ヒトが怪我や病気をした後に、理学療法士(PT)が日常的に提供しているリハビリテーションが動物にも適応されるということをご存知でしょうか?
獣医療も高度化している昨今、動物に対する理学療法のニーズも高まりを見せています。この記事を読まれている方の中にも、動物への理学療法に興味をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
今回の記事では動物に対して理学療法を提供する「動物理学療法士」の仕事内容や、実際に現場で活躍するために必要なこと資格やスキルなどについてまとめてみました。ぜひ参考にしてみてください!
目次
1.動物理学療法士とは?
まずは動物理学療法士という職業の歴史や資格、役割について見ていきましょう。
動物理学療法士の歴史
動物に対するリハビリテーションは1970年代に国内で初めて馬に対するリハビリが提供されたのが始まりだと言われています。そこから獣医療の発展とともに、動物に対するリハビリテーションの必要性が認識されはじめ、小動物のリハビリテーションが取り入れられ始めたようです。
(出典:動物に対する理学療法の現状と展望 信岡尚子 理学療法学 第 45 巻第 4 号 281 ~ 288 頁 2018年 P281 最初のパラグラフより)
2008年に「日本動物理学療法研究会」という理学療法士(PT)による団体が設立され、その後、2013年に日本理学療法士協会内に「動物に対する理学療法部門(現在は動物に対する理学療法部会へ変更)」が新設されています。
(出典:日本動物理学療法研究会、日本理学療法士協会|職能活動|部会活動|動物に対する理学療法部会)
この頃より、理学療法士が動物に対するリハビリテーションへ従事する動きが見られるようになり、その活動は徐々に広がってきているようです。
動物理学療法士という資格について
結論からお伝えすると、動物理学療法士という資格は日本には今のところ存在しません。
国内で獣医療に携わる国家資格は2つあり、一つは獣医師、もう一つは2023年に第1回目の国家試験が実施された愛玩動物看護師のみとなっています。
(出典:日本理学療法士協会 動物に対する理学療法部会 代表運営幹事ご挨拶より、日本理学療法士協会HP|動物に対する理学療法部会|代表運営幹事挨拶文)
日本動物理学療法協会という団体のHPでは動物理学療法士という名称が使用されているのが確認できますが、動物理学療法士という名称はあまり一般的には使用されていなのが現状です。
(出典:日本動物理学療法協会HP)
国外に目を向けてみると、動物理学療法士という名称を設けている国、その名称の使用を認めていない国など様々であり、資格の取得方法や業務規定なども異なっているようです。
(出典:動物に対する理学療法の現状と展望 信岡尚子 理学療法学 第 45 巻第 4 号 281 ~ 288 頁 2018年 P282 最初のパラグラフより)
本記事では「動物に理学療法を提供するもの」という意味で動物理学療法士という言葉を扱わせていただきます。
動物理学療法士の役割と仕事内容
動物理学療法士が働く現場となるのは動物病院やクリニックがほとんどであり、その役割は獣医師の指示のもと、怪我や手術をした動物の体の機能を回復させるためのストレッチや関節可動域訓練、マッサージなどの徒手療法がメインになってくるようです。
施設によっては電気刺激などを用いた物理療法やプールなど利用した水治療法、動物用のトレッドミルなどを利用した歩行や走行練習なども行われています。
日本動物理学療法研究会のホームページにあるQ&Aによると、動物理学療法の対象となる動物は問わず、理学療法やリハビリテーションが必要な動物であれば全て対象となると明記されています。
しかし、日本では動物理学療法の対象とし犬が圧倒的に多いようです。様々な獣医クリニックのHPを概観しても、犬への介入場面がピックアップされていることも多く、犬への介入がほとんどになってくることが予想されます。まれに猫やウサギなどを対象として診療をおこなっている病院もあるようです。少数ですが、馬のリハビリテーションに従事しているPTの方もいらっしゃるようです。(出典:日本動物理学療法研究会 FAQ Q6. 動物理学療法の対象は犬だけですか?)
2.動物理学療法士になるには?
