます。博士課程では、修士課程よりもより専門的で高度な知識を学び、研究をしていくことになります。博士の取得を目指す人は、臨床現場で働くより、教職や研究者の道へ進むことを目的とした人が多いようです。

大学院に行くためには、必ずしも大学を卒業している必要はありません。専門学校を卒業していても、大学院へ進学することができるケースもあります。4年過程の専門学校で、『高度専門士』の学位が得られる専門学校を卒業していれば、大学院への進学は可能です。

大学院に進学することで、理論に基づいた治療法やより専門的で高度な知識を学んだ者として、キャリアの証明やアピールポイントの一つになります。それにより、就職活動がスムーズになりやすいというメリットがあります。

OTとして得られるもの

大学院での研究や論文作成を通して、論理的思考や分析力、論文を読み解く力などを伸ばすことができます。これらの能力や論文から得た知識を踏まえ、臨床で柔軟なリハビリを実施したり、後進の指導の場で活用したりすることもできるようになります。

大学院を卒業することで、臨床現場はもちろん、大学の教員や研究者などといった、これまで以上に幅広い分野で働くことができ、自分のOTのキャリアを高めることにつながります。

また、大学院は大学や専門学校よりもさらに生徒数が少なく、指導教員とのかかわりも深いです。大学院の生徒は社会人経験のある方も多く、研究を深めている者同士なので、交流を図ることで自らの知見を広げるきっかけになり、貴重な人脈づくりにもつながります。

2.大学院進学を選ぶ際に押さえておきたいポイント

次に、作業療法士(OT)が通う全国の大学院の傾向を踏まえ、大学院進学にあたって押さえておきたい大切なポイントを解説していきます。

必要な学費

大学院進学で必要になる費用は、学校によって差はありますが、修士課程で100万円~250万円ほど、博士課程で250万円~450万円ほどといわれています。ただし、在学年数が伸びれば、その分学費も高くなるので、前述した以上の費用が掛かることもあります。そのほか、学費以外にも研究のための参考書籍の購入費なども別途必要です。

費用面で不安がある方は奨学金を利用することも一つの方法です。奨学金にはさまざまな種類があり、大学独自で奨学金を設けているところもあります。各奨学金の利用対象者や金利、返済の条件などは、奨学金ごとに異なります。

奨学金の利用を考えている人は、卒業後の返済計画も含めて希望する大学や病院に問い合わせしてみるとよいでしょう。

また、現在OTとして勤め、今後も働きながら大学院に通うつもりの方は、職場でキャリアアップを支援する助成制度がないかを調べてみてはいかがでしょうか。

さらに、社会人の大学院進学を支援し経済面の便宜を図る制度として、「長期履修制度」を利用できる学校もあります。これは、2年間の修士課程を最大4年間で履修した場合に、事前に申請しておくことで、学費総額をかかった年数分で分割し支払える制度です。

長期履修制度を利用し「3年もしくは4年で履修をする」ことを事前に申請すれば、2年で修士課程を履修できなくても留年扱いとならず、学費が上乗せされずに済みます。仕事や家庭と大学院生活を両立したいと考える方は、知っておくとよい制度です。

大学院の特徴を知ろう

大学院を選ぶポイントは、まずは自分が学びたい分野が研究できるところか確認しましょう。大学院のホームページを確認したり、オープンキャンパスに参加したりすることで、各大学院の特色をつかめます。オープンキャンパスでは個別相談会も併せて実施し、大学院生活の疑問などを直接聞ける場を設ける大学院もあります。

また、直接大学院に出向かず、自宅にいながら大学院のことを知れるオンラインでのオープンキャンパスを実施している大学院もあるので、大学院進学に興味がある方は参加してみてはいかがでしょうか。

自分の生活スタイルに合った大学院を選ぼう

大学院選びでは、自分のライフスタイルに合わせて通学できる学校かどうかを見極める必要があります。

平日夜や土曜に講義が開講している大学院も複数あり、日中は施設や病院でOTとして働きながら大学院生活を両立している方もいます。しかし、その実情は勉学や研究などでかなり忙しい日々になるといえるでしょう。

