作業療法士(OT)が、がんリハの現場でどのように関わっているのでしょうか、

この記事では、がんリハにおけるOTの基本的な仕事やOTとして求められる役割などについて、まとめています。

また、がんという進行性が多い疾患のリハビリを行う上で、他の非進行性の疾患との違いなどについても詳しく解説していきます。

1.作業療法士(OT)が行うがんリハ

まずは、OTが関わるがんリハの基本的なことについて説明します。

がんリハの概要はもちろん、タイミング別のリハビリについてご紹介していきます。

がんリハとは

がんリハとは、がんの患者さんに対して提供するリハビリテーションのことです。

OTが関わるがんは多岐にわたります。がんリハでは、がんの症状、さらにその進行度に合わせて訓練内容を立案していきます。

がんの種類によって、以下のような訓練を中心に関わっていきます。

がんの種類訓練の一例
食道がん、肺がん、胃がん、肝臓がん、胆嚢がん、大腸がんなど術前からの呼吸方法や喀痰排出のための訓練など
舌がん、口腔がん、咽頭がん、喉頭がんなど肩関節の運動障害に対する訓練など
骨軟部腫瘍またはがんの骨転移義肢や装具を用いた訓練や、患肢以外の機能獲得のための訓練など
脳腫瘍麻痺に対する訓練、日常生活動作(ADL)訓練など

リハビリはがん診断時から始まる

がん診断時のリハビリの目的は「がん治療に備えた予防的関わり」です。

この段階では、まだ手術や抗がん剤治療、放射線治療などは行っていませんが、OTとの関わりを通して、術後の生活に備える土台作りをしていきます。

その目的には以下のものがあります。

  • なるべく体力を高めておいた状態で手術を受けることで、術後の体力低下などの後遺症や合併症を軽減する
  • 患者さんに手術前から術後の早期離床・早期リハビリの重要性を知っておいてもらうことで、術後スムーズにリハビリに取り組める
  • OTから今後の説明を受けることで、社会(自宅も含める)復帰についての不安感を軽減する

がん治療開始時

がん治療開始時の目的は「低下した身体機能をできる限り回復させること」です。

がん治療後は体力低下などが起こりやすくなります。特に抗がん剤などの薬物治療では、強い倦怠感や食欲低下などの副作用を引き起こし、さらなる体力低下を招き、ADLに支障をきたしやすくなるという負のループが起こりやすくなります。

そのため、がんリハでは、術後の機能障害の改善を図ったり、ADL訓練などを通して自宅生活の準備をしたり、場合によっては復職を見据え社会復帰を目指したります。

再発や転移があった時

この時期のリハビリの目的は、機能障害が進行しつつある患者さんに対して「今ある身体機能を維持していくこと」です。再発や転移により、がんが増大している場合もあるため、医師との連携も欠かせません。

体調を確認し過負荷にならないよう訓練内容に配慮しながらも、身体機能を維持できるように関わります。特に日常生活動作(ADL)に制限がある場合には、自助具の提案、患者さんが行いやすい動作方法を指導し、患者さんのできるADL能力を維持していきます。

また、がんとの闘病は、心理面でも大きな負担がかかります。リハビリを通して患者さんの不安な気持ちを傾聴しながら、心理面でも支援していくことが大切です。

積極的な治療が受けられない時

がんの進行により、余命が○カ月などと積極的な治療が受けられなくなった時には、患者さんの希望を伺いながら、身体的かつ精神的かつ社会的に、生活の質(QOL)を維持できるようサポートすることを目的に関わります。

2.がんリハで求められる作業療法士(OT)の役割

ここでは、がんリハで求められるOTの役割について説明します。

OTは身体機能面での改善や日常生活動作(ADL)場面での介入はもちろん、精神面にも関わっていきます。作業活動などを活かしたアプローチ方法ができるのは、OTの強みの一つです。

ADLの維持のために細やかなアプローチが大切である

OTとしての役割の中で特に重要なことは、身体機能面の回復や維持を図ったり、痛みの緩和を行ったりしながら、今できる能力を維持していくことです。

そのためには、患者さんのADL能力を評価し、「どのような方法なら楽に動作が行えるのか?」という視点を持ち、環境設定も含めたADL訓練を取り入れます。

例えば、ベッドから起き上がりにくかったり、立ち上がりにくかったりする場合は、手すりを取り付けたり、ベッドの高さを調節したりします。また、ベッドや家具の位置を変えることで歩行距離を短くし、身体的負担を減らすことにつながる場合もあります。

さらに、身体機能の低下に伴い、その症状に合わせた杖などの補助具、食事や更衣場面で利用できる自助具などを適時提案することで、ADLを行いやすくし介助量を軽減する効果があります。

他には、患者さんの立場によっては、「仕事に復帰したい」「家事をできるようになりたい」など、社会的側面へのアプローチも重要になってきます。その場合、どのような動作ができれば目標が達成できるのかという視点を持ち、評価することが大切です。

