心臓リハビリテーション指導士(通称:心リハ指導士)は、循環器疾患を抱える患者に対し、運動療法や生活習慣改善の支援を行い、心疾患の治療や再発予防、生活の質(QOL)向上に貢献する専門資格です。
この資格は日本心臓リハビリテーション学会が認定しており、理学療法士や作業療法士などがスキルアップを目指す上で人気があります。取得には臨床経験や学会活動への参加などが求められますが、専門知識と技術の向上、キャリアの幅の拡大、医療現場での信頼性向上といった多くのメリットがあり、心臓リハビリ分野でのキャリア形成を目指す方にとって、大きなステップとなる資格です。
この記事では、心リハ指導士の資格について、基本情報や資格取得までの流れ、難易度が高いとされる理由などについて解説します。
目次
1.心臓リハビリテーション指導士とは?
心リハ指導士の概要の前に、日本の現状について確認しておきましょう。
令和5年に厚生労働省が発表した日本における主要な死亡原因の上位3位は次の通りです。
- 第1位:悪性新生物
- 第2位:心疾患
- 第3位:老衰
(出典:令和5年(2023)人口動態統計月報年計(概数)の概況)
心疾患は日本における死亡原因の第2位に位置しており、その原因としては肥満、高血圧、高血糖、脂質異常症などの生活習慣病が挙げられます。また、高齢化社会が進行していることも心疾患の発症に影響を与える重要な要因です。日本は2054年には超高齢社会に突入し、国民4人に1人が75歳以上の高齢者になると予測されています。この傾向により、心疾患による死亡者数は今後さらに増加すると見込まれています。
心臓リハビリテーション指導士とは
心リハ指導士は、日本心臓リハビリテーション学会が2000年に認定した資格で、心臓リハビリテーションの普及と質の向上を目指しています。2023年9月時点での有資格者数は7,373名で、資格取得後は5年ごとの更新が必要となります。
(出典:日本心臓リハビリテーション学会 本学会の現状)
この資格が生まれた背景には、再灌流療法やCCU(集中治療室)の普及、心臓手術の進歩による早期の回復が可能になったことがあります。これまでは心臓の調子を整えることが主な目的でしたが、最近では心臓病の再発を防ぐための、より広範囲なリハビリが求められています。そのため、運動療法に加え、食事療法や禁煙指導など、生活習慣を改善する支援が重要です。
心臓リハビリでは、医師、看護師、理学療法士など、さまざまな専門職が連携するチーム医療が必要で、心リハ指導士は、共通の知識や用語を共有することで、チーム医療を円滑に進める役割を担っています。このような状況を背景に、心臓リハビリテーションの重要性が増し、これからの社会でその活躍の場が一層広がることが予想されます。
(出典:日本心臓リハビリテーション学会 心リハ指導士とは?)
2.心リハ指導士になるには?取得までの流れと必要な期間
心リハ指導士になるには、複数の条件をクリアし、認定試験に合格する必要があります。取得までの過程は決して容易ではないため、これから目指す方は、内容を十分に理解しておく必要があります。
受験申請から認定証発送までのスケジュール
例年おおむね以下のスケジュールとなっているようです。
- 4月:受験申請・書類提出
- 6月:選考書類結果の合格発表(6月上旬)・講習会受講(1部・2部 6月下旬)
- 7月:筆記試験
- 8月:合格発表(学会および指導士HP)
- 9月:認定証発送
参考までに第25回の日程を記載します。
募集人員 | 800名 |
出願期間 | 2024 年 4月5日(金)~ 4 月 22日(月)必着 |
関連講習会 | 2024年4月6日(日)、4月14日(日)※どちらかの日程に参加 |
講習会 | 2024 年6月30日(日)9:00~17:30 ※オンライン開催 |
筆記試験 | 2024年7月15日(月・祝)12:30~13:30 |
受験に必須の4条件
日本心臓リハビリテーション学会によると、心臓リハビリ指導士資格認定試験を受験するためには、以下の4条件を満たす必要があります。
- ①本委員会主催の講習会を当該年度に受講していること。
認定試験を受けるためには、学会が主催する講習会(一部・二部構成)への参加が必須です。新規受験者は、該当年度に講習会を受講することで受験資格を取得できます。
第25回の講習会の構成は以下のとおりです。
●講習会第一部
•総論 運動生理学
•運動心臓病学
•運動処方 心リハプログラム(急性期・心臓術後)
