脳外科と聞いたとき、具体的にどのような患者様を担当するのかイメージが湧きにくい人も多いのではないでしょうか。
脳外科は、理学療法士(PT)として働く上で、介入する機会も多い診療科の1つです。
今回は、そんな脳外科においてPTがどのように働いているのか、役割や仕事内容、働くことの魅力についてまで詳しく紹介します。
興味のある方はもちろん、いまいちイメージが湧かないという方にも分かりやすく紹介していますので、最後まで読んでみてください。
目次
1.理学療法士(PT)が脳外科で求められる役割
脳外科とは脳神経外科のことをいい、脳や脊髄、神経系の疾患に対して手術などの外科的治療を行う専門の診療科です。
主な対象疾患は脳梗塞や脳出血、くも膜下出血などの脳血管障害や頭部外傷や脳腫瘍などがあげられ、PTをはじめリハビリテーション専門職が介入する疾患のなかでも多くの割合を占めています。
急性期病院では、早期離床のため手術直後から介入するケースがほとんどですが、手術前の評価から介入するケースもあります。
回復期病院では、急性期での治療後に自宅退院や職場復帰などが難しい方や、積極的なリハビリテーションを継続することによりADLの向上や介助量の軽減が期待できる方へリハビリテーションを提供します。
その他にも、脳外科クリニックでの外来リハビリテーションや訪問リハビリテーション、介護施設でのリハビリテーションなどにおいて、維持期にあたる脳疾患の患者様を担当します。
脳外科で担当することの多い、脳血管障害を持つ患者様には、高血圧や糖尿病、疾患などの合併症を持つ方が多く、血圧や血糖値、心電図などを確認しながら介入する場面が多い傾向です。そのため、主疾患だけでなく合併症によるリスク管理も含めてプログラムを立案、実施していくことが求められます。
急性期はもちろん、回復期や維持期においても血圧変動などに注意を払っていく必要があり、整形外科などに比べると内科的なリスク管理能力が必要になる点も特徴です。
脳外科の患者様におけるリハビリテーションの介入期間は、重症度によって大きく異なります。
脳血管障害や頭部外傷などによる脳のダメージが少ないほどリハビリテーションの介入期間は短くなり、逆に脳のダメージが大きいほど障害が重くなるため、介入期間が長くなる傾向にあります。
2.理学療法士(PT)の脳外科での仕事
脳外科の患者様を担当するPTが実際にどのような仕事をしているのか、詳しくみていきましょう。
意識障害の評価と概要
脳外科の患者様へリハビリテーションを提供する際に、重要な評価項目となるのが「意識障害の有無」です。
意識障害とは、「意識がはっきりしていない状態」のことを指し、覚醒度の低下や自分自身や周囲の環境に対していの認識が障害されている状態をいいます。
意識障害によって、ある程度の病態鑑別もできることから、患者様の状態を把握するために医師や看護師をはじめPTも意識障害の評価を行います。リハビリテーション前後の意識レベルの変化は重要な評価項目にもなるため、リハビリテーションの効果判定をする際にも役立ちます。
また、脳外科の患者様は、覚醒していても「意識の内容障害」がみられる場合も多くあります。意識の内容障害とは、覚醒はしているけれど反応が乏しい、周囲に無関心、注意力散漫、身体機能に起因しない動作遂行能力の低下などがみられる状態を指します。
脳がダメージを受けている部位や範囲により、覚醒度や意識の内容障害も変わるため、意識障害の有無や内容について、しっかり把握していくことが重要です。
またCTスキャンやMRIの画像と、実際の病態を照らし合わせて大きな差異がないかも評価を行います。
もし意識の内容障害がある場合は、身体機能の向上だけでなく高次脳機能面へのアプローチも必要となるため作業療法士(OT)や言語聴覚士(ST)とコミュニケーションをとり情報を共有しながら介入していくことが重要です。
脳外科で行う運動・物理療法
脳外科では人工呼吸器が必要な重症例から、歩行が自立している軽症例まで幅広い自立度の方を担当します。実際にどのような介入をしているのか重症度別にみていきましょう。
起居動作も困難な重症例の場合
疾患により、いわゆる寝たきりの状態となってしまった方には、肺炎や床ずれの予防が重要です。PTとしては、寝たままでいる時間が多くならないようにすることや、同じ向きで寝たままにならないよう、病棟スタッフの協力を得ながら介入していきます。
具体的には、リハビリテーションの時間以外にもベッドアップの時間を増やすほか、体位変換を適時行うよう病棟スタッフにも協力を依頼します。
その際には、ベッドアップの際に姿勢が崩れにくいポジショニングのコツや、体位交換時の介助方法などを指導する場合もあります。
術後の早期離床は、予後にも大きく影響を及ぼす重要な課題です。できるだけ寝たきりのままにならないよう状態に合わせた積極的な介入が求められており、リハビリテーションの時間以外にも意識を向けて評価・治療を進めます。