患者さんの能力に合わせて段階的な動作練習をしたり、難しい作業では代替手段を提案したりして、目標に近づけることが大切になってきます。

精神面へのアプローチには、作業活動が効果的

OTのもう一つの重要な役割が精神面へのアプローチです。身体機能の変動や低下に伴い、精神面・情緒面でも浮き沈みが出てきます。特に、患者さんはがんになったことへの絶望感、がんの進行に対する恐怖や不安など、様々な気持ちを抱えています。

患者さんの話を傾聴し寄り添うことは、とても大切なアプローチですが、その他にも作業活動を生活の中に取り入れることも、情緒の安定を図るのに効果的です。

患者さんが得意とすることや楽しいと感じることを、作業活動として生活の中に取り入れることは、気分転換になり、精神を安定させる効果を持ちます。また、活動に熱中することで不安な気持ちなどの雑念を取り払ったり、痛みを忘れさせたりする効果が得られる場合もあります。

こうした活動を通して起きていられる時間を増やすことで、体力低下を予防し、患者さんのできることを維持していくのにもつながります。

作品作りの場合は、患者さんが気持ちを込めて作ることで、完成したものが患者さんの思い出の品となったり、ときに大切な人への贈り物にもなったりします。人への贈り物を作ることは、患者さん自身の楽しみや生きがいの獲得にもつながります。

3.他のリハビリとの違いから分かるがんリハとの向き合い方

それでは、がんリハと非進行性の疾患のリハビリとの違いに着目していきます。

がんリハで注意すべきこと

がんリハビリでは、がん自体が体力低下や機能障害を引き起こすことに加えて、手術や化学療法、放射線療法などの治療によっても副作用が起こり患者さんの体の負担となっていくという特徴があります。

例えば、栄養状態が悪化したり、血小板・白血球の低下が起こったりすると、感染症や出血などのリスクが高まります。

そのため、医師と連携して、病状を正確に把握し、どの程度の負担をかけてよいのかを確認したうえで訓練を行う必要があります。

また、がんの患者さんは、同じ一日でも、痛みや倦怠感の出現などによって体調にムラが出やすいです。いつもできることができなくなることもあり、その時々の体調に合わせた訓練内容に変更することも大切です。

適宜体調の変化を看護師に確認しながら、過負荷にならないよう配慮してリハビリを提供する必要があります。他の疾患でも多職種との連携は重要ですが、がんリハではがんは進行性であるという特性上、リスク管理の面からも、特に多職種との密な情報交換が求められます。

がんが進行する前にできることがある

がんの進行に伴う身体機能の低下により精神的に落ち込み、さらなる活動の低下につながってしまうことがあります。

そんな積極的な治療が難しくなった時期だとしても、患者さんの気持ちに寄り添い、患者さんが「自分らしさ」を保てるよう支援するのもOTには求められます。

そのためには、症状が進行した時を見据えて患者さんと早期に関わり、日常生活に介入していくことも大切です。患者さんと信頼関係を構築し、ニーズに沿ったアプローチを行います。

例えば、症状が進行する前に、病室を患者さんが過ごしやすい環境にしたり、定期的な運動方法を指導することで、症状が進行してからも、痛みが少ない時などに無理なく運動を取り入れ、横になる時間をなるべく増やさず、体力を維持できるよう支援できます。

また、ADL能力の低下に合わせて補助具や自助具などを取り入れることで、ADL能力の低下をなるべく防ぎ、患者さんらしい生活を維持することにつながっていきます。

患者さんだけでなく、家族への支援も大切である

また、がんリハで大切なのが、家族のサポートです。

がんの進行の程度によって、家族の患者さんへのサポートの程度も大きくなっていきます。更衣や排泄、入浴などでどのような介助をしたらいいのか、症状が進行した場合にどの補助具を使用したらよいのか、自宅や病室の環境をどうしたらいいのかなどの方法を、家族へ具体的に伝達します。

そして、家族もまた患者さんを失うかもしれないという悲しみや不安感を抱えています。そのため、サポート方法の伝達はもちろんですが、家族の話を聞きながら心理的に支援することも大切となってきます。

4.まとめ

今回はがんリハで求められる作業療法士(OT)の役割や仕事などについて述べてきました。がんリハは、症状に合わせた個別的な関わりや、リスク管理への配慮など、留意しないといけない点が多いことがわかっていただけたのではないでしょうか。

がんがわかった時、症状が進行し積極的な治療ができなくなった時など、がんの患者さんは大きな悲しみや不安の気持ちを抱えているでしょう。そんな時にOTとして患者さんに寄り添い、患者さんの思いや要望を汲みとって関わることは、難しさを感じることもあるでしょう。

しかし、OTとして患者さんに関わり、生活の質(QOL)が改善できたり、患者さんの笑顔が見ることができたりした時にとてもやりがいを感じる仕事だと思います。この記事を読んだ方ががんリハに興味を持っていただけると嬉しいです。

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【参照サイト】
厚生労働省「がん患者に対するリハビリテーションについて」
国立がん研究センター「がんとリハビリテーション医療」
日本理学療法士協会「特集『がんと理学療法』」

【参照文献】
目良 幸子著「がん医療における作業療法士の役割」