日本作業療法士協会によると2020年3月末現在、作業療法士(OT)の男女別会員数は男性38.4%、女性が61.6%と女性の割合が高くなっています。
OTは女性も男性と同じように活躍ができる職業ですが、結婚や出産、育児とライフステージが変わるごとに、それまでと同じように働くか悩む女性が多くいるのが現状です。
この記事では、OT有資格者である筆者の実体験なども含め、子育てと仕事を両立するOTの現状や活用できる制度について解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
(出典:2019年度日本作業療法士協会会員統計資料|日本作業療法士協会)
目次
1.作業療法士(OT)の子育てと仕事の両立が難しい理由
OTの子育てと仕事の両立が難しくなる背景には、いくつかの理由が想定できます。理由ごとに解説していきます。
不規則な勤務時間
OTは勤務地によって、勤務時間や休日にばらつきがあるのが特徴です。例えば総合病院であれば8:30~17:30の時間帯が多いですが、回復期病院では早番があるところでは7:00から勤務が始まる病院もあるようです。クリニックだと8:30~12:30と中休みを挟んで15:30~19:30、放課後デイサービスであれば9:30~18:30等と、勤務時間は様々です。
休日についても、週休二日制をとっている病院では祝日は出勤しなければいけなかったり、回復期病院や放課後等デイサービスであれば土日祝日関係なく出勤しなければいけなかったりします。
独身の時であれば、「空いている時期に旅行に行ける」「中休みがあると体力的に楽」等の理由から平日休みや中休みのある勤務がかえって都合の良いこともありますが、子どもができるとなかなかそうもいきません。子どもの預かり時間の兼ね合いを考えた時に就業場所を変えないといけないという問題が出てきます。また、子どもが保育園に通っているうちは柔軟に対応できることが多いですが、子供が小学校に上がると、夏休みも増え「9時から18時までしか預かってもらえない」「祝日や日曜の預かり先がない」と、さらに悩みが増える女性が多いのも事実です。
肉体的・精神的負担
OTは働く勤務先の臨床分野によっては肉体的・精神的負担が大きい場合があります。例えば、回復期病院では介助量の多い方を移乗したり、歩行や日常生活動作訓練をしたりと身体的負担が大きいことがあります。精神病院の勤務であれば、精神的に負担になることもあるかもしれません。もちろん、身体障害分野であっても、思うようにリハビリが進まなかったり、患者さんやご家族と思うようにコミュニケーションが取れなかったりと、精神的に悩む場面が生じることもあるでしょう。
身体的負担については、年齢が上がってくるごとに、肩こりや腰痛が生じやすくなってきやすく、徐々に力仕事がきつくなってくる方が多いです。特に、女性のOTは自分よりも体格の大きい男性の患者さんを担当することもあります。また、小児分野においては、子どもを抱きかかえないといけない場面も多いので、腰痛はOTの慢性病ともいえるでしょう。
精神的負担においては、患者さんとのコミュニケーションスキルはキャリアが上がるにつれ上達し、対人関係で悩むのが減ってくることも想定はできますが、キャリア年数が増え出世すれば管理職として新たな悩みの種も増えるので、一概に精神的負担が軽減するとは言えないのも事実です。
職場の理解やサポート不足
結婚し妊娠したり、子どもが生まれたりすると、自身の体調不良に加えて子どもの都合で休まないとならないことも増えていきます。さらに、産休・育休を取りたい場合にも、職場の理解・サポートが必要不可欠となります。
国の方向性としては、厚生労働省が令和4年から段階的に育児・介護休業法の改正を実施しています。その中には「産後パパ育休制度」の創設等もあり、女性はもちろん男性も育休を取得することを促進しています。このような背景から、近年は育休を取りやすくなっているとは言えるでしょう。
しかし、職場の規模によっては思うように休みづらく、部署異動や退職を余儀なくされるケースもないとは言えません。
(出典:厚生労働省 育児休業制度)
2.作業療法士(OT)が仕事と子育てを両立するための具体的な方法
ここでは子育てと仕事を両立するコツを解説していきます。
時間管理術・スケジュールの工夫