そのため、オープンキャンパスの個別相談会などを活用しながら、大学院生活を両立できるのかどうかを、事前にしっかりと確認しておく必要があります。

また、大学院は、大学や専門学校に比べて学校数自体が少なくなっています。そのため、希望する大学院が自宅から通える距離かどうかも大学院選びのポイントになります。学校によっては通信制度があるので、近くに大学院がない方は活用してみてもいいかもしれません。

3.大学院に行く前に知っておきたい注意点

進学してから「こんなに大変だと思わなかった」などと後悔することがないよう、大学院に行く前に知っておきたい注意点や、確認しておくといいことについて解説します。

初任給はあまり変わらない

職場にもよりますが、大学院を出ているからといって、特別な手当てが付いたり基本給が高かかったりということはほとんどなく、大卒と大学院卒で大きく初任給が変わることはないようです。職場での収入アップ目的の大学院進学だと、思ったほどの効果はないかもしれません。

しかし、大学院を卒業した方の就職率は良い傾向にあります。キャリアのある方が大学院を卒業後に、学会発表や論文作成などの功績を積むことで、結果として役職者へと出世できた、ということはあり得ます。

また、大学院卒になることで、病院や施設といった臨床現場に加えてOT養成学校の教員にも転職しやすくなり、結果的に収入が上がるなどの可能性は考えられます。

大学院で得た学びを、OTとしてのキャリアにどう活かしていきたいかをしっかりと考えることが、収入アップにつながるでしょう。

充実した大学院生活を送るためには周囲の協力が大切

前項でも説明したように、仕事と大学院生活を両立しようとすると、かなり忙しい日々を送ることになると予想できます。そのため、大学院に通うことを職場や家族に理解してもらい、協力を仰ぐことが必要になります。

職場であれば残業が難しくなるということを了承してもらう、家族であれば休みの日に勉強の時間を割くことを了承してもらうなど、大学院に通うことで生活がどのように変わるのかを説明し、サポートしてもらえる環境を作る努力をしなければなりません。

だからこそ、ただ闇雲に大学院に行くのではなく、「自分は何のために大学院に行くのか」、仕事をしながら大学院に行くのであれば、「大学院で研究することで、自分は職場に何を還元できるようになるのか」というビジョンを明確にする必要があるのです。

キャリアアップ制度がある職場もあるので、確認してみよう

職場によっては、キャリアアップを支援する制度があるところもあります。私のいた職場では、先輩OTがさらなるキャリアアップのため、2年間休職し大学院に通い、卒業後に職場復帰を果たしたという事例もあります。退職ではなく休職を選択することは、勉学や研究に集中できたり、大学院卒業後に改めて就職活動をしなくてよかったりするのがメリットです。しかし、その反面で収入が途絶えてしまうというデメリットもあります。

仕事をしながら大学院に通った方がいいのか、一度休職もしくは退職し勉学に励む方がいいのか。職場の支援制度を確認し、なおかつ自らの生活と照らし合わせたうえで、自らのスタイルに合う学生生活をしっかりと見極めることも大切です。

4.まとめ

この記事を読み、大学院進学には、自らの知識やキャリアを高めるメリットがあるものの、経済面での負担や仕事との両立の大変さなどのデメリットもあることがわかっていただけたでしょうか。

大学院を卒業したOTの数はあまり多くないのが現状です。だからこそ、修士課程・博士課程を履修することで、数多くいるOTの中でも、より専門的で高度な知識を持った幅広い分野で活躍できる貴重な人材となれるとも言えます。もし、進学を迷っている方がいれば、大学院卒の人材が少ない今だからこそ、チャレンジしてみることに大きな意義があります。

そのため、大学院進学を検討している方は、この記事でメリット・デメリットを知り、今後の明確なビジョンを持つきっかけになれば、嬉しく思います。これまで大学院を意識したことがない方も、新たなキャリアアップの方法として、知ってもらえれば幸いです。

不明点があれば、是非PTOT人材バンクのキャリアパートナーに遠慮なくご相談ください。

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