•運動処方 心リハプログラム(回復期・維持期)
•救急処置・安全管理
•心肺運動負荷試験実習
●講習会第二部
•総論 病態生理・診断治療
•栄養学
•臨床心理学
講習会受講は原則必要ですが、4月に実施される「関連講習会」を受講し、受験当日当該講習会受講証明書の原本を提出した場合、6月開催の第一部は免除されます。
- ②医師、看護師、理学療法士、臨床検査技師、管理栄養士、薬剤師、臨床工学技師、臨床心理士、公認心理師、作業療法士、あるいは健康運動指導士のいずれかの資格を有していること。
- ③申請時に本学会会員であり、申請時の直近2年以上継続して会員歴があること。(申請時期は4月中旬頃から2週間程度)
受験時から通算で2年間は受験資格として認められないため、5月以降に入会した場合は、2年後の4月に行われる受験には申し込みができず、注意が必要です。
- ④心臓リハビリ指導の実地経験が1年以上あること、または心臓リハビリ研修制度により受験資格認定証の交付を受けていること。
心臓リハビリの実務経験は、日本循環器学会が発行した「心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン」の要件を満たすことが前提です。実務経験がない場合でも、心臓リハビリ研修制度を受けて受験資格認定証を取得していれば、受験資格が認められます。また、実務経験を証明するためには、所属長または部門長による推薦状が必要です。
(参考:研修制度について、2024年度研修制度募集要項)
申請書類
前述の4条件に加え、以下の書類提出が求められます。
- 表紙チェックリスト
- 受験・講習会受講申込書
- 推薦状
- 受験資格に該当する資格を証明する書類(例:資格免許証などをA4サイズに縮小したコピー)
- 受験資格認定証のコピー(実務経験がなく研修制度を利用した場合のみ)
- 受講票用の証明写真(サイズ:4.5cm×3.5cm、写真2枚、裏面に氏名記載)
- 自験例報告書(10 症例)
募集要項や書式は毎年変更されますが、該当年度のフォーマットでない場合や記載漏れがある場合は書類不備となり受験できないため、申請年の3月頃に掲載される募集要項をしっかりと確認するようにしましょう。
(出典:日本心臓リハビリテーション学会 新規受験に必須の条件、第25回募集要項)
10症例報告書の内容によって、受験資格が得られるか決まる
申請書類を提出すれば受験できるわけではなく、試験前に「自験例報告書(10 症例分)」をもとに「受験資格の適正を判断するための書類選考」が行われます。つまり、報告書の内容によって試験を受けられるかどうかが決まります。
レポートでの評価のポイントは以下のとおりです。
• 第三者が一読することで、その症例を理解できるかどうかが重要である。
• 心血管疾患を理解・評価していること。
• 心臓リハにおけるリスクの評価をしていること。
• 適切に運動耐容能を評価していること。
• 運動耐容能評価をもとに、科学的な運動処方をしていること。
• 疾患・心血管リスク・背景に準じ、患者に適切な指導をしていること。
また、募集要項には以下のように記載されています。
心臓リハビリテーション指導士認定試験は、心臓リハビリテーションの経験と知識が十分あることを証明するための試験です。経験について証明するものが自験例報告書です。そこでは、様々な心疾患に対して標準的な心臓リハビリテーションを実施してきたことを証明できていなければなりません。
第25回募集要項
上記のように、急性期や維持期などでの運動療法や食事療法を含む総合的なリハビリの実施を示す必要があります。維持期のみや運動療法のみといった偏った内容のレポートを提出してしまうと、受験資格を得られない可能性があるため、幅広い症例を網羅した報告書を作成することが重要です。
10症例報告書の注意点は以下となります。
•所定の様式(A4用紙)にパソコンで入力する(手書き不可)
•原則1症例につき1枚でまとめる(まとめきれない場合は、両面コピー、フォントサイズは12ポイント)
報告書の作成は、予想以上に時間がかかる場合が多いようです。受験を決めたら少しずつ準備を進めておくと効率的ですし、万が一提出した症例が不合格になった場合に備え、様々な症例を多めに準備しておくことも重要です。
記載例は学会の公式サイトで確認できますので、事前にチェックし、余裕を持って取り組むようにしましょう。身近に合格者がいる場合は、実際の報告書を見せてもらうのも良いでしょう。