第一に時間管理がとても重要になります。子育てをするにあたり、保育園や幼稚園のお迎えがあり、残業が思うようにできなくなります。そのため、勤務時間内に業務を終わらせることが大切です。具体的に「〇日までに△△を終わらせる」等と、スケジュールを組み立てるといいでしょう。手帳やカレンダー等を活用し、予定を可視化するといいでしょう。
子育てに使える支援サービスの活用
第二に支援サービスをしっかりと押さえておくことが大切です。特に子育てにあたって、一旦職場を退職してしまう女性も少なくありません。しかし、しばらくして子供が成長し、手が離れるようになると、「正社員に戻りたい」「やっぱり前の職場を辞めるんじゃなかった」と後悔をする方も中にはいるでしょう。だからこそ、支援サービスを活用し、本当に退職しか道はないのかを検討することは大切でしょう。
まずは、「短時間勤務制度」です。3歳に満たない子どもを育てる労働者であれば1日原則6時間の短時間勤務ができる制度となります。この制度を利用するのには以下のような要件を満たす必要があります。
- 1日の所定労働時間が6時間以下でないこと
- 日々雇用される者でないこと
- 短時間勤務が適用される期間に現に育児休業をしていないこと
- 労使協定により適用除外とされた以下の労働者でないこと
①勤続1年未満の労働者
②1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
③業務の性質又は業務の実施体制に照らして、短時間勤務制度を講ずることが困難と認められる業務に従事する労働者
(出典:厚生労働省 働く女性の心とからだの応援サイト「短時間勤務制度」)
次に、「フレックスタイム制」です。この制度は、家庭内の事情に合わせて勤務時間を柔軟に対応できる制度となります。具体的内容としては以下の通りです。
- 割振り単位期間(育児・介護職員については1~4週間)の中で、1週間当たりの勤務時間数が38時間45分、4週間の場合155時間となるように調整できます。
- 日曜日及び土曜日に加え、週休日を1日設けることができます。
- 育児や介護をしている職員については、コアタイムや、最低勤務時間を4時間以上とするルールが適用されない日を1日設けられます。(追加の週休日を設けない週のみ)
(出典:内閣官房内閣人事局「フレックスタイム制を活用しよう」)
しかし、この「フレックスタイム制」については活用した前例がない職場もあるので、一度活用可能か相談してみてはいかがでしょうか。
職場とのコミュニケーション~理解を得るためのポイント~
子育てと仕事との両立を職場に理解してもらうためには、コミュニケーションが何より大切です。まず、普段からスタッフ間のコミュニケーションを取っておくことが大前提です。事前に休みが分かっている場合は、可能な限り他のスタッフに負担をかけずに済むよう、済ませられる業務は済ましておきましょう。
自らが休むときに感謝の気持ちを伝えるのはもちろん、他のスタッフが急な体調不良で休まないとならない等相手が困っている場面では、率先して業務を手伝う姿勢も大切です。「持ちつ持たれつ」の関係性を築きましょう。
そして、社会人として常に「ほう(報告)れん(連絡)そう(相談)」を心がけましょう。急な欠勤・早退等の事態が起こった場合には、必ず上司へ迅速に相談するようにしましょう。報告が遅れることでかえって周囲に迷惑をかけてしまうこともあるのです。
家庭内の協力
子育てと仕事の両立には、職場の理解に加えて、家族の理解も同じくらい重要です。パートナーと家事の役割分担を決めておき、負担が自分だけに集中しないように工夫しましょう。特に、子供が体調不良になり、夫婦のどちらかが仕事を早退しないといけなくなった場合にどうするかは、事前に決めておくことが大切です。もし可能であれば、祖父母の協力も仰げるのであれば、事前に相談しておくのもよいでしょう。また、家事ついては、便利家電や外食等も適度に活用し、なるべく力を抜けるところは力を抜きましょう。
子どもが大きくなってきた場合には、自分でできることは自分でするように促すことで、子ども自身の成長にもつながります。また、玩具の片付けや学校の支度等は、収納を工夫する等して、子どもだけでも行いやすい環境を整えることもお勧めです。
3.仕事と子育てを両立しているOTの実体験談・成功例
私の周りの子育てをしながら、キャリアを築いた方の事例を報告します。
比較的規模の大きい職場で育児休暇を取得しながら、キャリアを築いたケース
職場によっては、手当は出ない期間があるものの3年間休職できるケースがあります。子どもが0~2歳の期間は子育てを堪能しつつ、子どものできることが増えたタイミングで職場復帰できます。この時期はまだまだ大変なことは多いですが、0~2歳児に比べれば体調を崩す頻度も減り、急な欠勤早退が減らせるのでメリットも多いです。