ベッドアップの時間を作ることは、抗重力位での耐久性向上が期待できることから、車いすへのステップアップにも大切です。徐々にベッド上から車いすで過ごす時間を作っていけるようにサポートしていきます。
歩行ができる軽症例の場合
脳外科では、歩行が自立している比較的軽症の方を担当する機会もあります。
歩行が自立していればリハビリテーションは必要ないイメージがあるかもしれませんが、病室内や病棟内で歩行が自立していることと、実生活で安全に歩行できるかどうかは別問題です。
脳外科の患者様には、歩行そのものは可能でも、咄嗟の動作や応用的な動作がスムーズに出てこず、転倒リスクが高いことも珍しくありません。そのほかにも、病前に比べて体幹機能が低下していることもあり、持久力の低下やふらつきなどがみられることも多い傾向です。
また、意識の内容障害により、正しくリスクを回避することが難しい場合もあります。
実生活では段差や傾斜などにより、病院と比べて歩きにくい環境が多くあります。目や耳に入る情報量も多くなることから歩行へ注意が向きにくいこともあり、病院での歩行能力を発揮できないことがあるのです。
このように、一見リハビリテーションが必要ないように見えても細かい視点で評価をしていくと、PTとして介入すべき点が多々あることも珍しくありません。
ご自身やご家族も気が付いていない隠れたリスクがある場合も考えられるため、自宅や職場の状況などの情報収集とともに身体機能の評価を進めていくことが重要です。
チーム医療のなかで求められる役割
脳外科の患者様を支えるチームには、医師をはじめ看護師や社会福祉士、薬剤師、管理栄養士、そして作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)らのリハビリテーション専門職がいます。
それぞれの専門性を活かして患者様がスムーズに元の生活、もしくは新しい生活に進んでいけるようチームでサポートをしていきます。
チーム医療においてPTは、身体面の予後予測を行い、自宅退院が可能か、回復期病院や老人福祉保健施設などで継続したリハビリテーションが必要か、またそこに到達するまでの期間を想定してチームに情報を提供します。
その情報を基に社会福祉士が退院先を選定し、ゴールを共有していくため、PTはチーム医療のなかでも大変重要な役割を担っているといえるでしょう。
脳外科の患者様は手術により劇的に症状が改善することもあるため、自然回復だけでなくリハビリテーションの介入によりどこまで機能を高めることができるか見極めることが難しい場合もあります。
経験が浅いうちは予後予測と異なる経過を進むことも珍しくないため、先輩セラピストへ相談しながら進めるようにしましょう。
3.脳外科のスケジュールや勤務イメージ
脳外科におけるPTの業務内容やタイムスケジュールをみていきましょう。
時間 | 業務内容 |
08:00~08:30 | 出勤 |
08:30~09:00 | リハビリ室の掃除、ミーティング |
09:00~12:00 | 個別にリハビリテーションを実施 |
12:00~13:00 | 休憩 |
13:00~16:30 | 個別にリハビリテーションを実施 |
16:30~17:30 | カンファレンスやカルテ記載 |
17:30~ | 退勤。勉強会などに参加することも |
4.理学療法士(PT)が脳外科で働く魅力
脳外科は20~30代の比較的若い世代も入院することがあり、重症度だけでなく年齢層においても幅広く対応します。既往や合併症なども異なるため、あらゆるリスクを想定したリハビリテーションを提供していかなければならず、幅広い知識や経験が求められます。
細やかな血圧コントロールなどリスク管理に難しさを感じるセラピストもおり、介助量が多い方の割合も高いため身体的にもきつく感じるセラピストもいます。
実際に、経験が少ないうちは、セラピストの方が大汗をかいてリハビリテーションを実施していることも珍しくありません。
しかし、大変な面もありますが、経験を積むうちに余裕を持って介入できるようになっていく自分に成長を感じることができる点は大きな魅力でもあります。
また、患者様やご家族は発症による環境の変化に不安を感じていることも多く、患者様やご家族の気持ちに寄りそった介入が求められることもあります。大変さを感じることも少なくありませんが、患者様やご家族と小さな変化でも喜びを共有できる点は、大きな魅力の1つといえるでしょう。
5.まとめ
あらゆる年齢層や既往、合併症を持つ人を担当する脳神経外科のリハビリテーション。障害が重い場合でも諦めることなく、担当させていただいた方が幸せに過ごせる方法を模索していくことが大切です。
脳外科でのリハビリテーションは、理学療法士(PT)として介入する上での難しさはあるものの、それ以上にやりがいを感じることのできる診療科でもあります。
興味がある人はもちろん、興味がなかったという人も、ぜひ1度、脳神経外科のリハビリテーション施設を見学してみてはいかがでしょうか。
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