(参考:症例報告の書き方、症例報告書注意事項)
心リハ指導士試験の出題形式と合格ライン
出題形式は以下のとおりです。
問題形式 | マークシート |
回答方式 | 5つの選択肢から該当する1つまたは2つを選択 |
試験時間 | 60分 |
問題数 | 50問 |
受験するうえで、試験の時間配分が重要となります。単純に計算すると、1問あたり約1分程度で解くことになります。しかし、わからない問題の再確認や、解答用紙の確認に時間を使うと、実際に1問にかけられる時間はおおよそ30秒ほどになります。よくある例としては、「最初にゆっくり解きすぎて、後半に時間が足りなくなった」や、「マークシートの確認ができず、間違えて記入してしまった」というケースです。試験の合格には、1問ごとの配点が大きく影響するため、事前に時間配分を決めて、効率よく解答することが非常に重要です。
合格ラインについては、第2回の講評によれば、合格点は60点と設定されていたものの、試験の平均点は毎年異なるため、以降の試験で明確な合格点は発表されていないようです。ただし、例年の試験では平均点が60点~70点台で推移しているため、80点以上を取得していれば、ほぼ合格ラインに達していると考えられます。(出典:第25回募集要項)
心リハ指導士筆記試験の出題傾向と対策
出題傾向については、以下のように記載されています。
試験内容は「心臓リハビリテーション必携」と「日本循環器学会」などの各種ガイドラインから主に出題されますが、それらに含まれていなくても時々のトピックスからも出題されます。テキストや直前の講習会は心臓リハビリテーション指導士として知っておかなければならないことが示されているものであり、ここ以外から試験問題が作成されないわけではありません。運動中の病態生理・運動処方や食事療法は必ず出題されますが、これらの項目はテキストや直前の講習だけではカバーされない可能性もあります。幅広い知識が必要です。また、心疾患の病態、検査所見の読み方、薬物療法なども、心臓リハビリテーション担当者として知っておかなければならないことは出題される可能性があります。
第25回募集要項
講習会ではテキスト「心臓リハビリテーション必携」を使用するため、講習会・試験前の購入が推奨されているようです。
受験費用
受験にかかる費用は以下のとおりです。
合計:25,000円
(内訳)
• 審査料:15,000 円
• 講習会参加費用:10,000円(1部:6,000 円、2部:4,000 円)
(出典:第25回募集要項)
3.心リハ指導士試験の難易度と職種別の合格率
資格認定における試験の難易度が高いといわれている心臓リハビリテーション指導士ですが、気になる合格率の推移と職種別の合格率を見ていきましょう。
過去5年間の合格率の推移
以下は過去5年間の合格率の推移です。
- 第25回:80.6%
- 第24回:70.9%
- 第23回:78.7%
- 第22回・第21回:75.5%
- 第20回:73.5%
(出典:第25回心臓リハビリテーション指導士認定試験講評、第24回、第23回、第21回22回、第20回)
心臓リハビリテーション指導士認定試験の合格率は、毎年70〜80%の範囲で推移しており、最近の試験(第21回、第22回)から第16回までの平均合格率は約75.8%となっています。この数字はやや高めの傾向にありますが、受験者の職種によって合格率に差があり、特定の職種では認定試験の難易度が高くなることもあるようです。
職種別の合格率
第25回の職種別の合格率は以下のとおりです。
合格率 | 合格者数(名) | 不合格者数(名) | |
医師 | 100% | 118 | 0 |
看護師 | 62.3% | 33 | 20 |
理学療法士(PT) | 79.3% | 375 | 98 |
臨床検査技師 | 100% | 4 | 0 |
管理栄養士 | 50% | 1 | 1 |
薬剤師 | – | 0 | 0 |
臨床工学技士 | – | 0 | 0 |
臨床心理士 | – | 0 | 0 |
作業療法士(OT) | 68.6% | 24 | 11 |
健康運動指導士 | 50.0% | 5 | 5 |
合計 | 80.6% | 560 | 135 |
職種別の合格率には大きな差が見られます。例えば、医師や臨床検査技師は100%の合格率を誇る一方、健康運動指導士は50%という低い合格率となっています。この差の理由としては、各職種の担当する業務内容や臨床経験に違いがあることが挙げられます。したがって、試験に合格するためには、多職種が関わる業務内容やその関連知識・技能を十分に理解しておくことが重要です。
