理学療法士(PT)が就職先として最も多いのは病院で、約半数以上の理学療法士が病院に勤務しています。新卒で病院勤務を選ぶケースも多く、日本理学療法士協会によると、2024年3月時点で会員139,556名のうち4,5161名が病院に在籍しています。

病院勤務には、仕事内容の多様さや平均年収、職場の忙しさなど、他の職場と異なる特徴があり、働きがいも大きい一方で、転職を考える方もいます。この記事では、病院勤務のメリット・デメリットやおすすめの転職先について解説します。

1.病院勤務の理学療法士(PT)の仕事内容

病院でのPTの仕事は、患者様が起き上がる・立つ・歩くといった基本動作の獲得に向けたリハビリの提供と、それに付随した業務も行う必要があります。

病院でのPTの仕事は大きく分けて以下の5つです。

  • リハビリプログラムの作成
  • 身体機能回復の訓練
  • 装具の選定や住宅環境の整備
  • 各種カンファレンスへの参加
  • 手術や入院前の評価

リハビリプログラムの作成

主治医からリハビリの処方が出されたら、まずは患者様の状態を把握するために理学療法評価を行います。評価の中には患者様の現病歴や既往歴、社会背景などカルテベースから得られる情報と痛みや筋力、関節可動域などPTが検査を行うことで得られる情報の2種類があります。

リハビリを提供する前に、しっかりと評価を行い、患者様の希望なども聴取した上でリハビリプログラムを作成することが重要です。多くの場合、評価結果や作成したリハビリプログラムは「リハビリテーション実施計画書」または「リハビリテーション総合実施計画書」という書類に簡潔に記載し、患者様に説明をした上でリハビリ開始の同意を得なければなりません。リハビリを提供する前に必ずチェックするようにしましょう。

身体機能回復の訓練

一般的に理学療法は運動療法と物理療法の2つを組み合わせて行います。

運動療法

患者様自身の体やその一部を使って、運動を行い身体の機能回復を図るのが運動療法です。

重錘やゴムバンドを使用した筋力強化や歩行や自転車エルゴメーターを使用した持久力訓練、ストレッチや関節可動域訓練も運動療法に含まれます。また、階段昇降や寝返り、起き上がり動作など生活に必要な日常生活活動(ADL)を繰り返し練習する訓練も運動療法の一環になります。

物理療法

温熱刺激や寒冷刺激、電気刺激や低周波刺激などを様々な機器を用いて患者様の身体に適応するのが物理療法です。

患部の痛みを緩和したり、浮腫や腫れを軽減したりするために選択されることがほとんどですが、運動療法の導入目的で使用されることもあります。

装具の選定や住宅環境の整備

患者様によっては生活や社会に復帰するにあたり、杖や装具、車椅子が必要になってくる場合があります。そういった場合、PTは福祉用具の専門業者や他職種と連携し患者様に適した物品の選定や使用方法の伝達などが求められることもあります。

また、回復期病院の場合自宅退院をする患者様がほとんどなので、退院に合わせて自宅環境の調査に赴き、環境整備などを行うこともあります。

各種カンファレンスへの参加

病院では一人の患者様に対し、医師や看護師をはじめ色々な職種が関わります。病院によっては定期的に患者様の状況を共有するためにカンファレンスが開催され、PTも参加する機会が多いです。

病棟での困りごとや退院後の生活についての検討など議題は様々ですが、PTの視点から意見を簡潔に伝えられることも求められます。

手術や入院前の評価

急性期の病院では、整形外科や呼吸器・消化器外科での手術を控えた患者様の術前評価をPTが行う所もあるようです。

術前の状態をあらかじめ把握することで、術後の目標設定や術後のリスク管理に役立てることができるため評価をするメリットは大きく、患者様としても術後の流れを把握できるので不安が和らぐ場合が多いようです。

このように、PTが病院で勤務するとリハビリ業務以外にもたくさんのことを経験できるのが特徴の一つですね。住宅環境の調査や術前リハビリは単位としての算定は難しいですが、リハビリ業務の一環として行われることが一般的です。

2.病院勤務の理学療法士(PT)の1日のスケジュール

一般的な病院勤務のPTの勤務時間は、9時に始業し18時頃に終業する場合が多く、リハビリ時間は、急性期の場合は20分、回復期では1時間です。

リハビリが主な業務内容となりますが、書類作成やカンファレンス、症例発表の準備などを行う場合もあります。

下記に、病院勤務の一般的なタイムスケジュールを整理しましたので、確認してみてください。

時間業務
08:30~09:00出勤+準備
09:00~09:15全体朝礼
09:15~09:30リハビリテーション科ミーティング
09:30~12:00リハビリ業務
12:00〜13:00昼休み
13:00~17:30リハビリ業務+書類業務+カンファレンス
17:30~18:00記録業務+終業

3.病院で働く理学療法士(PT)の平均年収と年収アップの方法

続いて、病院勤務のPTの平均年収と年収・給料の仕組みについて確認していきます。

病院勤務の平均年収は約432.5万円

令和5年に厚生労働省が公表した賃金構造基本統計調査(病院勤務以外の方の収入も含まれる)によると、PTの平均年収(作業療法士、言語聴覚士、機能訓練士含む)は約432.5万円であり、内訳は月給28.1万円×12ヶ月+ボーナス68.1万円となっています。

2019年に一般社団法人日本病院会らが発表した病院経営定期調査によると、病院で働く平均職員数は約450人でしたので、賃金構造基本統計調査のデータも企業規模が100人〜999人の事業所の年収に絞り、少しでも実態に近しいものにしました。