理学療法士が動物たちにリハビリを提供できるようになるためにはどのような条件が必要なのでしょうか?簡潔にまとめていますので、一緒に確認していきましょう。
獣医師資格や愛玩動物看護師などの国家資格を取得する
一つ前の章で獣医療に関わる国家資格は獣医師と愛玩動物看護師の2種類であるということを紹介しました。この2つの資格に関してはその教育過程(大学や専門学校)で動物のリハビリテーションに関する知識を学ぶことになるため、資格をとってしまえば動物の理学療法に関わることが可能です。
最近では動物理学療法学科を開設した専門学校(取得できる資格は学校により異なる)などもあるようなので、そういった学校への入学を検討するのも一つの手になってくると思います。
(出典:国際動物専門学校HP)
特定の団体が開催しているセミナーや講習会に参加し民間資格を取得する
動物理学療法に関しては国内外に様々な資格が存在しています。それらの資格を取ることで動物理学療法士として活躍できる知識が技術を取得できる可能性もあるためいくつか紹介しておきます。
Certified Canine Rehabilitation Therapist(CCRT)
米国のCaine Rehabilitation Instituteという団体が発行する犬のリハビリテーションに関する認定資格です。アメリカ、イギリス、オーストラリアなどでセミナーが開催されていますが、日本国内での受講できないようです。受講するためにはいずれかの開催地に赴き、受講、インターンシップなどを受ける必要があります。
(出典:CCRT)
Certified Canine Rehabilitation Practitioner(CCRP)
こちらは米国テネシー大学が発行する犬のリハビリテーション施術者のための認定資格になります。CCRPのセミナーはアメリカの他に日本でも受講が可能なようです。
(出典:CCRP、日本語サイト)
動物理学リハビリ国際協会APRIA認定の動物リハビリ資格
動物理学リハビリ国際協会APRIAが開設しているスクールに入学し、学習を進めることで取得できる資格になります。上級資格を取得することで動物(犬)のリハビリテーション施術者として現場で活躍できる知識や技術を身につけることができるようです。
(出典:動物リハビリ国際協会HP)
プロフェッショナル馬理学セラピスト
エクイエンス株式会社が提供している馬のリハビリセラピストを養成するコースになります。馬に特化したリハビリテーションを提供するために必要な知識や技術を身につけることが可能なようです。日本では数少ない養成施設になっています。
費用や学習期間については資格によって異なってきますが、専門知識を学んで早く現場で活躍したい方にとっては効率的な方法となってくるのではないでしょうか。
(出典:エクイエンス株式会社HP)
現場で経験を積みながら知識や技術を取得する
すでに理学療法士の資格を取得している場合は思い切って現場に飛び込み、最初は獣医師や動物看護師の方の助手のような形で働くことで、動物に対するリハビリテーションの知識を学びながら、動物理学療法士を目指すという方法もあるかと思います。
動物に対する理学療法のセミナーは日本理学療法士協会の動物に対する理学療法部会が主催となって開催されることもあるため、そのようなセミナーを活用しながら実践知を高めていくのも良いかもしれません。
3.動物理学療法士に必要なスキルと向いている人は
この章では動物理学療法士になるために必要なスキルや、どのような方が向いているかについて紹介していきます。
動物の解剖学や疾患に関する医療知識
ヒトに対する理学療法を提供する上でヒトの解剖学や疾患に関する知識が必須なように、動物の骨格や筋肉、疾患や手術方法などについても知識は必ず必要になってきます。
関節の動きや構造などはヒトと異なることはもちろんですが、動物の種によっても骨格や関節の動きなどが変わってくるのでしっかりと学ぶ必要があるでしょう。
動物への愛情と観察力
動物理学療法士になりたいという方の大半は動物が好きな方だと思います。普段から動物に愛情を持って接している方がほとんどだと思うので、動物も心を開いてくれることが多いでしょう。
一方で、動物は言葉を持たないため、その症状や感情を尋ねることは困難です。そのため、その動物が抱えている問題や、こちらが提供するリハビリテーションに対する反応などを仕草や鳴き声などから判断しなければなりません。そのためにも、ちょっとした変化にも気づくことができる観察力が必要になってくるでしょう。
獣医師や飼い主と連携できるコミュニケーション能力
動物に理学療法を提供する際、獣医師や動物看護師との連携はとても大切です。現在の日本の法制度の中では動物に対する理学療法に関する記載はないものの、動物の診療を行えるのは獣医師のみであることが明記してあります。
動物に対し理学療法を提供することは違法行為ではないものの、内容によっては診療に該当する可能性もあり、その場合は法に触れることとなります。ヒトに理学療法を提供する場合同様、自分の身を守りながら、しっかりとした効果を挙げるためにも獣医師の指示をしっかりと仰ぎながら適切な理学療法を提供することが肝要です。