4.理学療法士が心リハ指導士を取得するメリット
PTが心リハ指導士をめざすメリットや資格取得によって実現可能なことについて紹介します。
専門性を活かした患者支援
心リハ指導士の資格を取得することで、PTとしての専門知識をさらに深め、運動療法や生活習慣改善の提案を通じて患者一人ひとりに寄り添った支援が可能になります。特に心臓病の再発予防や生活の質向上に貢献できる点は、大きなやりがいを感じる部分といえるでしょう。
チーム医療でのリーダーシップの発揮
心臓リハビリテーションは、多職種が連携するチーム医療が不可欠です。心リハ指導士の資格を持つことで、チーム内での信頼や役割が明確になり、リーダーシップを発揮してチーム全体を牽引する機会が増える可能性があります。
高齢化社会での需要増加
高齢化が進む現代において、心臓病や生活習慣病を抱える患者は増加傾向にあります。その中で心臓リハビリテーション指導士の資格は、将来的にますます需要が高まる分野であり、キャリアの幅を広げる強みとなります。
5.理学療法士が心リハ指導士取得を活かせる職場
PTが心リハ指導士を活かして働ける職場は、以下のとおりです。
病院(循環器内科、リハビリテーション科)
心リハ指導士の資格を持つことで、循環器内科やリハビリテーション科で専門的な役割を担えます。患者のリハビリプログラムの設計や実施、他職種との連携を通じて質の高い医療を提供できます。
介護施設や訪問リハビリ
高齢化社会において、介護施設や訪問リハビリでも心臓リハビリの需要が増えています。施設入所者や在宅患者に対して、生活習慣改善や運動指導を行い、日常生活の質向上を支援できます。
心臓リハビリ専門クリニック
心臓リハビリテーションに特化したクリニックで、運動療法や健康指導の専門家として活躍できます。専門クリニックでは、より個別化されたケアを提供できるため、資格を活かした専門性を発揮しやすい環境です。
6.理学療法士の心リハ指導士取得によるキャリアアップの可能性
PTが心リハ指導士を取得することによるキャリアアップの可能性について紹介します。
チーム医療のリーダーとして活躍
多職種が連携する心臓リハビリの現場で、リーダーとしてチームをまとめる役割を担うことができます。専門的な知識を活かし、患者ケアの質を高めるだけでなく、チーム全体の効率的な運営に貢献できるかもしれません。
専門知識を活かして教育や研究の分野へ
医療従事者や学生への教育活動や、心臓リハビリの効果を検証する研究に携わることで、医療分野全体の発展に寄与することができます。講師としてセミナーや学会に参加する機会も広がります。
リハビリの新規プログラム開発に携わる
高齢化や多様化する患者ニーズに対応するため、新しいリハビリテーションプログラムの開発に関わることができます。運動療法だけでなく、食事やメンタルヘルス支援を組み込んだ統合的なプログラムの提案も可能です。
7.理学療法士として心リハ指導士を目指す課題
PTが心リハ指導士をめざすうえで課題となり得ることは以下のとおりです。
試験対策と臨床の両立
資格取得を目指すためには、日々の臨床業務に加え、試験勉強や講習会への参加が必要です。前述のとおり、心リハ指導士の場合は筆記試験だけでなく症例報告書の提出があるため、計画を立てて進める必要があります。
継続的な学習の必要性
資格取得後は5年ごとの更新が必要となるため、資格を維持するためには継続的な学習や研修が必要です。学会への参加や定期的な更新手続きが求められるため、学び続ける姿勢が重要です。
(出典:心臓リハビリテーション指導士の資格更新について)
8.まとめ
心リハ指導士の資格は、PTとしてさらなる高みを目指す大きなステップとなります。この資格を取得することで、運動療法や生活習慣改善支援など専門性をより深め、心臓病の再発予防や患者の生活の質向上に貢献できる存在になれるでしょう。それは、医療従事者としてのスキルを磨くだけでなく、高齢化社会においてますます必要とされる社会的意義のあるキャリアを築く道でもあります。
資格取得に向けた学習や試験準備は、決して簡単な道ではありません。しかし、その努力はきっと大きな成果となり、自分自身の成長や、患者、そして医療チームへの貢献として実を結ぶはずです。
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