年々、理学療法士(PT)の働き方は多様化しており、それに伴って、就職先を選ぶのに悩んでしまう方も多いようです。特に、臨床現場以外での仕事にチャレンジしてみたいけど、どんな職場があるのか分からないといった声も聞かれます。
確かに多様化しているといっても、医療施設や介護施設の印象は強く、その他の就職先はイメージが湧きにくいですよね。
そこで今回は、PTの活躍が期待されている様々な分野の施設形態をご紹介していきます。
臨床以外の仕事に興味がある人はもちろん、臨床での就職を考えている人も他の選択肢を知っていることは将来的に役立つことがあるかもしれませんので、PTOT人材バンクの転職情報と合わせて、ぜひ参考にしてみてください。
目次
1.理学療法士(PT)の就職先は幅広い
PTの就職先として病院やクリニック、またデイサービスや介護老人保健施設などがまだまだ一般的なイメージがあると思います。
しかし、日本理学療法士協会の統計データ(以下、統計データ)をみると、2022年3月末時点において病院などの医療機関に勤める方は63.9%、介護老人与件施設など医療福祉中間施設を加えても70.2%ほどしかいません。
つまり、老人福祉施設や児童福祉施設、教育・研究機関などに勤める方が全体の3割程度いることになります。
もちろんこれは、協会会員の分布ですので全体の比率と多少ズレは生じますが、令和3年度までに理学療法士試験に合格した全てのPTの69.2%が加入しているため、現職に絞ると7割以上であることが推測でき比較的信用できる数字と言えるでしょう。
ここからは医療施設や医療福祉中間施設に該当しない施設の中で、代表的な施設形態について理学療法士協会に加盟している会員数と合わせてご紹介していきます。
児童と携わる施設は年々増えている
少しずつ増えてきているのが、障がいを持つ児童のケアや療育を行う児童福祉施設に所属するPTです。統計データによると756名のPTが在籍しています。利用者数や施設数も年々増加しており、今後もPTのニーズ見込まれる分野だと思います。
明記されていないためこの中のどのデータに含まれているかは不明ですが、支援が必要な児童(小学校生〜高校生)が放課後や長期休暇中に通うことができる放課後等デイサービスという施設でのPT需要も高まっています。
施設形態名 | 会員数 |
知的障害児施設 | 23 |
知的障害児通園施設 | 58 |
肢体不自由児施設 | 245 |
肢体不自由児童通園施設 | 92 |
肢体不自由児童療護施設 | 3 |
重症心身障害児施設 | 358 |
情緒障害児短期治療施設 | 0 |
児童相談所 | 2 |
心身障害児総合通園センター | 56 |
それに関連して、特別支援学校にPTを配置する動きも見られます。統計データをみると、
肢体不自由、知的障害を合わせて52人のPTが特別支援学校に配属されています。
障がいの有無に関わらず、共に学び、持っている能力を最大限発達できるようなインクルーシブ教育への意識が高まってきており、今後もPTを配置する学校が増えてくる可能性も高いです。
特別視線学校 | 会員数 |
肢体不自由児 | 27 |
知的障害児 | 2 |
その他 | 23 |
企業や健康産業での仕事も増えている
その他、近年目立った動きが見られるのが企業で働くPTの数です。統計データによると、370人のPTが企業で働いています。
施設形態名 | 会員数 |
リハ関連企業 | 210 |
一般企業 | 160 |
リハ関連企業では、福祉用具や介護関連製品の製造や介護保険領域でのレセプト業務、電子カルテアプリの開発などに関して現場経験のあるPTが携わるといった例が増えています。
一般企業においては、健康経営を促すために従業員の健康管理への投資として、慢性腰痛や肩こり予防のための運動プログラムをPTが提供しているといった話も聞きます。
また、企業だけでなく一般の方の健康維持や疾病予防への意識の高まりもあり、運動習慣を持つ方が増えているようです。それに合わせてスポーツ関連施設やフィットネス施設で働くPTも増えており、パーソナルトレーナーのように個人開業しているPTもでてきているようです。
施設形態名 | 会員数 |
スポーツ関係施設 | 58 |
フィットネス施設 | 51 |
自営・開業 | 168 |
多様な働き方が認められるようになってきている昨今、これまで意識することがなかった領域でもPTの活躍の場が広がってきています。
2.【施設形態別】理学療法士(PT)の就職先の特徴
PTの勤務先には具体的にどういった分野があるのかを見ていきましょう!