場合によっては第2子の出産と被り合計で4~5年休職し、子どもとの時間を長く持ちつつも、正社員としてのキャリアを途絶えさせずに済んだというパターンもあります。ただし、あまり長く休職してしまうと、職場環境が大きく変わっていたり、自身の仕事の勘が鈍ったりするというデメリットもありますので、メリット・デメリットを踏まえたうえで、育休の期間を検討するといいでしょう。
一度正社員を退職したのちに、前職と異なる領域で再就職しキャリアを築いたケース
こちらの方は、結婚前は身体障害分野で正社員として働いていましたが、出産を機に一度退職しました。子育てを経て、その経験を活かしたいと考え、小児分野でパートとして再就職をし、子どもが中学生になったタイミングで同職場で正社員に切り替え、現在もキャリアを伸ばしています。国家資格があることで一度退職しても再就職がしやすく、職場によっては働きぶりを評価されればパートから正社員に切り替わることも珍しくありません。
このように、様々な方法でキャリアをつなげられるのが作業療法士の強みではないでしょうか。
4.仕事と子育てを両立するうえでの作業療法士(OT)特有のメリット
前章でも解説したように作業療法士(OT)にはOTならではのメリットがあります。
まず、国家試資格ならではの需要の高さで求人が豊富にあります。そのため、一度退職をしても再就職しやすいのが魅力です。特にOTは他のリハビリ専門職と比べても、身体障害領域、精神障害領域、発達障害領域、老年期障害領域と活躍の場が広いのが特徴です。家庭の事情で働き方を変えたくなっても、転職がしやすいのは、キャリアを途絶えさせたくない方には大きな魅力でしょう。
また、患者の状況によっては身体障害も精神障害も併せ持っていたり、成人も小児もリハビリ対象となる職場もあったりと、領域の垣根を超える場合も珍しくありません。そのため、子育てを通して培った知識やスキルをリハビリで活かせることも大いにあります。実際に、私も放課後等デイサービスで培ったOTのスキルが我が子の子育てで活きる場面がとても多く、「OTで良かった」と何度も感じました。
実際、出産前は身体障害領域で働いていたけれど、子育てをする中で、発達障害領域のOTに関心が高まったという理由で領域を変更して転職する方も珍しくありません。私自身身体障害領域から発達障害領域へ転職しましたが、それまで培ってきた知識・スキルを活かしながら、新たにキャリアを積めていると実感しています。
5.両立支援のための情報源
近年では、子育て支援を行う職場も増えてきています。特に就職時に育児休暇取得実績(男性も)や併設されている保育所の有無等を調べておくとよいでしょう。住んでいる自治体によっては待機児童が多く、中々保育園に入園ができないというケースもあるようです。そんな時に職場の保育所を利用できると、とても心強いでしょう。私の実体験では、職場に保育所が併設されており、福利厚生で保育料も安く預けられ、とても助かりました。
そのほかにも、子育てに関するセミナーを活用してみてもいいかもしれません。例えば、日本作業療法士協会では、子育て中の会員に向けて「子育て・介護を担う女性作業療法士の働き方~子育てしながらイキイキと働くために~(eラーニング講座)」を開催しています。この講座では、「子育て中」または「介護中」の女性会員に共通した悩みや課題に対する解決策等を提供しています。講師の経験に基づくアドバイスを無料で聞くことができる場となっています。
6.まとめ
作業療法士(OT)は活躍の場が広いことから、子育てと仕事の両立がしやすい職種といえるでしょう。しかしながら、一人職場等の小規模の職場の方、パートナー以外に頼れる方が身近にいない方、現状子育てに手いっぱいで仕事することを考えられない方…と、様々な事情で子育てと仕事の両立が難しいと感じる場合もあるでしょう。
私は自分自身の経験から、一度OTの仕事から離れてしまっても、またキャリアを築き直せるのがOTの良さだと思います。
結婚をしたばかりで子育てと仕事の両立に不安を感じている方、子育ての真っ最中で働き方に不満がある等、様々な方に記事を読んでいただき、キャリアの築き方は多様にあるということを知っていただけたら、大変嬉しく思います。
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