また、飼い主の方とのコミュニケーションも必須です。獣医師からの指示だけでなく、飼い主の方の希望や目標を聴取しながら介入を進めていくのが望ましいでしょう。
(出典:日本動物理学療法研究会 FAQ Q2 Q3)
4.動物理学療法士の魅力
これまでは動物理学療法士の仕事内容や動物理学療法士になるために必要なことなどを紹介してきました。こちらの章ではその魅力について触れていきます。
動物の機能回復に携われる喜び
動物理学療法士は動物の機能回復に携わる仕事になります。足がうまく動かせるようになったり、より速く歩けるようになったりと動物自身が元気になっていく姿を目にすることで、大きなやりがいを感じることができるでしょう。動物だけでなく、その飼い主からも感謝される存在になれるはずです。
理学療法士(PT)としての職域拡大の可能性
小動物に対するリハビリテーション分野への注目が高まるにつれ、そのニーズも今後増してくることが考えられます。そのニーズの高まりから、2023年度より愛玩動物看護師が国家資格として新たに設立された背景もあり、今後PTの新たな専門分野として法整備がされる可能性もありそうです。
現状、国内で動物理学療法士として活躍しているPTはごく僅かであり、今から一歩を踏み出すことで、この分野を牽引する存在として活躍の場が広がってくるかもしれません。
(出典:日本動物リハビリテーション学会 会長挨拶より)
専門分野への特化
動物理学療法を提供しているクリニックの中には、理学療法を提供する目的別にメニューを分けて提供している所もあるようです。ヒトに対する理学療法と同様に、動物理学療法も専門分野へ分化した場合、動物理学療法の中でも専門性をもつことができるかもしれません。また、動物毎に専門性を持つことができる可能性も出てきそうです。
5.動物理学療法士の課題
こちらの章では動物理学療法士について考えられる課題について触れていきます。
専門的な知識を取得するためのハードルが高い
動物理学療法士として現場で活躍したい場合、愛玩動物看護師や動物理学療法を学ぶことのできる専門学校などに通うか、前述した民間資格を得るためのセミナーや学習コースを受講することが必要です。
同学科を開設している専門学校はまだまだ少なく限られてくる上に、各団体が開催しているセミナーや学習コースも長期間にわたる上に受講料もそれなりにしますので、ハードルは高いと言えるでしょう。
経済的な課題
動物理学療法士として獣医院やクリニックに勤務している方の情報を検索すると、非常勤職員として勤務している方が多い印象です。そもそも動物理学療法士という職業が確立されていないこともあり、動物理学療法士1本で生活していくのは難しいのが現状だと言えるでしょう。理学療法士、または愛玩動物看護師として仕事をしながら、動物理学療法士として活躍するための学習を進めるのが良いでしょう。
6.動物理学療法士に関するよくある質問
最後に動物理学療法士に関してよくある疑問について紹介しておきます。
動物理学療法士になるのにどれくらいの期間が必要?
こちらの質問に関してはどの資格を取得してから動物理学療法士になるかで変わってきます。獣医師であれば6年間の大学での勉強に加え、国家試験に合格する必要がありますし、愛玩動物看護師の資格取得には最低3年間の専門学校での学習と国家試験合格が必要です。
理学療法士を取得している場合はCCRTやCCRPなどのコースを受講することで専門知識の学習はすることができます。それでも何十時間にも及ぶオンライン講習と実習をこなす必要があり、働きながら資格取得を目指すのにはそれなりに覚悟が必要そうです。
加えて、資格を取得した後も、動物理学療法士として独り立ちするまでには実践で経験を積む必要もあるため、数年単位での時間は要するでしょう。
未経験からでも目指せる?
現在動物理学療法士として活躍されている方も未経験からスタートしている方がほとんどのようです。もともと理学療法士の資格を持っており、動物に対する理学療法に興味を持った段階で、各種セミナーや資格取得のためのコースを受講するなどして知識を蓄積しながら実際の現場で研鑽を積むというのが動物理学療法士になるための王道コースと言えるのではないでしょうか。
どのように仕事を探せば良い?
インターネットで検索すればいくつか求人募集を見つけることは出来ました。しかし、まだまだ求人の数が少なく、自力で探すのには苦労をしそうです。専門知識を学ぶ過程で受講するセミナー講師や実習先の指導者の方の力を借りるのも選択肢の一つになってきそうです。
7.まとめ
今回は動物理学療法士について、仕事内容、資格取得方法、仕事のやりがいなどについて紹介させていただきました。
動物に対する理学療法はまだまだ発展途上の分野であり、実践例も少ないためアクセスできる情報も少ないのが現状です。一方で、そのニーズは高まりを見せているため、理学療法士の活躍が期待できる分野でもあります。
仕事として自分のものにするためには動物に関する専門知識やスキルを身につける必要があり、かなり労力を要するかもしれませんが、そのハードルを乗り越えた先には素敵な未来が待っている可能性もあるので、興味のある方はぜひ挑戦してみてください!
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