PTOT人材バンクでも、様々な事業所形態の求人を取り扱っていますので、具体的な求人や施設系他が気になる方は、こちらの検索システムも参考にしてみてください。
医療施設
各県の大学病院や総合病院、一般病院や個人開設しているクリニックなどが該当します。
大学病院や総合病院では手術や病気の治療で入院している患者様のリハビリテーションを担当することが多く、一般病院やクリニックでは入院に加えて、外来の患者様の対応をしているところもあるでしょう。
病院の機能に合わせて急性期から回復期、生活期といった幅広い病期の患者様のリハビリテーションを実施していくことになります。
介護施設
介護施設には、65歳以上の要介護状態の方が入所する介護老人保健施設をはじめ、デイケアやデイサービスなど身体機能が低下していたり、障がいを持っていたりする高齢者を対象に医療や介護サービスを提供する施設が該当します。
介護施設では利用者様に対し個別にリハを行う場合もありますが、複数名のグループに対して体操や筋トレなどの運動を行う集団リハを実施しているところも多いようです。また、利用者様の送迎や、食事介助なども必要に応じてPTが対応するところもあるようです。
訪問看護ステーション
近年「最期は自宅で迎えたい」「住み慣れた家や土地でゆっくりと過ごしたい」というニーズが高まっています。そんな想いで病院や介護施設から退院した人が、必要なケアや医療行為を受けながら自宅で過ごすために利用するのが訪問看護ステーションです。
最期まで自分らしく生活できるように、身体機能の維持や活動への参加を目的に看護師の訪問と合わせて訪問リハビリを依頼する方も増加しています。また、病院経験を活かして患者様一人ひとりにゆっくりと向き合いたいという希望を持つPTも多く、訪問リハを希望するPTも増えてきているようです。
地域包括支援センター
少子高齢化に伴い、市町村を主体とし地域に根付いた効率的・効果的な医療介護サービスを提供するために設置されている地域包括支援センターもPTの就職先として増えてきています。
ここでは、歩行及び移動能力の維持向上を目指した支援を行い、高齢者の自立した生活活動の維持を行うなどの役割が期待されています。
近年では、高齢者の社会参加を促すためのプログラムを地域住民が主体となって運営できるように支援している自治体もあり、コーディネーターとして活躍しているPTも増えてきているようです。
小児施設
児童発達支援事業所や放課後等デイサービスなど、医療ケアが必要な子どもや障がいを持った子供が利用できる施設が小児施設です。冒頭で紹介した特別支援学校なども含まれます。
こういった施設では子供の療育や日常生活における基本的な動作の指導、集団生活への適応を促すといった支援が行われており、PTには専門性を活かしながら、子どもたちや親御さんが抱える課題や不安に寄り添った、適切なリハビリやケアが求められています。
教育・研究施設
大学や専門学校などの養成校の教員や、国立障害者リハビリテーションセンターや国立長寿研究所などの研究機関で研究員として働くPTもいます。
このような施設に転職する場合、求められる学位や研究業績などもそれなりでハードルは高くなってきますが、教育や研究を突き詰めたい方にとってはやりがいもあり挑戦する価値があるでしょう。
企業
福祉用具や介護用品を扱うメーカーが商品開発や営業職に医療やリハビリの専門知識を有する人材を登用する例も増えてきています。
近年ではI T技術を駆使し、一般の方や企業が抱える健康に関する社会課題を解決することを目的としたヘルステックと呼ばれる企業も増えてきており、腰痛予防や疾病予防などの専門知識を持ったPTを起用することも多いようです。
スポーツ業界
スポーツ選手の故障予防や故障後の競技復帰に向けての身体づくりなどにPTが携わることもあり、プロスポーツチームのトレーナーや、ナショナルチームに帯同するなど、スポーツ業界の最前線で活躍できることもあります。
また、トレーニングに関する知見を活かして、スポーツセンターやフィットネスジムでパーソナルトレーナーとして勤務するPTもいます。
いずれも成果が求められる厳しい業界ですが、自分の実力で勝負したいというPTには向いているかもしれません。
3.就職先の変化に伴いキャリアプランも多様化
理学療法士(PT)も様々なキャリアプランを描けるようになってきました。
ここからは、勤務する施設形態や資格を軸にキャリアに関する考え方をご紹介していきます。
施設によって求められる力は違う
PTの就職先の選択肢の幅が広がることで、それぞれの現場でPTに求められる力も細分化されており、職域によってキャリアプランも大きく異なってきます。
