進行性神経難病である「パーキンソン病」患者の運動能力向上に特化した「LSVT BIG」は、リハビリテーションの現場で注目を集める最新プログラムです。
日常生活の質を劇的に改善する可能性を秘めており、理学療法士(PT)がその手法を学ぶことは、患者の未来を支える大きな一歩となります。
この記事では、LSVT BIGの概要、取得方法、活用事例を解説。高齢化に伴う患者数増加の背景から、このアプローチの重要性をお伝えします。
目次
1.LSVT BIGとは?
LSVTは、米国でRamingらによって開発された、パーキンソン病などの神経疾患に特化した科学的根拠に基づくリハビリプログラムです。Lee Silverman Voice Treatmentの頭文字をとってLSVTと言います。現在は法人になり世界中で認定講習会を開催しています。
もともとは声の大きさを改善する発声訓練(LSVT LOUD®)として開発されましたが、その基本概念を応用し、運動機能の向上を目指した「LSVT BIG®」が誕生しました。
LSVT BIG®の特徴は、動作の速さではなく「大きさ」に重点を置く点です。歩行や日常生活動作をスムーズにし、小刻みな動作や動作遅延を改善するために設計されています。このアプローチは脳神経の可塑性に着目し、患者の症状改善や生活の質(QOL)の向上を目指します。特に、軽度から中等度のパーキンソン病患者(Hoehn-Yahr分類Ⅰ~Ⅲ)に短期間で高い治療効果をもたらすことが報告されています。また、評価指標であるUPDRS(統一パーキンソン病評価尺度)の運動項目では、LSVT BIG®を導入することで改善が確認されています。
(出典:LSVT Global LSVT BIG®、難病情報センター パーキンソン病(指定難病6)、メイトウホスピタル パーキンソン病のリハビリテーション LSVT BIG®、UPDRS 統一パーキンソン病評価スケール、パーキンソン病のリハビリテーション – 宇多野病院独立行政法人国立病院機構 宇多野病院 パーキンソン病の理学療法 ~からだを動かしやすく!~ 1−4 LSVT ® BIGの効果、1-5. 上記検査結果の要約)
2.LSVT BIGの訓練頻度・対象者・実施内容・実施場所
この章では、LSVT BIGの訓練頻度・対象者・実施場所・実施内容について解説します。
LSVT BIGの訓練頻度・評価
LSVT BIGの訓練は、認定資格を所有する理学療法士(PT)または作業療法士(OT)がマンツーマンで実施します。頻度は以下のとおりです。
- 1週間に連続4日を4週間
- 1ヶ月で16回実施が推奨
- 1回60分(訓練時間は相談可能な医療機関もあり)
プログラムは集中的に行うことで、患者が運動の大きさを意識しながら動作を強化し、短期間で最大の効果を得られるよう設計されています。
評価は、訓練実施前後に実施します。医療機関によっては、4週間の治療終了後は、1ヵ月後、3ヵ月後、6ヵ月後に外来にて状態確認を実施している場合もあるようです。
LSVT BIGの対象者・実施内容
対象者については、医療機関にもよりますが、概ね以下のような適応基準を設けている場合が多いようです。
- パーキンソン病を有する方(ホーン&ヤール重症度I~III)
・I度:障害は身体の片側のみで、日常生活への影響はほとんどない。
・II度 障害が身体の両側にみられるが、日常生活に介助は不要。
・III度 明らかな歩行障害が現れ、バランスを崩し転倒しやすくなる。介助なしでなんとか日常生活は可能。 - 前述の訓練頻度が担保できる方(1ヶ月で16回実施)
- 症状が安定している方(服薬の調整ができている方)
- リハビリや自主訓練に意欲的である方
- 声かけによって、動作や声量の大きさに変化が生じる方
- 医師の判断により、LSVT®による改善が見込める方
(出典:パーキンソンスマイルネット パーキンソン病の重症度分類、北斗わかば病院 LSVT BIG® & LSVT LOUD®をもっと詳しく、たたらリハビリテーション病院 LSVT/公益社団法人 福岡医療団 たたらリハビリテーション病院)
実施内容については、LSVT Globalによると、複数の課題を組み合わせて行われます。詳細は以下を参照ください。
LSVT Global LSVT BIG®: パーキンソン病患者のためのエビデンスにもとづく理学/作業療法
LSVT BIGの実施場所
入院・外来・在宅など、医療機関や患者様の状態によって実施場所が異なります。
医療施設でのリハビリ(入院・外来)・チーム医療との連携
病院やリハビリ施設で標準的なリハビリテーションプログラムとして活用されています。
LSVT BIGは、作業療法士や言語聴覚士と連携することで、より包括的なケアが可能です。例えば、作業療法士が細かい動作の練習を補完し、言語聴覚士が発声トレーニング(LSVT LOUD)を組み合わせることで、患者の全体的な機能向上を図ります。
(参考:LSVT Global LSVT LOUD® 発話療法)
在宅リハビリでの応用
在宅環境での使用も可能で、患者が日常生活で取り組みやすいプログラムとして指導されます。家庭内の動作訓練を中心に、継続的にサポートすることで、患者が自信を持って日常生活を送れるよう支援します。
在宅でのプログラムでは、まず患者様自身の動作を動画で撮影して、現状の身体の動きを把握していただき、その後、実際の生活環境やスタイルに合わせて、「大きな動作」を取り入れた動作の提案などを行っている医療機関もあるようです。
さらに、環境調整や補助具の選定を行う際に、ご家族に対して「大きさ」に焦点を当てた介助方法や適切な声かけの提案なども実施しているようです。