病院勤務の給料は上限が決まっている

病院の規模にもよりますが入院患者の定数も決められており、提供できるリハビリも上限があるため、病院勤務の給料はある程度決まってしまいます。

リハビリの上限は、厚労省によって日数・単位・点数が症例ごとに細かく定められており、一人の患者さんに提供できるリハビリの回数、従事者が提供できるリハビリの回数ともに規定があります。

令和2年度診療報酬改定の運動器リハビリテーション科を例にすると、1人の従事者が提供できる単位の上限は1日24単位までとなっており、週108単位というルールもあるため毎日24単位提供できるわけではありません。

つまり、病院側にリハビリを通して入る収益がある程度決まっている以上、PTへ支払われる給料の上限も必然的に決まってしまうのです。

大幅な年収アップは昇進か他業種への転職

大幅な年収UPを目指す場合には、次の3つの方法があります。

管理職への昇進

病院勤務の場合であれば、リハビリテーション主任などの管理職へ昇進する方法です。

一般的に管理職などへ昇進するタイミングは40代が多いため、それまでに職場全体やリハビリテーション科の状況を客観的に把握し、人を束ね的確な指針を示すスキルを身につけるようにしましょう。

マネジメント業務に関わる

病院のマネジメント業務に関わる方法もあります。メインがリハビリ業務ではなくなりますが、これまで培ったコミュニケーションや分析スキルを駆使して経理や経営の業務を行ってみるのも良いでしょう。

独立・開業を検討

思い切って独立・開業を検討するのも手かもしれません。アメリカでは、PTの開業が法律で認められていますが、日本ではPTに開業権はありません。

したがって、柔道整復師など他の資格を取得したり資格を保有する方を雇ったりして独立開業してみるのも良いでしょう。

4.理学療法士(PT)が病院勤務するメリット・魅力

職場を決める際に重要な判断材料になる魅力について確認していきましょう!

理学療法士(PT)は病院勤務から始める人が多い

新卒のPTの多くは、病院勤務から始める方が多いです。新卒・既卒を問わず、PTの勤務先としては病院が最も多いと言われており、日本理学療法士協会の統計情報より2023年3月末時点で、136,357名の会員のうち約6割に当たる81,590名が病院に在籍していることがわかっています。

新卒PTの病院勤務が多くなる理由としては、前述してきたようにさまざまな病期や症例の患者のリハビリを担当でき、知識や経験を積めるからです。

また、病院は近くに医師がいたり勉強会を多く開催していたりと、スキルアップしやすい環境が整っているというのも魅力の一つと言えます。

したがって、新卒や経験が浅く「多くのことを学びたい!」というPTには、病院勤務が人気なのです。

病期や症例の幅が広い

PTが病院勤務をする最大の魅力は、さまざまな患者と関われる点です。病院の場合は、入院・通院患者がリハビリの対象になり、年齢や性別も千差万別なため幅広い症例を経験できる機会があります。

入院患者の多くは、受傷から間もなく医学的管理下にあるため、リハビリ中に急なバイタル変化や病状の悪化などもあります。

そのため、リスク管理に十分注意する必要があり、PTとしてのスキル以外にも医学的な知識も重要となります。

また、急性期や回復期といった様々な病期を経験できるのも病院勤務の魅力の一つと言えます。

多くの病期や症例を経験できることは、多くの患者様のADL(日常生活動作)やQOL(生活の質)を上げるためのスキルにも直結するので、PTとしてのやりがいにもなるでしょう。

数多くのスタッフと関わる

病院勤務では、整形疾患や呼吸器疾患など、さまざまな症例や病期の患者様のリハビリを担当します。

そのため、医師や看護師、介護士、医療ソーシャルワーカー、栄養士など、さまざまな職種のスタッフと関わる機会が多くなります。

他職種との連携を通して、情報共有能力やコミュニケーションスキルが自然と身につくことも魅力と言えます。

5.理学療法士(PT)が病院勤務するデメリット

PTに限らず医療業界では、業務時間が長く不規則になることがあります。レポートや勉強会、催事などが多いため年末年始といった固定の休みが少なく残業時間も長くなってしまう場合が多いです。

特に、病院勤務の場合はセラピストの人数や他職種も多いため、積極的に勉強会などに取り組んでいることが多く、他業界の友人とのスケジュールが合わないといったこともざらです。

しかし、多く時間を費やした分だけ自分自身のスキルとなりPTとして患者様に還元できるので、とてもやりがいを感じられるでしょう。

6.まとめ

今回は、病院勤務の理学療法士(PT)について紹介してきました。

勤務時間は9時-18時が一般的ですが、レポート作成といった業務や勉強会などのスキルアップの時間も含めると残業が長くなる傾向にあります。しかし、その分得られる経験やスキルも多く、PTとして大きく成長できる環境と言えるでしょう。

病院勤務の平均年収は、約432万円とされ、単位や入院患者の定数などが決まっているため、PT業務だけでは大きな年収UPは狙いにくいです。そのため、管理職への昇進やマネジメントスキルの獲得などが、収入を増やすポイントになってきます。

病院勤務の魅力は、急性期や回復期など様々な病期と症例の患者様のリハビリを担当するため、短期間で多くの経験を積める点です。他職種と連携してチーム医療を提供する機会も少なくなく、技術面以外のレベルアップも期待できます。

病院勤務では、他の施設よりも短期間で多くのことを経験できるため「スキルアップしたい!」「理学療法士として成長したい!」という方には、特におすすめの環境と言えるでしょう。

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