例えば、急性期病院では、リハビリテーションを行う上で高いリスク管理能力が必要となってきますが、それだけに留まらず、感染症対策チームや栄養サポートチーム、呼吸ケアチームなどのチーム医療の一員としての役割も求められ、疾患の知識や医学管理に関した知識を身につける必要があるでしょう。
回復期や維持期では患者様が退院した後の生活についても考えを巡らせる必要があり、個人の価値観や生活様式について情報を収集することが求められ、必要に応じて、住環境や福祉用具、また地域資源や介護保険サービスについての知識が必要になってきます。場合によってはケアマネージャーや医療ソーシャルワーカーと連携をとることもあるでしょう。
教育機関での勤務を考えているなら、学習効果の上がる資料の作り方や講義の仕方、また、学生のモチベーションを維持するようなコーチングスキルなどが必要になってくるかもしれません。
このように勤務する施設によって求められる能力は大きく変わってくるため、自分のやりたい仕事と必要なスキルを確かめて就職先を見つけていくことも大切です。
PT×他資格で更に広がる可能性
自分が目指すキャリアを実現するためにPT以外の資格を取得し差別化を図ることもできます。目的によってどんな資格を取得すれば良いか、少しだけ紹介していきます。
専門性を高める手段としての資格
日本理学療法士協会が認定している「認定理学療法士」や「専門理学療法士」があり、各分野での臨床的技術や知識の向上だけでなく、理学療法の発展に貢献できる研究能力を高めることを目的に設置された資格です。
取得難易度は高いですが、取得してしまえば臨床現場はもちろん、研究機関などの学術的な現場でも活かすことができます。
その他にも呼吸療法認定士や心臓リハビリテーション指導士、日本糖尿病療養指導士など専門性のより高い資格を取得し、臨床現場で活躍しているPTも多くいます。
領域を広げるための資格
近年ではチーム医療が重視されており、全国的に広がりを見せる栄養サポートチーム(NST)で活躍する栄養サポートチーム専門療法士の資格を取得する方もいます。
運動療法を主体とする関わりを持つPTにとっても、栄養状態の評価などは介入効果を高めるために必須の知識であり、急性期から維持期までどの病期においても活かすことができる資格だと考えられます。
また、介護領域では認知症ケア専門士や終末期ケア専門士、高齢者や障がい者が安心して暮らせる住環境を提案する福祉住環境コーディネーターなどを取得する方も多いようです
4.就職先とキャリア形成の考え方
理学療法士(PT)として就職先を検討するときに、最も大切にして欲しいのは「自分がどのような分野で働きたいか」ということです。
すでに明確な目標がある場合はその目標を達成できるように、自分なりに筋道を立てて少しずつキャリアプランを描いていただければ良いのですが、明確な目標がない場合はなかなかキャリアを描きにくいですよね。
そのような方は、少しでも興味のある分野で働くことをお勧めします。興味がある分野なら、働いているうちに少しずつ自分が進みたい方向性が見えてくることもありますし、違うなと思っても、そこで得られた経験を元に違う分野に転職して活躍することもできるからです。
そういった意味では、初めから一つの分野に特化したところで頑張るよりも、色々な分野が見られるような就職先を選ぶのが良いかもしれませんね。
反対に、福利厚生や待遇などの条件のみで就職先を選ぶのはおすすめしません。全く興味が湧かないけど条件が良いという理由で就職してしまうとモチベーションが維持できず、長続きしないことが多いです。
自分が何をやりたいか漫然としていて分からないという人は、転職エージェントに相談するのも選択肢の一つです。転職エージェントは様々な求人情報を扱っているので、キャリアについても広い視野でアドバイスをくれます。
相談する過程で、自分の想いや希望と向き合うことになるので、自分を客観的にみるきっかけになる良い機会になるかもしれません。
PTOT人材バンクでも、リハビリ業界に特化したキャリアパートナーが全力でサポートしていますので、お気軽にお問い合わせください。
5.まとめ
近年、理学療法士(PT)の数は増加傾向にあり、一時期は飽和状態ともいわれていますが、実際には活躍の場は拡大し就職先は未だに充実しています。
今後も幅広い分野での活躍が期待できるため、改めて自分の希望を整理して、固定概念に縛られず活躍の場を探してみてはいかがでしょうか。
視野を広げてみても、やはり臨床が良いとなってしまうと他の分野を検討した時間が無駄に思えるかもしれませんが、改めて自分の思いを確認することは今後の仕事にも良い影響を与えるでしょう。
この記事や転職エージェントなどを上手く活用してあなたに適した就職先を見つけてください。
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