(出典:リニエ訪問看護ステーション港 パーキンソン病に特化したリハビリテーションプログラム「LSVT®︎BIG」)
3.LSVT BIGの取得方法・国内で資格を活かせる職場
理学療法士がLSVT BIG認定資格を取得する方法と、国内で資格を活かせる職場について解説します。
資格取得の前提条件
理学療法士、作業療法士、または関連する医療資格を保有していることが条件です。学生も受講は可能ですが、学生が合格した際は、理学療法士、作業療法士などの資格取得後までは仮認定となります。
認定プログラムの形式
プログラムは柔軟に受講でき、世界中からアクセスが可能です。
取得のステップ
- ①基礎理論の学習:プログラムの背景や科学的エビデンスを学ぶ。
- ②実践トレーニング:動作分析や治療プランの実践方法を習得。
- ③ケーススタディ:患者事例に基づいた演習を通して応用力を養う。
- ④修了試験:理解度を確認するテストをクリアすると認定証を発行。
認定プログラムが受講可能な機関
国内外で複数の認定機関がコースを提供しています。日本では、関東圏と新潟リハビリテーション大学でワークショップが開催されており、以下のように記載されています。
・LSVTⓇは、その治療効果を国際的に維持するためにLSVT Globalによって登録商標化され、臨床家としてのLSVTⓇ施行には、LSVT Globalが主催する2日間のWorkshopに参加して認定を取得することが必要である。
・2日間のWorkshopでは、2日目に認定試験があり、その試験に合格した人に認定証が与えられる。認定を取得した者は、本人の希望があれば、LSVT Globalが管理するLSVT®認定取得臨床家名簿に名前を掲載される。この名簿は、LSVT®を必要とする世界各国の患者が、自分の身近に存在するPT・OT・STから質の高い正しいLSVT®を受けられることを目的としたものである。
新潟リハビリテーション大学 Lee Silverman Voice Treatment(LSVT®)とは?
認定プログラム定員
国内開催の場合、1回の講習につき定員100名程度(人数制限あり)。人気のプログラムで早々に定員に達してしまうことが多いようなので、定期的な情報のチェックと早めの申し込みが必要になりそうです。
認定プログラム日程
オンラインによる事前学習と対面講習会で構成されており、通常1〜2日間で完了。
認定プログラム参加費用
受講料の相場は50,000〜100,000円。直近の国内開催では以下のとおり。
●新規受講者:79,000円
●LSVT BIG認定資格既得者:40,000円
●学生:50,000円
認定プログラム更新要件
数年ごとに更新が必要で、更新には追加の講習と費用が必要です。詳細は以下を参照ください。
新潟リハビリテーション大学 LSVT認定資格の更新について(BIG・LOUD共通)Q&A
国内で資格を活かせる職場
病院やリハビリ施設、訪問リハビリを提供する在宅ケア事業所、またパーキンソン病の専門クリニックなど、幅広い職場で資格を活かすことができます。特に、高齢化が進む地域では需要が高まっています。
日本国内でLSVT®認定取得者(認定セラピスト)が在籍している施設は以下となりますので、参考にしてください。
新潟リハビリテーション大学 LSVT®リハビリテーションプログラムが受けられる施設一覧
4.理学療法士(PT)がLSVT BIGを取得するメリットとキャリアアップ
理学療法士(PT)がLSVT BIGを取得するメリットと、キャリアアップの可能性について紹介します。
高齢化社会におけるリハビリ需要の拡大
筑波大学神経内科は、パーキンソン病の患者数について以下のように述べています。
世界全体でも、パーキンソン病患者は増加しています。JAMA Neurology誌に、パーキンソン病が向こう20年間でパンデミック状態に移行していくとの論文が発表されました。(中略)2014年度のメタ解析 *4 と世界の人口の増加予測 *5 からパーキンソン病患者の総数を推計すると、2015年の患者数は690万人であるのに対して、2040年の患者数は1420万人と倍以上になります。
筑波大学 神経内科 パーキンソン病の患者数について
高齢化が進行する社会で、パーキンソン病患者やその他の神経疾患の患者数は増加しており、リハビリテーションのニーズはますます高まっています。LSVT BIG認定資格の取得は、その需要に対応できるスキルであり、リハビリテーションの現場での活躍の場を広げる武器となります。
専門資格としての信頼性向上
LSVT BIG認定資格を取得することで、パーキンソン病や神経疾患患者への専門的なリハビリを提供できる信頼性が高まります。この資格は科学的エビデンスに基づいており、患者や医療チームからの評価を得やすくなる点が魅力です。
国内外での活躍の幅を広げるきっかけに
LSVT BIGは国際的に認知されているプログラムであり、国内外を問わず、リハビリ分野でのキャリアの幅を広げられる可能性があります。特に、先進的なリハビリ手法を求める施設や患者に対して、資格保持者としての強みを発揮できます。
5.まとめ
LSVT BIGは、理学療法士がパーキンソン病患者をサポートするのに役立つ心強いプログラムです。この記事では、LSVT BIGの概要から資格取得方法、活用方法、そして患者や自分のキャリアにどう役立つかを詳しくお伝えしました。
この資格を取れば、患者さんの生活の質向上に貢献できるだけでなく、高齢化社会でますます必要とされるスキルを手に入れられるでしょう。ぜひ、LSVT BIG認定プログラムを検討し、次のキャリアステップを踏み出しましょう。
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